vol.22 スキルよりも正しい決断
文■座間健司
僕が見たスペインの下部組織のトレーニングで、指導者が選手たちに最も"コーチング"する場面は選手が状況や局面を見て、正しいプレーを決断できなかった時だ。
対峙するディフェンスの姿勢、相手のチームのポジショニングに対して、数ある選択肢の中でどのプレーが最も有効か。指導者は選手が間違っていると思ったら、すぐさま修正する。トレーニングでは何度も手本を示し、修正を繰り返す。
たとえばディフェンスを背負ったピヴォに当てる。パスを出した選手はオーバーラップし、ピヴォを追い越す。
この時ディフェンスが中を切っていれば、オーバーラップした選手へヒールパス。ディフェンスは中を切っており、ヒールパスをカットできない。一方、ディフェンスがオーバーラップを気にし、サイドに身体を向けていたのであれば、オーバーラップした味方をおとりに中へ切れ込み、シュートを打てばいい。
焦点はひとつ。パスを受ける時、もしくは受ける前に自分をマークするディフェンスの身体の体勢、ポジションどりを把握しているかどうか。トレーニングでも機械的にヒールパスや中に切れ込むことを繰り返しているわけではない。実際にディフェンスをつけて、そのディフェンスの体勢によって、選手が的確なプレーを決断できるか。その決断力、判断力を養うためのトレーニングをしている。
スキルよりも正しい決断ができるか、どうか。そこに指導の重きが置かれている。
UEFAフットサルカップ決勝ラウンドを取材している。
前回王者のバルセロナはエリートラウンド初戦でハンガリーのベレチョーウーイファルと対戦した。ハンガリーの選手たちはバルセロナよりも身体は大きく頑丈で、シュートは強く、ドリブルは速かった。しかし、彼らは自分たちの特徴を活かせず、前半になす術なく4点を奪われた。ハンガリーの選手たちはバルセロナの選手たちを捕まえられなかった。駆け引きで逆を突かれ、何度もあざむかれた。
ハンガリーの選手たちがもしスペインの下部組織のトレーニングに参加したら、指導者から多くの"コーチング"を受けることになるだろう。
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