vol.13 「スペインはフットサルを細かく定義し、深く掘り下げる」
   スペイン産日本人監督・渡邊健インタビュー・その1

文■座間健司
写真提供■渡邊健

 スペインにはフットサル指導者ライセンス制度がある。ライセンスには4段階ある。 

 1番最初に取得できる資格は指導員だ。指導員の資格を取得すると地域リーグ、育成年代のチームの指導、監督としてベンチに入ることができる。

 次に取得できるの指導者ライセンス・レベル1。レベル1を取得すると全国リーグ4部、ユース全国リーグ、女子2部リーグのチームの監督として公式戦の指揮を執ることができる。

 指導者ライセンス・レベル2を取得すると全国リーグ3部、女子全国リーグ1部のクラブの監督として公式戦で指揮することができる。

 指導者ライセンス・レベル3を取得すると全国リーグ1、2部と代表チームの監督として公式戦でベンチで指揮することができる。

 もちろん飛び級はなく、たとえばレベル3を受講するにはレベル2の資格を有している人しか受講資格はない。
 
 2013年夏に指導者ライセンス・レベル3の集中コースが行われ、日本人指導者が初めてレベル3を取得した。フットサルの監督になるためにスペインに訪れ、バルセロナを拠点に指導者の勉強をしていた渡邊健、その人だ。

 渡邊は現在スペインの全国リーグ4部に属するCE AHLENA HOSPITALETの監督を務め、在籍するスペイン人や外国人選手を指導。対戦相手のスカウティング、自分たちのゲームのビデオ編集などチームを向上させようと努めている。

 スペインが生んだ日本人監督にスペインの指導者ライセンス制度について、そしてスペインのフットサルについて話を聞いた。

スペイン代表監督が指導するレベル3

ーー(スペインのフットサルライセンス制度)レベル3の習得、おめでとうございます。
「ありがとうございます」

ーー習得するのに何年かかったんですか?
「2007年7月にスペインに来たので、ちょうど6年になります。レベル3のコースが終わったのが7月23日だから6年と10日かかってレベル3を取得しました」

ーースペインに来た時にはもうスペイン語を話せたんですか?
「ゼロですね。NHKスペイン語講座を3か月間だけ(笑)だけど最初は何言っているか、全くわからなかったですね」

ーースペインの指導者としてのキャリアはどう始まったんですか? 最初のチームはどこだったんですか?
「勉強という意味で今年セグンダB(2部 ※実質3部)で3位になったエスコラピア・サバデルに初年度はいました。日本にある代理店に頼んで、そこのトップチームに帯同するという形で始まりました。そしたらその後にたまたまそのクラブがチャビ・クロサスと契約して、彼と出会いました。ただクラブ全員がカタルーニャ語をしゃべるっていうところと結局1年じゃフットサルも言葉もよくわからなかったので次の年もスペインに残ろうと思い、チャビも移籍すると言うし、彼について行ってもうちょっと勉強しようと。そしてもう1年いるんだったら何かやろうってことで指導者の資格をとろうと思いました。レベル1、レベル2は続けて取得できるっていうのを知ったので、スペインにあと2年はいることを決めたんです。ただレベル2をとった後も、正直レベル3までは取得できるとは思っていませんでした。第1監督としてチームを指導していなければいけないという条件がありましたから」

ーーレベル3を受講するには条件があったんですね?
「そうです。年間180日間以上、第1監督をこなさなければいけません。それはベンハミン(8-9歳)からトップとカテゴリーに関係なく、チームを率いる。もしくはレベル3が必要なチームの第2監督をやる。1部のチームか、2部のチームの第2監督を180日間以上やれば取得資格は得られるんです。ただ僕みたいな外国人が監督をやれる機会はないと思っていたから正直にレベル2までしか無理かなって思っていましたけど、運がよかったんですね。頑張っていたらそういう出会いがあって、第1監督としてチームを率いる機会をいただいて、今年の夏にレベル3を受講できることができたんです」

ーーレベル1は基礎的なところ、レベル2からだんだん専門的なことを学んでいくのかなって想像しているんですけど、実際はどんな講義をやっているんですか?
「一言で言うとレベル1は『目的を定める』レベル1で1番大事なことは僕はそれだったと思っています。つまり何事も練習を組むにあたって目的がなければいけない。ただトレーニングがあって、それが何を求められたトレーニングなのか知らずにただ『いい練習だ』って聞いてやるのは意味がない。結局、『チームにとって何が必要か?』この練習はどういう要素を持っていて、チームの何を良くしたいからのやるか。それをきっちり指導者側が理解していて、トレーニングすることが大事だと学びました」

