vol209 「スーパーゴールで代表招集確定」に違和感

文■座間健司

 日本代表が12月にクロアチア代表と親善試合を行うことが発表された。この発表の席でミゲル・ロドリゴ監督がひとりだけメンバー入りを確約した選手がいたようだ。エスポラーダ北海道に所属する室田祐希だ。理由は先日のクウェートで行われたコンチネンタルカップ2014のグアテマラ戦でのヒールリフトの得点だという。動画投稿サイトに掲載された室田のゴールシーンは200万回以上再生されており、そんな彼を招集しないわけにはいかない、というのがミゲル・ロドリゴの考えのようだ。
 
 日本を指揮するスペイン人指揮官は話題づくりが巧みだ。2012年ワールドカップで横浜FCに所属するサッカー選手、三浦知良を招集したことを覚えている人は多いだろう。三浦知良を招集したことで、フットサル日本代表はかつてないほどの注目を浴びた。

 今回の室田の招集確約もそういった狙いがあるのだろうが、違和感はぬぐえない。グアテマラという格下相手にヒールリフトを決めた。その後に「大会を通してすばらしいパフォーマンスをしていたし、Fリーグでもずば抜けていた」という大前提があれば、納得できる。ただ“世界中で多くの人が目にしたゴールを決めた”だけで招集が確約されたのならば、同意できない。室田はブラジル、チェコ、そしてグアテマラ戦で誰よりもいいパフォーマンスしたのか。Fリーグで北海道のユニフォームを着る室田のプレーは、誰が見ても代表招集が“確約”されるほどの質が高く、図抜けているのか。その前提がないから、僕は違和感を覚える。代表チームとは常にメンバー選考の競争があるのではないか。その都度、最も代表の勝利の可能性を高められる14名が選ばれるべきチームなのではないか。大会のパフォーマンスではなく「注目を集めるゴールを決めたから選ぶ」という趣旨の発言は聞き捨てならない。大体Fリーグにだって、動画が世に出回らないだけで、スペクタルなゴールを決めた選手はいるのではないか。本人にもちろんその意思はないだろうが、ミゲル・ロドリゴの発言は代表を夢見るFリーガーのモチベーションを低下させてないだろうか。

 室田のヒールリフトはスペインの全国スポーツ紙『アス』のデジタル版でも取り上げられていた。「フットサル史上最高のゴールか?」というタイトルがつけられた。美しい得点は世間のフットサルへの関心をかき立てる。普及にうってつけの広告だ。注目を浴びることは喜ぶべきことだ。

 しかし、派手なゴールとその選手の実力はイコールではない。大きな話題になるのはいい。大歓迎だ。だからといって見誤ってはいけない。室田がヒールリフトを決めた相手は格下で、ゲームには何のタイトルも懸かっていなかった。

 ファルカンは2007年全米選手権決勝・アルゼンチン戦でゴレイロの頭上を抜くゴールを決めた。リカルジーニョは2007年欧州選手権準決勝・スペイン戦でオーバーヘッドを叩き込んだ。正真正銘の名手たちはタイトルの懸かったビックゲームで、重要なゴールを観衆が最も喜ぶスペクタクルな形で奪った。

 将来室田がビックゲームで、彼らのように勝負を左右する決定的なゴールをスペクタクルな形で決める選手になることを期待したい。このゴールが、その序章となることを期待したい。



プロフィール
座間健司(ざまけんじ)
1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中からバイトとして"フットサルマガジンピヴォ!"の編集を務め、卒業後、そのまま"フットサルマガジンピヴォ!"編集部に入社。2004年夏に渡西し、スペインを中心に世界のフットサルを追っている。"2011年フットサルマガジンピヴォ!"休刊。2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。

 

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