世界のものさし

実力的に停滞した4年間

4年間の集大成ともいえるワールドカップでの惨敗は、日本フットサル界に現実の厳しさを教えたようなものだった。
先日まで代表監督を務めたサッポも以前から全国リーグの早期設立を切望していたが、Fリーグができたことは日本フットサル界において大きな進展であり、成長には必須条件だった。そして、Fリーグによってフットサルへの注目度も高まり、選手やチームも認知度が高まっただけでなく、小曽戸允哉などニューカマーが出てきたが、Fリーグができたことで浮かれてしまった感が否めない。
アジアのライバルだったイランにはAFCフットサル選手権で2年連続で敗れた。しかも昨年はホームの大阪で屈辱的な敗戦を喫した。さらにワールドカップでイランはスペインに引き分け、チェコを倒して2次リーグに進み、3位のイタリアに引き分けて準決勝まであと1歩というところまで躍進した。
もう1つのライバルであるタイもスペイン人監督を招聘して短期間でチームを作り上げ、3位のイタリアや欧州の強豪ポルトガルに善戦するなど、一矢報いた。
健闘したアジア勢と比べると日本は、「どうだったのか?」と疑問符が付いてしまう。

井の中の蛙

イランやタイと大きく異なるのが、海外との関係だろう。イランは代表合宿を定期的に行うだけでなく、スペインなどと何度も親善試合を行い、自分たちの実力を世界のものさしで測っていた。またタイもブラジル人監督が急死してから、スペイン人監督を招いて、短期間で海外との差を埋めるためのプロセスを綿密に立てた。
しかし、日本は世界のものさしも成長のプロセスも持たずに、いたずらに4年間を過ごしてしまった。そのものさしを持つFリーガーは海外でプレーしてきた市原誉昭や難波田治、相根澄や小野大輔であり、そこに木暮賢一郎が加わる。
異なるものさしを持つ選手が入り混じった代表で、世界のものさしが必ずしも正しいとは限らない。極端なことを言ってしまえばW杯では勝てるならば何をしても構わないのだから、美学を追い求めて負けるよりも、姑息な手段や消極的な戦いをしてでも勝つ方が賞賛を浴びるだろう。
だが、クラブでは違う。大仁CEOが「選手の育成はクラブに任せる」と先日のFリーグ新規参入記者会見で言っていたように、クラブでは試合の結果だけでなく成長も求められるから、ものさしが重要になるのだ。

木暮の魅力

Fリーグ観戦者のほとんどが木暮のプレーを知らないだろう。ファイルフォックス時代は圧倒的なスピードを武器にカウンターから単独でシュートまで持ち込む突破力が持ち味で、当時は難波田、板谷竹生、小宮山友祐の3人のフィクソがしっかり守り、カウンターで木暮が決めるという必勝パターンがあった。
しかし、今の魅力は勝つために必要な術を考えられる頭にある。パス1つをとっても、精度と強さの重要さを学んだ。「試合中に10本連続でパスが繋がることは少ない。それだけつながればほとんどシュートを打てる」と、むやみにギャンブル性の高いパスを狙ったり、難しい局面で1対1を仕掛けることはなくなった。
海外の優れる部分として技術力や判断スピードばかりが取り上げられるが、目に見えない部分の変化が木暮の大きな魅力であり、これを名古屋がどう生かすかにかかってくる。

真の進化を期待

試合に勝つための作戦を否定するわけではない。例えば大分が大阪戦で、岸本武志にマンマークをつけて大阪の攻撃を封じた作戦は勝利のためのアイデアとしては面白く、大阪も岸本頼みからの脱却を本格的に考えなければならない警告を鳴らされた。
だが、本来ならば5対5で普通に戦って互角に持ち込めるようになるのが理想であり、作戦ありきの戦いではいつになっても選手の成長は期待できない。やはりあくまでも個の成長があった上での作戦である。もちろん大分が小手先のことしかやっていないと言っているわけではない。むしろ、大分には館山監督のもと、しっかりとした成長を期待しているくらいだ。
アジウ監督も勝つためだけならば、マルキーニョスや森岡薫、山田ラファエルあたりを前線に1枚張らせて、ロングボールから勝負させるだろう。それをあえてしないのは世界と戦ったときにそれでは通用しないことをわかっているからであり、世界と戦うために必要なスキルをつけている最中なのだろう。
「アジウとは考え方が似ていると思う」
名古屋に加入してからアジウとコミュニケーションをこまめにとる木暮は、今後に手ごたえを掴んでいる。彼の3年半が名古屋だけでなく日本にどう還元されるのか。