観客が作る強さ

小さな街の楽しみ

世界遺産セゴビアは決して大きな街ではない。スーパースターがいるわけでもない。それでも2800人収容の会場には老若男女が集い、立ち見が観客席をさらに囲む。サポーターは熱心な声援をホームチームに送り、敵や不可解な判定には容赦なくブーイングを浴びせる。完全にセゴビア色の会場は相手チームだけでなく、審判にとってもやりにくい。

激しい上位争い

この日の相手は木暮賢一郎が所属していたカルニセール・トレホン。セゴビアと同様に着実に結果を残している中小クラブだ。エルポソ、インテルビューに続く3位の座を争う両チームの対戦だけあり、選手の激しいプレーはもちろん、敵のファールを審判が取らないと観客は大声や鳴り物で審判にアピールする。この会場にいる誰もに力が入る。
 しかし、互いに監督だけは冷静さを保つ。「前半は互いに様子見、後半もカルニセールの得意なカウンターを警戒するために2人は必ず後ろに残るようにした」とセゴビアの監督が語るように、手堅くシンプルな攻撃が続いた。それでも両チームともハイプレスの回避も本来ならばショートパスをまわして切り抜けたいところだが、縦へロングパスを出せる状況まで慌てずに後方でパスをまわす。手堅さの中にも正確な技術と意思が疎通した連携が2チームとも持っている。

No fantastico

後半、セゴビアはカウンターから単独突破で奪った1点を守り切った。カルニセールのエース、ジャイソン対策も練習の効果が出て、ほとんど何もさせなかった。  「ファンタスティックな試合じゃなくて面白くなかったでしょ」と監督は開口一番、そう語った。基本技術の重要性と頭を使ったプレーは非常に参考になり、確かに見ていて沸く試合ではなかったが、緊張感が40分間張り詰める実りのある試合だった。

周囲がチームを育てる

だが、監督に悪気はなかったのだが、「日本人=ファンタスティックを好む」と思われていたのだとしたら、それは残念なことだとホテルに戻ってから気づいた。Fリーグでは最終節に「マニフェスト」が出ていたが、スペインでそのような事が求められれば、選手は「勝つために全力でプレーする」としか言わないだろうし、サポーターも「勝利」しか求めない。  技術や戦術ばかりが比較される日本とスペインだが、それら以外にも差は大きいと感じた。