vol.8
ブラジル代表監督は世界で1番報われない職業
ワールドカップ決勝翌日、バンコクを流れるチャオプラヤー川をフェリーで横断する。スペイン代表が宿泊しているヒルトンから対岸のシラトンへ。行先には世界王者が宿泊している。
連覇を達成してから18時間。セレソンの指揮官の眼の下は黒かった。前夜の終わりのない祝宴のせいだろうと予想したが、外れた。もちろん祝宴は明け方まで続いたが、マルコス監督はたっぷりと睡眠をとった。それでも1夜ではワールドカップで蓄積した疲労とストレスでできたくまはとれなかった。相手チームのスカウティング、そして何よりもブラジル代表を指揮するという重圧が、彼を快眠から妨げていた。
決勝戦で敗れたスペインは2大会連続で敗者となっても讃えられた。スペインで最も発行部数が多いスポーツ新聞「マルカ(MARCA)」は1面で同国代表の表彰式の写真を載せ「ブラボー!」という見出しを打った。
一方、ブラジルはどうだったか。
もし連覇をしていなければ、フットボール大国はきっとマルコスを断罪していた。大会中、彼はずっと批判にさらされていたという。試合内容に、プレーのクオリティにブラジルのメディアは常に不満を抱いていた。ブラジルで決勝戦は地上波が2チャンネル、そして有料放送が1チャンネル、生中継で伝えていた。テレビではマルコスの采配、チームが批評された。彼の監督経験の少なさもよく槍玉に挙がっていたという。テレビ3局が同時中継する。その注目度の高さゆえの重圧。マルコスが疲弊するのは容易に想像がつく。
そんな中、ワールドカップのテレビ解説をしていた前代表監督ペセだけはマルコスの指揮を常にポジティブに捉えていた。それがマルコスにとっては支えになっていたようだ。ペセが連盟との意見の食い違いセレソンの監督の座を離れた時に両者の関係は決して良好とは言えないものになったが、ペセはマルコスの仕事をしっかり評価していた。
ただ連覇を達成しても、マルコス監督の座は安泰ではない。結果を残しつつも、美しく魅力的でスペクタルなフットサルをしなければならない。それがセレソンの宿命だ。国民は美しく勝てなかったことに不満を覚えているのだろう。
1月9日付でポルトガルの『フットサル・グローバル(http://
www.futsalglobal.com.pt)」というサイトに「マルコスが2013年1月末でセレソンの監督を辞める」というニュースが掲載された。記事によればブラジルフットサル連盟からは24日に正式に発表されるという。ただ同記事内で第2監督のバンデル・ヤコビーノの「契約延長を進めている」というコメントも載っていた。まだはっきりとはしていないのだろうが、ブラジル代表監督が代わる可能性は高い。
多くの批判にさらされながら、ワールドカップを連覇しても解任される可能性があるなんて、ブラジル代表監督は輝かしくもなんて過酷な職業なんだろうか。
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