vol.10
新欧州王者で生まれたルール議論
新欧州王者が決まった。
4月26日から28日まグルジアで行われたUEFAフットサルカップ決勝ラウンド。優勝したのはカリアト・アルマティーだった。
結果は以下のとおり。
■決勝
ディナモ・モスクワ 3-4 カリアト・アルマティー
■3位決定戦
イベリア2003トビリシ 1-4 バルセロナ
■準決勝
イベリア2003トビリシ(グルジア) 2-5 ディナモ・モスクワ(ロシア)
カリアト・アルマティー(カザフスタン) 5-4 バルセロナ(スペイン)
アルマティーは昨季のファイナリストを倒して、欧州王者に輝いた。準決勝でディフェンディングチャンピオンに勝利し、決勝では昨季準優勝のディナモ・モスクワに勝利した。
カザフスタンのアルマティーが初制覇
新欧州王者はカザフスタンのクラブでUEFAフットサルカップの常連だ。彼らはメンバー14名のうち8人がブラジル人だ。今年1月にはこの大会のために元ブラジル代表ピヴォのベットンとフィクソのエウレルを補強していた。監督は現役時代にスペインなどでプレーし、アルマティーでも選手だったブラジル人監督のカカウだ。このブラジル人指揮官の戦略が2試合とも大当たりした。その戦略とはパワープレーだ。カカウ監督は足元が巧みなブラジル人ゴレイロのイギータをオンプレー中に相手陣内に攻め上がらせた。前半から突然パワープレーが始まる。この作戦は効果的だった。ディフェンスに混乱を招くだけでなく、力が上の対戦相手の攻撃のリズムをも奪っていたのだ。バルセロナ、ディナモ・モスクワはゲームの主導権を握っていたが、パワープレーを仕掛けられるとディフェンスをしなければならず、パスを回す時間は奪われ、攻撃のリズムをつくれなかった。相手チームの攻撃のリズムがいい時によくファウルを受けて、大げさに倒れる選手がいる。彼らの目的は試合を中断させることによって、相手のペースを乱すことだ。アルマティーはパワープレーをすることによって、実力差が上のチームにいいリズムをつくらせなかった。
イギータのパワープレーはスコアにも結びついている。アルマティーは2試合とも前半にパワープレーからゴールを奪ったのだ。攻撃にも効果的だった。
アルマティーのブラジル人指揮官はUEFA.comでこう語っている。
「勝てるとは思っていなかった。1か月、バルセロナを勉強してきた。誰にも負けないくらい勉強した。彼らの試合は全て見た。そしてディフェンスしている時にバルセロナは問題を抱えていた。だからイギータを使ったプレーは勝因となったんだ。だけど最も大事だったのは私たちがディフェンスの仕方を知っていたことだ」
優勝監督の言うとおりパワープレーもそうだが、バルセロナとディナモ・モスクワの攻撃を抑えたアルマティーのディフェンスも勝因のひとつだったことを忘れてはいけない。
ディナモ・モスクワのティノ・ペレス監督はUEFA.comに決勝についての感想をこう漏らしている。
「彼らの準決勝と全く同じでした。パワープレーによって試合がもう1度壊されました。だけど自分たちもチャンスは掴んでいたと思います。私たちはとてもナーバスになっていたし、パワープレーの解決の術を知らなかった。前半はいい試合の入り方ができていませんでした。特にパワープレーに対してです。それが試合の鍵だったと思います。こういった状況を解決するために戦略面を学ばなければいけません」
敗軍の将は最後にこうコメントを結んでいた。
「最終的に勝ったチームが正当な勝者です」
ディナモ・モスクワの攻守の軸であるブラジル代表のタトゥーはこう述べている。
「パワープレーの違いだった。準決勝のバルセロナと同じことが起こった。イギータのプレーに対して、トレーニングは1日しかできなかった」
パワープレーで大きな役割を果たしたイギータ。彼は幼少はフラメンゴやフルミネンセなどサッカーをプレーし、18歳からフットサルを始めた。ポルトガルのベレネンセなどでプレーをして、1シーズン前からアルマティーでプレーをしている。決勝を前に「パワープレーをするか?」と質問されたブラジル人ゴレイロはUEFA.comにこう答えている。
「監督の指示に従うまでです。ゴールを守っていろと言われれば、守っていますよ」
カカウ監督のパワープレーを活かした戦略とコートでその策を忠実に実行した選手たちの勝利だった。
議論のテーマはルールについて
スペインではこの結果はちょっとした議論を呼び起こした。
アルマティーは本当に今大会最も優れたチームだったのか?
パワープレーがなければ、彼らは勝てなかったのではないか?
人それぞれ好きな色があるように、フットサルにも好みの戦い方がある。僕はアルマティーのような戦い方は好きではない。両者が見せるパスワーク、プレス回避の攻防がこのスポーツの醍醐味。そう僕は考えている。だから両者の攻防を断ち切るようなパワープレーは好みではない。
しかし、このスポーツはスコアを争うもので、美しいパスワークを競うものではない。「大会で最も優秀なチームはどこか?」と問われれば考えなければならないが、勝者はひとつしかいない。ティノ・ペレスがコメントしているように「正当な勝者はアルマティー」だった。彼らの勝利に文句をつける人間はない。その戦略に対して「アンチフットサルだ!」なんてお門違いの発言をする人もいない。ルールが許しているのだ。戦う上で違反ではない戦略を使わない手はないのだ。ルールの範囲内で行なっていることを批判する人間がいるとすれば、それは間違っている。
この試合内容と結果を受けて、スペインで議論となったのはルールについてだ。元スペイン代表のキケもこれを機会に自身のフェイスブックでルールについての議論を呼びかけていた。
スペインでは2004-2005シーズンまでローカルルールで行われていた。コーナーキック、キックインはスローイン。ゴールスローはハーフウェイラインをノーバウンドで越えてはいけなかった。
FIFAが定める国際ルールにしてからは一時、得点数が減った。手ではなく足でボールを入れる分、セットプレーからアクロバティックなプレーは消え、得点のバリエーションも減った。ルールがこのスポーツをつまらなくしていると考えるスペイン人は多く、だからこそルールに対するこだわりは強い。
パワープレーをもっと制限すべきではないか?
コーナー、キックインをスローインにすべきではないか?
クリアランスでーで相手陣内へノーバウンドでスローするのは少なくとも育成世代では禁止にすべきではないか?
いろんな意見がある。
フットサルは生まれてから約20年だ。まだ若い。このスポーツはさらに魅力的になる可能性を秘めている。だからまだフットサルはルール改正を積極的にどんどん行うべき時期だと僕は考える。
たとえばロシアでは現在、25分ハーフという独自のルールで行われている。ベンチ登録は14名で必ず2名下部組織の選手を入れることを義務づけている。よって各監督は1試合で3セットを試すことができるので、戦略のバリエーションは増え、なおかつ若手には出場機会が与えられている。観衆も合計10分試合時間が伸びるから満足していると聞いている。
どんなルールがフットサルにはベストなのか?
まだまだ試すべきこと、議論すべきことは多くある。
あなたは現行のルールに満足していますか?
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