それでも勝利

テクニシャン欠場も豊富な戦力

ボラ、野嶋倫というドリブラーをコンディション不良で欠いた名古屋だが、豊富な戦力だから多少抜けても強い。事実、その中から選ばれたスタメンはマルキーニョス、前田喜史、完山徹一、北原亘の4人。試合では今シーズン初の組み合わせとはいえ、決定力があり線で的になるエースと、プレマッチでチームの先制点に多く絡み好調なベテラン、チームで数少ない左利き、チームをまとめるキャプテン。手堅い編成だ。

理想をへの使命、険しい道のり

開始直後から名古屋がボールをキープして湘南はセンターラインあたりまで下がって守る予想通りの展開となり、開始4分には左CKからマルキーニョスが不得意な右足で先制点を決めた。にもかかわらず、名古屋はテンポよくパスを回せず、この展開を予想して挑んだ湘南ペースのようだ。
そして、11分。名古屋にとってさらに追い討ちをかける。怪我で出遅れていた丸山哲平は、最後尾でパスを受けたもののほかの3選手と噛み合わない。「(パスミスは)ありえなかった」と試合後に後悔したが、やむをえなく出したパスを岩岡慶宣に奪われ、1-1の同点に追いつかれる。
名古屋はその後もボールをキープしても点がとれない。それには理由がある。アジウが開幕前まで取り組んできた大半が守備であり、攻撃は局面での突破やセットプレーなど決まった動きしかない。少しでも状況が変わればそこでどうすべきかは、個々の選手に考えがあってもそれはまだ統一されていない。華麗な攻撃を期待するにはまだ早い。

「ベンフィカでやってきたこととベースは変わらない」

アジウの下でプレー経験があるシジネイが語るように、アジウの方針はぶれていない。しかし、世界で通用するためのフットサルを習得するための基礎ともなれば、そう簡単にしかも誰にでも身につけられるわけではない。それに今の選手は彼が選んだ選手でもなく、選手たちもアジウが求めるフットサルをほとんど知らない。名古屋は強いとはいえ、今はただ強い選手と実績がある監督が集まった集団にしかすぎない。

地味にアピールした新外国人

そのような名古屋だから、昨シーズンの開幕戦と同様に苦しい展開になるかと思われた。

だが、嫌な雰囲気を打開したのが新加入のシジネイだ。後半、マルキーニョス、ラファエル、シジネイの攻撃的で強烈なシュート力を持つ3選手を同時にピッチに立ち、前半同様にボールを回す。変わったのは前半2本しかシュートを打たなかったシジネイが多少遠くからでも積極的にシュートを打つように、シュートの意識が強くなった。攻撃的選手のシュート数を見ても前半は11本だったのに対し、後半は16本と1.5倍に増えた。
その効果からか、湘南の守備が徐々にずれ始め、その隙をシジネイが見逃さない。中盤左サイドでパスを受けると、目前の敵である岩田雅人をかわして中に切れ込み、中からマークについた関新が寄せきる前に強烈なミドルシュートを放つ。
「左足でブロックしていたから、(左足に)当たらなければ枠を外すと思っていた」
外から見れば疲労で動けないように見えた岩田だが、前川監督が主軸として考える守備のスペシャリストも考えてはいた。しかし、最強外国人と期待されるブラジル人の右足は日本人の想像を上回り、ゴール右上に突き刺した。
その後も名古屋は攻めるも決定的なチャンスでポストに嫌われたり、必死に守り続ける湘南に戸惑ったりしてなかなか試合を決められなかったが、決めたのもやはりシジネイだった。 後半10分、湘南陣内でのキックイン。右サイドでパスを受けたシジネイは内側へ行かせないように前後から2人に囲まれるも、前後にボールを動かすフェイントで1人ずつあっさりかわすと、GKをひきつけてからゴール前へ平行なパスを送る。ファーサイドで待っていたラファエルは無人のゴールに体ごと入れば良いだけだった。

20%という数字

ラファエルのゴールから4分後、湘南のミスコミュニケーションからボールを奪った北原が、ゴール前でGKをひきつけてから左にいたフリーの上澤貴憲へアシストしダメ押しすると、終盤に湘南のパワープレーから1点失ったものの、無事逃げ切った。
「長い目で見て欲しい」とアジウ監督が就任当初そう言っていたように、結果が出ても内容が伴うまでには時間がかかる。

「オーシャンアリーナカップの完成度が10%だとすると、今は20%かな」と開幕戦の前夜、名古屋の桜井GMが電話で語っていた。「20%という表現はネガティブではなく1ヶ月前のカップ戦の倍になっているポジティブな意味」(桜井GM)と言うが、ネガティブな意味を考えると、名古屋はまだままこんなものではないという事だろう。