アスロンのトレーニング。魅惑のアスロン（３）

今回は実際に練習見学させていただいた時の、アスロンのトレーニングを紹介したいと思います。

　その前にもう一度、三木氏の「メニューよりも、観方・捉え方・考え方」という言葉を踏まえて読み進めていただければと思います。コピーでオリジナルを超えることは難しく、メニューをそのまま真似しても大きな成果は見込めないかもしれません。

　一度きりの見学でしたが、「なるほど。これは強くなるな･･･」というのが印象でした。特徴的なのは１.密度の濃さと、２.空気感です。

　アスロンのように個に特化した練習、例えばリフティングやドリブルに練習時間の多くを割いているチームはあると思いますが･･･、"濃密さ"でアスロンに勝るチームはなかなか無いと思えました。練習はオーガナイズされていて無駄がなく、立て板に水のように流れていきます。三木氏のオーガナイズが凄いだけでなく、選手が主体的に動くこと、教える側・教わる側、双方の協力というか目的意識が、濃密な練習を可能にするのだと感じさせられました。

　「今日は取材も練習見学も来ていただいているから色々見てもらいたい。しっかりやろう！」という三木氏の声かけから練習スタート。練習を通じ、三木氏が長々と説明や確認をしている時間は無い。１分程度で話は終わり、練習がスタートしていく。トップの30名ほどの選手は毎月のリフティングテストをクリアしてきているメンバーとのこと。まずはシナプソロジー。脳の刺激。右手と左手で右手が勝つようにグーチョキパーを入れ替えていく。数分程度ですぐに「ボールフィーリング」へ移行。

　三木氏が発したのは「ボールフィーリング！半周ずつ」という二言だけ。すると選手たちが個々にボールを持って６グループほどに分かれて横一列に並ぶ。全員が並び終える頃に間髪入れず、選手たちが、ボールリフティングのメニューを出していく。「ダブルシザースからルーレット！」、「ダブルクライフターンからアウト！」、「内またぎからアウトロール！」、「ヒールリフト！」など、優しくないフェイント、複合技ばかりと、のっけからハイレベルだ。

　「何を観て・考えて・意識してる？自分で100点目指して！」と三木氏の声が飛ぶ。講習会で三木氏はボールフィーリングはあくまでクローズドスキルであり、相手選手が居ない、プレッシャーがない状態なのだから、姿勢や視野の確保、脱力すること、動作の連結など複数のことを考えながらやることを求めていると話していた。

　10分ほどで「リフティング！」の声。「手叩き！」「頭・肩・前・後ろ！」「３回・背中乗せ・インステップ」など、初めての人には暗号のような指示が飛び出していく。「頭・肩・前・後ろ」は手を頭・肩・前・後ろに叩きながらのリフティング。「３回・背中乗せ・インステップ」は３回目にインステップであげて背中乗せだ。回数を指定することで３回目なら３回目にボールを上に上げれるよう、コントロールが求められる。回数指定も重要な要素だと言う。

　「ハイ！背中乗せから、足乗せ！３回できたら座る」さらに競争の要素が入ってきた。練習を通じてだが、選手たちの集中力が高い。それは、こうした競争の要素や子どもたちにとって少しだけ難しいチャレンジであるがゆえに、子どもたちが夢中になるからだ。ゲームにでも没頭するように、ボールを蹴っている。競争しているので、ミスした後のリトライも早い。「５人終わったら終わり！」ということで、ベスト５までに入ろうと必死になる。ダメでもまたすぐ次の課題が与えられ、すぐ再チャレンジができる。「まだチャンピオンは居ません」時折、三木氏の"煽り"もいいタイミングで入る。
　
　このリフティングでも、リフティングから挟んで、ヒールリフトから背中乗せ。足乗せから、頭を超えて、足乗せ(これは初チャレンジ)など、高度な技を次々と小学生たちがクリアしていた。

　８分ほどで今度は「リフティング競争」コーンが３箇所に置かれた。「インステップ・インサイド・もも・アウトサイド」最初のコーンで指定の流れで一定回数リフティングできたら、２つめ～３つめのコーンへリフティングでの移動。移動の際も「インアウト(ワンタッチずつ)交互に」など指定が入る。これも競争でベスト10入りを目指す。途中で落としたらコーンに戻るようで、これまたすごい集中力で、競争が行われる。コーンの近回りをしたいので、密集状況でのリフティングになるが、子どもたちはおかまいなし。ちなみにアスロンのトレーニングでは通常３号球が使われているそうだ。

