フェイク

上村信之介のフェイクは芸術品

フットサルを見始めて衝撃的だったプレーは上村信之介のフェイクだった。足を大きく開き、踏み込みの反動を利用し、腰を軸に上半身を振り子のように大きく動かす急激なターン。大げさとも思える動作に敵がことごとく振り切られる。相手の裏を“かく”動きは相手の裏をとる事が重要視されるサッカーとは似て非なるアプローチだと感じた。

ベナンシオに必要不可欠なピボ

海外には上には上がいるはずで、上村のフェイク以上の驚きを求めて日本代表のスペイン遠征を取材した。そして世界王者の強さの秘訣を知るために、日本陣内だけを撮影し続けた“特別映像”を入手した。キケ、ハビ・ロドリゲスをはじめ全ての選手が安定し、点を取るという到達点から逆算した無駄のない動きが日本とは決定的な違いだったが、もっとも驚かされたのはピボを務めるマルセロの動きだった。
スペイン代表監督ベナンシオが兼任するリーガ・エスパニョーラの強豪ロベージェには、ベットンというブラジル代表の大型ピボがいる。どっしりとしたピボを置く事が決して多くないスペインにおいてベットンは規格外である。フィジカルの強さやシュート力はもちろん、3人に囲まれても奪われないキープ力と、敵の股下を通す足技も併せ持ち、「ベットンが戦術」といっても過言ではなく、彼の力が無ければロベージェは強豪になりえなかった。

高速フェイク

その一方でマルセロは175cm程度しかなく、体つきもスペイン代表の中でも平均的。しかも34歳とベテラン。決して身体的に恵まれていない。しかし、彼はベットンとはまるで正反対の特徴を持ち、ゴール前で左右に頻繁かつ迅速に動いて、フェイクの上にフェイクをかぶせるかのようにせわしない。同じフェイクでも上村のフェイクはマークにつく相手を罠にはめる動きが多いが、マルセロはマーカーがボールとマルセロを同一視界に入れる事ができないようにしながら、常に相手の裏をかきつづける。だから、フェイクとわかっていてもなかなか止められず、逆に常にマークにつこうとすれば、ボールを見失ったりゴール前を空けてしまうリスクもある。

日本の活路に

日本代表のピボである木暮賢一郎や小野大輔、稲田祐介にたとえると、小野や稲田がベットンで、木暮はマルセロとタイプが分けられる。「マルセロのプレーを参考にするといいよ」と、木暮はカルニセール時代のチームメイトにアドバイスをもらった事があったという。今回の遠征が終わって自宅に戻った木暮はその“特別映像”を食い入るように何度も見ていた。巨体でなくてもゴール前で勝負できる事を証明したマルセロは、木暮にとって大きな刺激となっている。
たかがフェイク、されどフェイク。些細な部分にも大切な事が詰まっている。