腐らない鯛

控えめなテクニシャン

ボラ(現湘南)が来日したのはFリーグ開幕の前年に大洋薬品BANFFが結成された年だから、もう4年目になる。1年目から抜群のテクニックを披露していたが、ずば抜けた得点力を持つマルキーニョス(現町田)や森岡薫といったピボの陰に隠れていた。そして、東海リーグの最終節、勝たなければならなかったプライア・グランジ戦では森岡やマルキーニョスが不在の中、ピボとして前線でプレーしなければならなかったボラの姿にとても違和感を感じた。

順応性の高さの秘訣は持ち前のテクニック

だが、今シーズン湘南に移籍したボラは完全なピボとして違和感を感じさせずにプレーしている。マルキーニョスやウィルソン(名古屋)といった正統派ピボのような体格を生かしてゴリ押しするスタイルではないが、攻撃になれば真っ先に前線に上がり、チャンスとなれば敵を背負わなくてすむようにゴレイロからのロングパスを胸や足でトラップしながら前を向き、積極的に1対1を仕掛けていく。華麗な足技を武器にドリブル突破するスタイルは名古屋時代と変わらないが、そこに行き着くまでのスタイルが大きく変わった。

自分の良さを最大限出すために

「うちで一番できるのはボラ」 「できるなら信頼できる選手を40分間使い続けたい」 奥村監督は過去にそう語っていた。つまり、得点の可能性が高いボラが最大限活きるようなスタイルを敷きたいが、それではボラ頼りの戦い方となってしまう。それでは、P.S.T.C.ロンドリーナ時代から目指していた組織での勝負に矛盾してしまうため、ジレンマに悩まされていた。1順目の湘南は4人のFPによる華麗なパス回しという高い理想を求めた戦い方に固執してしまい、ボラを生かしきれなかった。

しかし、1順目の終盤あたりから奥村監督は堅守速攻とシンプルに縦に進める戦い方に変え、「各選手に明確な役割を指示してそれが実行できなければピッチに出さないようにした」と、各選手1人1人に絶対に遂行して欲しいことだけを求めるようにした。

その結果、選手もシンプルにプレーすることで積極性が生まれ、前線のボラにもパスが通る回数も多くなった。

個と組織の好循環

今の湘南は、しっかり守り抜いてボラにつなぎ、ボラにマークが集中することで他が生き、個と組織が見事に融合し、Fリーグで最も勢いに乗っている。「湘南はボラのチーム」と揶揄されることもあるが、それでも9節から5連勝。その中には名古屋と大阪も含まれているのだから、油断していたら足元をすくわれるだろう。

その好調のチームにおいて、名古屋時代は組織の中で歯車だったボラは、湘南では歯車の軸となって大車輪の活躍をみせている。テクニシャンが新天地で再び花開く。