　10分ほどで「終わり！準備！」という三木氏の声。選手たちがグループに分かれ、コーンドリブルの準備のためにコーンをテキパキと並べていく。全体でまとまった休憩は取られない。「休憩は適当に取ってよ～」とのこと。選手たちの息は早くも上がってきているが、コーンドリブルも全力だ。講習で、三木氏は「コーンドリブルはアジリティトレーニング。集中力と瞬発力が大事。反射的に足を速く動かせるようになること」が目的だと話していた。

　14分ほどで終了。「４チームに分かれて！」とだけ三木氏が言うと、子どもたちが６年生を中心にチームを作っていく。ペアをつくっての１対１。
　フットサルコートの半分くらいのエリアで全員一斉に１対１が行われる。股抜きをするか、浮かせて抜いたら１点で、３点先取。これもベスト10入りを目指す、競争だ。
　「違う血液型の人と！」などというテーマにそってペア探しから競争は始まる。狭いエリアで、他のグループともぶつかりそうになりながらの真剣勝負。ベスト10入りするために、スピードも求められる。
　「追い詰められた状況で、股抜きなんかを狙えているのは、落ち着きがある証拠やと思うんです」練習後の取材の時に三木氏は話してくれた。「コーナーで囲まれたときに、ウチの選手がヒールリフトで抜いたりして(他のチームの人たちに)驚かれるが、アイツらにとっては特別なことじゃない。空いているのが上(の空間)しかないからヒールリフトを選択するだけ」だと言う。そういうアイデアと技術力はこうしたトレーニングで培われるようだ。

　途中から１点の条件がリフティング５回などに変化していく。隙を見てボールを浮かせて体を入れながらリフティング５回を狙う。体を入れるだけでなく、押してきたら頭上を越して反対側を狙うなどの動きが出てくる。空中も活用するアイデアや技術力が培われるわけだ。

　さらに途中から、１対２となって、股抜きか、２人の間を抜くか、リフティング５回をするかで１点に変わる。

　さらにはコーンでゴールが複数設置され、２対２で、コーンゴールをドリブル通過したら１点でベスト５を目指す。ボール通過で５点先取など、ルールを次々に変えながら、１対１、１対２、２対２が20分ほど繰り返された。１対１、２対２は(休めない)負荷の高いトレーニングだ。三木氏は子どもたちの息の上がり具合などを見ながら、条件を出すまでの時間や、間の話の時間を調整しているとのことだった。

　次は４チーム２面に分かれてゲーム。３分のミーティング時間が与えられ、ゴールの数、ボールの数、ゴール方法などを片方のチームが考える。考えるだけでなく相手チームに説明もする。ここでも考える力、コミュニケーション能力などが求められてくる。準備も自分たちで行う。

　15分ほどでゲームは終了。最後に再び技術練習、リフティングが行われた。三木氏の言葉を借りれば「試合が同点だったときの延長戦、PK戦のようなもの。疲れた状態の中での集中力、技術力が問われる」。周回でボール２球を手と足で３回目に入れ替えながらなどの条件で各辺を移動していく。途中で落としてしまえばやり直し。１周まわれた選手からトレーニングを終了しクールダウンへ。

　ダウンも座った状態から、ボールを両足で挟んで、頭の上に持って行ったり、足を伸ばした状態で体の回りを手でボールをクルクル回したり、コーディネーションの要素も含みながら。最後は股下からボールを上げ、背中を通して前でキャッチ。「できた人から終わり。できひんやつはずっとやっとけ～」１人だけ最後まで苦労している子が居たが、こうして「楽しい雰囲気で練習を終えることも大事なこと」だと三木氏は言う。

　90分はあっと言う間に過ぎた。選手たちも(毎回)同じような感覚、感想なのだろう。残るのは心地よい疲労感と、ハードな練習をやり切った達成感のハズ。その積み重ねは大きな自信と確かな技術力につながっていく―。

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レポート・写真：北谷仁治