ーーチームとしてのプライオリティーを決めて、それに合わせたトレーニングをしていくってことですね? 
「そうです。いいトレーニングだからって自分のチームのレベルはまだその段階ではないのに無理やりそういうことをさせて、結局怒る監督とかいるかもしれないですけどそれでは意味がない。トレーニングの難易度を変えて、選手たちに伝えるか。トレーニングさせるか、を学びました。レベル2は今度はいかにトレーニングを計画化していくか。運動生理学では年間計画をつくり、トレーニングメソッドではプレシーズンを計画しました。戦略、戦術面ではひとつの戦術をテーマにこれをチームにどう段階的に浸透させていくか。そういうプランを考えたりしていました。目的があるトレーニングをいかに計画化していくか。それがレベル2でした。そしてレベル3だと本当にその計画の細部まで、みっちりディティールを求められました。ディティールまで突き詰めて、トレーニングを計画化していくものでした」

ーーレベル3の受講時には元スペイン代表のダニエルもいたんですよね?
「いましたね」

ーーまた講師はスペイン代表監督のベナンシオ、第2監督のフェデですか?
「はい、そうですね。あとはすごい感銘を受けたのは心理療法士の方で元スペイン女子バスケットボール代表監督で、アントニオ・カマーチョがレアル・マドリッドの監督だった時の心理療法士の代表だった人です。すごい印象に残っています。いかに選手のモチベーションを試合に向けて、チームとしていい状態に持っていくか。モチベーションをあげるだけではない。たとえば、モチベーションがあがっているのにさらに上げようとしても意味がない。あえて選手たちにストレスを与えるとか、その使い分けを色々と学びました。スポーツ心理学は面白かったですね。フィジカルトレーニングではサッカーチームのヘタフェの元フィジカルコーチが来たり。講師はそれぞれの分野でスペシャリストの方ばかりで1か月週6日でスペインサッカー協会の施設で受けていました」

ーー1か月ですけど1日どのくらい講義があるんですか?
「午前は9時30分から15時。昼間休みは1時間半しかなくて、午後は16時半から20時ですね。きつかったです。1日は大体3科目で午前1科目で午後2科目でした」

ーー戦術とかはベナンシオが講師なんですね?
「ベナンシオは本当に厳しい監督で細かいですね。コーチングをすごく大事にしている人なので多くの質問を受講者にしていました。質問をしてちょっとでもキーワードが出るとその説明になりました。またベナンシオとフェデはちょっとでもエラーがあると絶対に見逃さない。本当にすごいですね、あのレベルになると。受講者のひとりが監督となって、トレーニングを行うですが『そこは違うだろ』とミスがあるとすぐに彼らが指摘します。『このトレーニングは指導者が求めるものまで到達していないのではないか?』と話し、どこの点が欠けているか、理由を示し、的確な説明をします。経験もあるので、本当にすごいと思いました」

1流の監督とは?

ーー1流の監督はやはり違うものですか? 何が違うんですか?
「細かい。あるものを定義して、それを深いところまで掘り下げている部分が日本とは違う。たとえばカウンター。カウンターを細分化してます。カウンターのスタート地点とか、相手ゴールまでの距離とか、相手ディフェンスの数とか。人数によってカウンターでも呼び方を変えたりとか。そこまで細分化した上で『では今日はどの部分のトレーニングをしていこう』って決めているわけだから」

ーーなるほど。ひとつのプレーを細分化した上でチームに足りないところをピンポイントでフォーカスし、トレーニングをしていく。
「そうですね。たとえばね、カウンターも3つ分かれています。最初の出だし。奪ってからどこにパスを出すか。もしくはどこにドリブルをするか。あとはフィニッシュまでにどういう過程を歩むのか。そしてフィニッシュ。どういう形でシュートを打つか。細分化してトレーニングする。彼らは『カウンターの練習をしましょう』ではなく『カウンターのこの部分を練習しましょう』となります」

ーースペインでは下部組織から資格を持った人間が指導し、トップカテゴリーに上がってくる選手たちはエリートなわけで、チームの足りないところを教えればいいだけであって、1から10まで教える必要はないわけですよね。自分のチームのストロングポイントを伸ばすのか、ウィークポイントを克服するのか。それは各監督によってやり方は違うと思いますけどトップカテゴリーに到達する選手は細分化してもついて来れるってことですよね? 
「スペインが日本と比べて優れているなと思う点は監督が毎年替わることが多い環境にあり、それぞれがラインセンスを持っていなければいけない。だから選手たちは皆は戦術もある程度は理解しています。ようするに選手たちは毎年違った角度から、違った内容でアプローチする指導者と共にトレーニングしているから、それだけ選手の戦術視野の幅が広がっていく。どんどん上にいくほど新たなチームの監督から教わっていなくても、これまでに指導を受けているからどんな戦術でもプレーできる。その頭の柔らかさ、戦術、戦略の幅がどんどん広がってくるのが大きな違いだなって思いますね。スペイン人の選手はフレキシブルです。
 たとえば『テクニックがある』って言いますよね。日本人選手はそのテクニックを伸ばすトレーニングをしているけど『そのテクニックをいつ使うのか?』という個人戦術の部分がすごく疎かになっていると思います。トラップも巧い。ただ、どんな状況の時に、いつどういう姿勢でパスを待って、どうボールにアプローチしてトラップをするのか。そこまで『トラップ』にしても掘り下げられないといけない。日本はきっとそこの部分が疎かになっていると思います。だから巧いんだけど、試合になると活躍できない選手が多いのはそれが要因になっているいんじゃないかなって思います」

