一番難しい試合/日本×キリギスタン戦、キタケンレポート

一番難しい試合

　試合前、ＵＡＥ・ドバイのアル・ワシスタジアムには決戦前ならではのシリアスな雰囲気が漂っていた。ＡＦＣフットサル選手権、準々決勝・キルギス戦。日本はこの試合に勝てば、アジアに４枠与えられているワールドカップの出場権を獲得する。

「明日は一番難しい試合になるでしょう」。

　ミゲル・ロドリゴ監督はそう語っていた。そして、「私の３年間の仕事の集大成になる」とも。ミゲル監督がこの準々決勝を「最も重要な試合」と位置付けていることは、前日練習の内容からも明らかだった。前２枚、後ろ２枚のゾーンで守ってくるキルギスを想定し、それを崩すためのパターン練習を約２時間みっちりと教え込んでいたのだ。

　相手の戦い方をしっかりとスカウティングし、その対策を授けられるのはミゲル監督の引き出しがあるからこそ。だが、少なくとも最低限の結果を残さなければ、その仕事が評価されることはない。もしもワールドカップ出場を逃した場合、おそらくミゲル監督は解任される。

　大きな意味を持った試合が始まった。

　日本のスターティング５はＧＫ川原永光、北原亘、木暮賢一郎、逸見ラファエル勝利、高橋健介。川原と木暮は長年日本代表として戦って来たし、北原と逸見も所属チームの名古屋でアジアの戦いを経験している。試合の大きなウェイトを占める立ち上がりを、ミゲル監督は経験のある選手たちに託した。

　そして、彼らはその期待に応えた。「チームを落ち着かせること。試合の入りで失点しないで、リズムを作ることを心掛けた」という北原の言葉通り、過度に入れ込むでもなく、適度にリラックスした心理状態で試合に入っていた。

　ファーストシュートは30秒、今大会３試合連続ゴール中とスコアラーとしてチームをけん引している19歳の逸見。左サイドで北原からの“小さいパラ”、サイドでの短い距離の縦パスを受けて思い切りよく左足を振り抜く。３分には、右サイドから逸見が出した縦パスに高橋が長い距離を走ってシュート。決定機が生まれたのは４分。右サイドで木暮が北原とのワンツーから抜け出し、ファーサイドの高橋へラストパス。高橋はダイレクトで合わせたが、至近距離でＧＫに止められてしまう。

　良い入り方をしたのは間違いない。しかし、ゴールが決まらない――。ともすれば試合の流れが相手に持って行かれそうな状況を覆したのは、やはり逸見だった。右サイド、ゴールまでやや距離のある場所からの当たり損ないのようなシュートが相手ＧＫのファンブルを誘ったのだ。ラッキーではあるがゴールはゴール。これこそ逸見が「乗ってる」証拠だろう。

「必ず結果を出してくれる。シュートの精度も高いし、決定力も高い。ラファが本当に試合を決めてくれる。年齢は若いですけど、本当に頼れる存在ですね」（小宮山友祐）。

　１点をリードして迎えた後半、キルギスは戦い方をガラリと変えてきた。前半はボールをじっくりと回しながら攻めてきたのが、後半になると前線に背の高いピヴォを張らせて、ロングボールを放り込んできたのだ。ミゲル監督が「驚きだった」と語るように、これは完全に想定外だったようだ。

　実際にピヴォのマークにディフェンスが得意なフィクソの選手ではなく、アラの選手がつくミスマッチが何度も起こった。ピヴォにボールが収まれば、ディフェンスのラインが下がるため、押し込まれた状態になる。高い位置でアラが持って仕掛けるシーンが増えて、シュートの危険性も上がる。もしも１本でも決められていれば、試合の流れは大きくかわっていただろう。

　キルギスの監督が「私たちのＧＫは失点のミス以外は良いプレーをしていた。しかし、日本のＧＫはもっと素晴らしかった」と語ったように、川原の存在が日本を救った。川原がキルギスのシュートを涼しい表情で弾く姿が、どれだけ頼もしかったことか！　数々の修羅場を潜ってきた“日本の守護神”川原の真骨頂を見た気がした。

　そして、１－０のままタイムアップ。日本は“無事に”３大会連続のワールドカップ出場を決めた。試合終了後、ミゲル監督の表情には「一番難しい試合」を乗り切った安堵の表情が浮かんでいた。

　もちろん、これは最低限のノルマであり、大会自体はまだ続いている。喜びの余韻に浸っている暇はない。日本代表の最終目標は、２年前に０－７でコテンパンにやられたイランを倒して、アジア王者になることだ。

　とはいえ、今はワールドカップ出場権をつかんで、“その先の話”ができることが素直にうれしい。

レポート：北健一郎

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