名古屋の課題と今後

まさかの大混戦

2011シーズンのFリーグは波乱で始まった。昨シーズン2位の神戸は開幕5試合でわずか1勝、大分も開幕から3試合未勝利、4位の府中も1勝2敗と打倒名古屋と予想されたチームが相次いで出だしで躓いた。

しかし、この波乱の主役となったのはリーグ4連覇中の名古屋だ。リーグで初めて無得点で敗れただけでなく、1順目の8試合で3敗を喫し、5節以降で3位以下に落ちたのも今回が初めてである。

数値からわかる名古屋の失速具合

1順で3敗、しかもいずれも無得点。名古屋がここまで結果が出ないのは得点力不足であることは結果を見れば明らかであるが、昨年とどれだけ違うかを今シーズン上位の府中、浦安、名古屋、大阪、大分と名古屋と接戦だった6位の神戸の6チームの今シーズンの8試合と昨シーズン1年間の1試合あたりの得失点数を比較する。

下記の数値から今シーズンのチームの成長力がわかるが、名古屋以外のチームが昨シーズンとほぼ同じか向上しているのに対し、名古屋だけ大きく下回っているのが目立つ。2010シーズンは1.33であることから、異常な減り具合がわかるだろう。

この主たる原因は得点力不足だ。名古屋は3試合無得点という結果からも予想できるように、今シーズンの平均得点数は2.6点減少している。これらから名古屋がこれまでのように得点をとれていないという事が低迷の原因と言える。

今シーズンの成長力:今シーズンの得点数−昨シーズンの得点数+(昨シーズンの失点数−今シーズンの失点数)
2010シーズンの成長力:2010シーズンの得点数−2009シーズンの得点数+(2009シーズンの失点数−2010シーズンの失点数)

今シーズン昨シーズン
府中0.762.11
浦安1.71-0.26
名古屋-2.811.33
大阪0.26-0.56
大分0.110.85
神戸-0.340.48

また守備力にも変化がある。浦安や大分のように1試合あたりの平均失点数が1点以上減っているチームをはじめ、名古屋以外の5チームは平均0.9点減少している。今シーズン名古屋相手に無失点に抑えた府中、浦安、大分、そして終盤まで名古屋を苦しめた神戸の昨シーズンの名古屋戦の1試合あたりの平均失点は、3点以上となっている。それに対し、名古屋は0.18とわずかながら増えている。他のチームが守備力を向上しているのに対し、名古屋はほぼ変わっていない。

昨シーズンの名古屋戦の1試合あたりの失点数と今シーズンの失点数

今シーズン昨シーズン
府中03.33
浦安05.67
大阪43.00
大分04.00
神戸34.33

原因は予想外の駒不足

ここまで名古屋が機能しないのにはいくつか気になる点がある。 攻撃において気になるのがシュート数だ。昨シーズンの1試合あたりの平均シュート数は30.6本で、今シーズンの8試合では28.4本と大きな差は無いが、勝利した試合では22.4本で、敗れた試合は34.3本と10本も違う。負け試合は追いかける展開なのでパワープレーでシュート本数が多いと思われるかもしれないが、前半だけで比較すると、勝利した試合は12.4本なのに対し、敗れた試合は17.6本と5本以上多い。

つまり、名古屋はシュートを決められないと、シュートを打っても決められない悪循環に嵌っている事が考えられる。今シーズンの名古屋の選手構成を見ると、前線でキープできるピボは森岡のみで、独力で得点力のある選手も森岡しかいない。

昨シーズンであれば、ピボはラファエル サカイとルイス・ネゴン、得点力はリカルジーニョやサカイがいた。さらに遡れば、ピボにはマルキーニョス、得点力は強烈なシュートが持ち味のシジネイや個人技が優れたボラがおり、常に個人技で相手を崩して点が取れる選手が複数ピッチに立っていた。 それが今シーズンは、新加入のマルキーニョは突破力はあるものの、前線で張るタイプではないため、名古屋でのピボをこなすタイプではない。また同じく新加入の渡邊知晃は点は取っているが、前線の的にまだなれていないし、個人で打開できるタイプではない。さらに、ミドルシューターもいない。

その結果、攻撃の起点と相手の崩しとフィニッシュが森岡頼みになってしまっているケースが多い。 相手からすれば森岡やマルキーニョに突破させずに、他の選手のマークを外さなければ、あとはゴレイロが至近距離でのシュートを止められるか否かにかかってくる。つまり、気をつけなければならない点がこれまでと比べて限られているのだ。

府中、大分、浦安に共通しているのは、上澤貴憲やディドゥダ、小宮山友祐ら森岡を止められるフィクソと不用意なスペースを作らないやや引いた守備、そして村山竜三や藤原潤ら至近距離のシュートをことごとく止めるゴレイロの存在である。逆に名古屋に敗れた湘南、町田、大阪はこのいずれかが欠けていた。

また、守備においてもフィクソの駒不足という問題が顕著に出ている。畠山ブルノタカシは6試合出場停止、若手の星龍太は実力不足で出場時間が少ない。それにより、カウンターを食らったときなどの守備が脆く、敗れた3戦の先制点はいずれもカウンターによるものだった。攻撃が噛み合わない焦りを選手も感じており、先制されればそれだけ焦りが出てしまい、シュートの精度も低くなってしまう。 この選手の駒不足からくる悪循環が今の名古屋の低迷の原因である。

初歩的だがカウンターが鍵

今後、名古屋が首位に立つためには、森岡依存症の改善が必要だろう。攻撃の崩しの起点になれるサカイの復帰か、マルキーニョのフィット、逸見の成長が鍵となる。また、現在取り入れ中のクアトロを成熟させるのもひとつだろう。しかし、システムの成熟には時間がかかる。

となると、前述の3つのポイントを相手にさせないようにするために名古屋が出来ることは、相手に引かれない守備をさせる事であり、引かれる前に攻撃するカウンターか、ミドルシュートで相手が守備ラインを上げなければならない状況を作るかのどちらかがある。

前者はチーム全体の決まりでどうにでもなるが、後者としては駒がいない。となるとやはり、初歩的なことだがカウンターのスピードと精度を向上させるのが、今の名古屋の改善策と言えよう。