ーー小さな頃からの戦略的なトレーニングが足りないっていうのはよく聞きます。つまり条件がつけられたトレーニングで試合よりも困難な状況でトラップができるようにする。誰もいないところで速いパスをうまくトラップできると「巧い」ってなります。だけどディフェンスがいる試合の中で速いパスを正確にトラップできなければ意味がないですもんね。また相手がいてこそのスポーツですからね、フットサルは。
「そうですね。日本人はあまりにもカラーコーンとかディフェンスがいない状態でトレーニングをし過ぎたために『この状況ではどういうトラップをすればいいのか?』っていうことをよく考えていない。スペインで言う個人戦術が足りていないと思いますね」

ーードリブルにしてもそうですね。いかにすごいものを持っているかもしれないけど、試合の中で使えなければ意味がない。
「そうだと思います」

ーースペインの選手たちはできているからこそ、レベル3というライセンスの習得になるとそういう細かいところまで掘り下げていくことになるんですかね?
「ただベナンシオとかフェデはそれでもスペインにはまだ戦術理解度がそのレベルまで達しいてる選手の数が少ないと言っていますね。結局、スペイン人選手たちも頭で理解するというよりも感覚でやっている部分がある。それはスペインではリーグ戦があり、試合数が多いから、プロになるためにはそういう個人戦術を体得しなければいけない。ただ、試合の中で感覚的に養っていく部分っていうのはあるのかもしれないですね。日本はスペインと比較すると下部組織からの試合数は格段に少ないと思いますし、同じ指導者から同じトレーニングを受けていることも多く、違う視野から物事を見る機会が少ないので、その部分の能力を伸ばすことができているのか、疑問があります」

ーーそれがスペインのフットサルの強さの要因ですかね?
「僕は指導者と育成年代の充実がスペインフットサルの強さの秘訣だと思います。やっぱり毎週試合があるのは大きいですよね。プレベンハミン(6-7歳)から5対5で20メートル×40メートルのコートでの試合がある。コートがその年代の子供たちにはあっていないけど、大人になった時に完成された選手になっていればいいからフットサルはそれでもいいんじゃないかって僕は思うようになりました。子供の時はゲームになっていないですけどね」

ーー僕は7-8歳のカテゴリーはカステジョンにいた時によく見ましたけど小学校の校庭にあるバスケットコートでやっていましたね。
「あぁ、それは理想的なサイズだと思いますね」

※インタビューは2に続きます。

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スペインフットサルライセンス・レベル3の資格取得の合宿参加者16名。前列左端が渡邊健。後列右から2人目は元スペイン代表ダニエルも参加していた。


今シーズンからはCEアハレーニャ・ホスピタレの第1監督を務める渡邊。元プロフェッショナルの選手が多い全国リーグ4部というカテゴリーで第1監督としてチームを指揮する。

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【プロフィール】
渡邊健(わたなべ・けん)
1978年03月01日生まれ、長崎県出身。

2006年08月ブラジル弾丸ツアーに参加。本格的に指導者の勉強を始める。
2006年11月スペイン旅行にて留学を決意。
2007年07月スペイン・バルセロナに渡る。

2007-2008 シーズン
CLUB ESPORTIU ESCOLA PIAトップチーム(全国リーグ3部) 帯同
CE AHLENA HOSPITALETサテライトチーム(地域5部) 練習生

2008-2009シーズン
HOSPITALET BELLSPORTトップチーム(全国リーグ3部) 主務
スペインフットサルコーチライセンス レベル1取得

2009-2010シーズン
HOSPITALET BELLSPORTトップチーム(全国リーグ3部) 主務
HOSPITALET BELLSPORTインファンティル(12-13歳) 第2監督
スペインフットサルコーチライセンス レベル2取得

2010-2011シーズン
HOSPITALET BELLSPORTトップチーム(全国リーグ3部) 主務
HOSPITALET BELLSPORT育成GKコーチ

2011-2012シーズン
HOSPITALET BELLSPORTトップチーム(全国リーグ2部) アシスタントスタッフ
CE AHLENA HOSPITALETサテライトチーム(地域3部) 第1監督

2012-2013シーズン
CE AHLENA HOSPITALETサテライトチーム(地域3部) 第1監督
スペインフットサルコーチライセンス レベル3取得(最高レベル)

2013-2014シーズン
CE AHLENA HOSPITALET トップチーム(全国リーグ4部)第1監督



プロフィール
座間健司(ざまけんじ)
1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中からバイトとして"フットサルマガジンピヴォ!"の編集を務め、卒業後、そのまま"フットサルマガジンピヴォ!"編集部に入社。2004年夏に渡西し、スペインを中心に世界のフットサルを追っている。"2011年フットサルマガジンピヴォ!"休刊。2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。

 

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