第2回「ガッツポーズの意味」

オーシャンアリーナカップの準々決勝、名古屋対府中戦。

「名古屋にいたときから、名古屋と試合がしたいとずっと思っていた」と、前日の会見で話した上澤が大車輪の活躍を見せた。

試合が進むにつれ、上澤貴憲という選手のプレーに引き込まれていったのは、僕だけではないだろう。

記者席でも、上澤のプレーには驚嘆の声が漏れていた。

ベストメンバーを揃えた名古屋に府中が肉薄する。

そして、32分。

森拓郎の同点ゴールに、上澤はガッツボーズをして見せた。

まるで自分が会心のゴールをきめたかのような大きなアクションだった。

だが、残り24秒で失点した府中は名古屋に敗れた。

敗戦後、僕の目は上澤を追っていた。

整列時の悔しそうな表情。

元チームメートとの握手。

アジウとの一瞬の談笑。

府中ベンチ前での涙。

ガルチェッリ監督の包容。

そして、名古屋サポーターからの上澤コール。

「上澤、オットコ前だなー」と、他の記者に話しかけた僕の声はちょっとうわずっていた。

正直、涙が出そうだった。

そんな僕の熱狂をよそに、上澤は次のように試合を振り返った。

「僕自身は全然ダメでした。情けないです」

そして続けた。

「若い選手が気持ちを出して戦ってくれた。彼らが名古屋相手にやれるんだという感触をつかんでくれたことが、この試合の収穫です」

全然ダメなはずがなかった。

若手選手が戦えたのは、上澤のプレーに「名古屋相手でもビビるな、やれるんだ」というメッセージが込められていたからだ。

「チームを牽引する」という言葉がピッタリのプレーと振る舞いだった。

上澤は、ものすごい排気量で、チームを引っ張っていた。

やはり印象に残ったのは、同点ゴールのときに見せたガッツポーズだ。

ディフェンスを引きつけ、アシストのアシストをした上澤は、ピッチ中央で力一杯握った拳を振り下ろし、全身で喜びを表現していた。

サッカー日本代表の中村俊輔がゴールを決めたあとに行なうゴールパフォーマンスに似ていた。

しかし、用意していたポーズではないからだろう。

上澤のガッツポーズは、すごく自然に見えた。

中村俊輔と違うのは、自身のゴールではなく、チームメートのゴールを喜んだガッツポーズだったことだ。

チームメートのゴールに、しかも、自分がアシストしたわけでもないのに、上澤は我がゴールのように喜んでいた。

名古屋時代は、上澤自身がもっと素晴らしいゴールをしても、あんな風に喜ぶことはなかったと思う。

高西クラッシャーズ(現アルティスタ埼玉)時代の上澤を僕は知らない。

だから、上澤という選手は、淡々と仕事をこなすクールな人間だと思っていた。

だが、上澤のこのガッツポーズに、驚き、感動したのは僕だけではなかった。

記者席でも話題になり、ピッチ脇にいたカメラマンも驚いていた。

上澤が、このようなガッツポーズをしたのには理由がある。

「昨日の花巻戦でもチームが得点した時は喜んでいました。花巻は去年のFリーグで最下位ですが、僕らはその下なので、どのチーム相手でも格上相手挑戦するという気持ちでやっています。

 去年は名古屋で挑戦を受ける立場でやっていましたが、今は挑戦する立場なので、1試合1試合勝てるかどうかという状況でやっていますし、毎試合ドキドキ感みたいなものがあるので、そういう意味では楽しいです」

挑戦を受ける側から、挑戦する側へ。

立場の変化が、1ゴール、1勝に対する心境を変化させたのだろう。

そもそも、常勝・名古屋オーシャンズから、新規参入の府中アスレティックへ移籍し、優勝が使命付けられていないチームでプレーするのはどんな気持ちなのだろうか。

浦安とのプレシーズンマッチのあとに聞いた言葉を思い出した。

「府中では、名古屋のときよりも、勝たないといけないという気持ちを強くもたないといけない。

 名古屋はプロとして勝たなければいけなかったですけど、同時にお金をもらうために勝たなきゃいけないという部分もあった。でもウチの選手は、フットサルとは別に仕事を持っている。プロの選手ではないので、何を目標にやっていくかというと、勝つことだけを見ていると思うんです」

プロならば、否が応でも結果を求められる。

そして、結果を出さなければ解雇される。

それに比べ、アマチュアは要求も代償も少ない。

アマチュアのFリーガーは結果にこだわっていないとは言わないが、逃げ道が見え隠れすることはあるだろう。

だからこそアマチュア選手は、自らを奮い立たせ、結果にこだわらなければいけない。

それが、上澤の言わんとしていることだろう。

この試合を見るまで、名古屋から他チームへ移籍した選手達は、能力は高くてもモチベーションに難点があると思っていた。

名古屋時代と同じことをしているのに、同じ額の給料はもらえないし、練習環境や周りのレベルも落ちる。

その現実に違和感を感じ、気持ちが萎えてしまうのではないかと思っていた。

しかし上澤は、アマチュア選手として、新たな境地に達していた。

ただし、本当の勝負はこれからだ。

モチベーションは継続してこそ意味がある。

Fリーグで府中が勝っていくための課題を1つ挙げるとすれば? という質問に上澤は、次のように答えた。

「挑戦していくという気持ちを忘れないこと」

オットコ前の回答だった。

高田 宗太郎プロフィール
1982年1月6日生まれ、神奈川県出身。2004年春、東海大学工学部を卒業。在学中にフットサルの魅力に取り憑かれ 、卒業と同時に当時唯一のフットサル専門誌だったフットサル マガジンピヴォ!の編集者になる。2006年春からは編集チーフを任され、2008年3月に4年務めたピヴォ!を退社。以降、フットサルライターとして活動中。モットーは「フットサルに対して謙虚であれ」。
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