第6回「質素だが、それがいい。」


「ゼロからのリスタート」

という言葉を使えば、前向きな印象も受けるが、現実は、もっと苦しいものだろう。Fリーグ大洋薬品オーシャンアリーナカップ2011の開幕前、僕はそう予想していた。

ステラミーゴいわて花巻の話である。

Fリーグ過去4季は、最下位、最下位、9位、最下位という散々たる結果。さらに、クラブ運営に関しても問題を抱えていた。そんなチームがこのオフに、経営陣を刷新し、監督や主力選手を放出した。

今季のチームに全国的なスター選手はもちろん不在で、ほとんどが無名選手。選手として偉大な功績を残した相根澄監督も、監督としてのキャリアはゼロである。

まさにゼロ、無い無い尽くしの花巻に対して、疑念は募っていた。

「今季も最下位確実だろう」
「フウガのほうが強いんじゃないか」
「いや、フウガだけじゃないだろう」
「関東リーグに花巻が入ったら、何位になれるのか」

一方で、東日本大震災の影響による同情的な見方もあった。

オーシャンアリーナカップ開幕前の花巻に漂っていたものを、一言で表現するなら、「悲壮感」だったのではないかと思う。

迎えたオーシャンアリーナカップ2日目、準々決勝、北海道戦。

試合前の整列で、真っ先に目が行ったのは、とてもシンプルな花巻のユニフォームだった。

他のFクラブ、いや、草フットサルチームのそれと比べても、質素なほうだと感じた。

そして、その質素なユニフォームが、今季の花巻には、合っているとも思った。

最初は、花巻の現状に重ね合わせた、ネガティブな意味でだ。

しかし、試合が進むに連れ、その意味合いは変わっていった。

ピッチ上で、花巻の選手達は、何かに抗うように、必死に戦っていた。

例えばそれは、「今季も最下位確実」という前評判に対して。
例えばそれは、「Fクラブとしての価値」を問う声に対して。

とにかく走り回った。寄せる、助ける、切り替える、というフットサルの走りの基本を、誰もがしっかり行なっていた。

セット替えで起用される無名選手達のユニフォーム背中には、選手名がプリントされていない。そのため、背番号と手元のメンバーリストを照らし合わせなければならなかった。

チーム同様、まだ選手達のキャラクターは立っていない。

花巻の選手達のがむしゃらなプレーは、自身のキャラクターを誇示しようとしているようにさえ映った。

「このユニフォームで、自分達の名前を、新しく作っていこう」

日本初のプロチームがスタートしたとき、当時の監督が、選手達に伝えた言葉だ。

同じように、花巻の無名選手達は、あのユニフォームを、背番号を、自分のアイデンティティにしようとしている。

ならば、あの質素なユニフォームは、今の花巻に合っているのではないか。

もちろん、これは、ポジティブな意味でだ。

「ゼロからのリスタート」

この言葉も、少しずつ前向きな印象へと変わっていった。

ピッチ上で躍動する選手達に、ベンチ一丸となって戦うチームに、悲壮感は漂っていなかった。

名古屋のように見る者を唸らせるようなフットサルではなかったが、個人的には好感の持てる戦いぶりだった。

ただし結果は、1-3の敗戦だった。そして、シーズンは始まったばかりである。

試練はこの先も続く。

負けが続いても、失点が続いても、花巻は折れることなく走り続けることができるだろうか。

それができれば、いつか、見る者の心を打つ、かもしれない。

試合後の会見で、キャプテンの後呂康人は、次のように話した。

「今回の試合をするにあたって、岩手のいろいろな人達に『頑張って』という言葉をいただきました。岩手代表として戦っているので、いい結果を報告できるように、1シーズンを通して責任を持って戦いたいと思います」

素晴らしいコメントだと思った。だからと言って、「花巻最下位」という予想を覆すつもりはない。

ただ、予想と期待は違う。

今は、「"1シーズンを通して"責任を持って戦いたい」という後呂の言葉に、一心不乱に走り続ける無名選手達に、オーシャンアリーナカップ以前よりも、僕は遥かに期待している。

高田 宗太郎プロフィール
1982年1月6日生まれ、神奈川県出身。2004年春、東海大学工学部を卒業。在学中にフットサルの魅力に取り憑かれ 、卒業と同時に当時唯一のフットサル専門誌だったフットサル マガジンピヴォ!の編集者になる。2006年春からは編集チーフを任され、2008年3月に4年務めたピヴォ!を退社。以降、フットサルライターとして活動中。モットーは「フットサルに対して謙虚であれ」。
高田 宗太郎氏が副編集長を務める、フットサル界初の電子書籍型マガジン「ファイブ」絶賛発売中!!
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