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2012/03/11 08:17:23 花巻最後の戦い〜第２章〜/本田 好伸
PUMA CUP 2012 第17回全日本フットサル選手権大会
2012年3月10日（土） エコパアリーナ ■花巻最後の戦い〜第2章〜 ステラミーゴいわて花巻 1−2 湘南ベルマーレ 花巻対湘南は、1年前の“あの日”と同カードだった。「今日は僕らだけではなく、他の会場でやっている半田徹也（フウガ東京）や渡邉知晃（名古屋）、そういう元ステラミーゴの選手の分も戦うという気持ちはすごくありました」（8番・久光）と言うように、決勝ラウンド初日第3試合が始まる数分前、大きな揺れが代々木体育館を襲い、試合は中止となった。 あの日の続きを。止まった時間を再び動かすための戦いでもあった。 そして決着はついた。「結果を出さなければいけない相手でした」と久光が唇を噛み締める。「体が動かなくなっても、勝たなければ次の段階には行けないと思っていたので、結果が出なかったことに対して申し訳ない気持ちです。遠くから来てくれた人もいるし、ライブ中継で見てくれている人たちもいたので、そういう人たちに申し訳ないです」。接戦をものにできず、1−2で湘南に敗戦した。選手たちは、初日の勢いそのままにピッチで躍動していたが、勝利の女神が花巻にほほ笑むことはなかった。 相根監督が、試合前選手1人ひとりと固く拳を握り合う光景が印象に残る。“アツイ”ことでも知られる相根監督の思いを体現する選手たちは、初日のように前半の固さは見られず、最初からトップギアで湘南にプレスを仕掛けていく。 先制点は一瞬のすきに生まれた。3分、湘南のキックインから中央でボールを受けた3番・岡田 サントス ジオゴがミドルレンジから強シュートを放つと、ゴール右上へと突き刺さった。リードを許した花巻は、一層プレスを強め、何度もチャンスを作り出していた。 互いの力が拮抗し、こう着していた試合は、15分に動いた。センターサークル付近で3番・中島が足を掛けられるも、こぼれたボールを5番・田村が拾うと、審判のプレーオンの声が鳴りやまぬうちに左足を一閃。グラウンダーのシュートは左隅へと決まった。 振り出しに戻った試合は、緊迫感が増していた。後半に入っても両者一歩も引かず、次の1点が勝敗の行方を決めるだろうと、会場も手に汗握る展開が続いていた。花巻も湘南にも、次を見据え引き分けを狙う様子は、微塵も見られなかった。 互いがいいリズムで攻撃する時間帯を作り出し、そして互いに耐え切って迎えた36分、決勝点が生まれた。湘南の9番・江藤が左サイドから左足を振り抜くと、無情にも花巻ゴールへと吸い込まれた。湘南に歓喜が起こる。同時に、大きな悲壮感も会場を包んでいた。スタンドには、勝利を祈る多くの花巻サポーターが詰めかけていた。残り3分。昨日とは違い、時計の経過が速く感じられた。 38分にタイムアウトを取った花巻は、久光でのパワープレーを開始。シュートがポストを叩く決定機もあったが、スコアが動くことはなかった。試合は、1−2で湘南が勝利を収めた。 「どんな結果だろうと、自分たちのプレーを出し切ることが大切なんです」。相根監督は初日を終えてそう話していた。そして今日の試合後にもこう振り返った。「やり切ったので、手を抜いた選手は1人もいませんでした。選手もそうですし、見ている人もそうですし、全力でやるプレーが大事なので、それで負けてしまい、その負けは認めるしかないですね」。緊迫感漂う試合中、足を止める選手は、確かに誰1人としていなかった。1−1で拮抗していたこともあり、両チームともに引き分け狙いという策も考えられた。でもそれを選ぶことはなかった。「（リスクを減らすために）ハーフラインから守る案もあったのですが、うちのほうが体力があるので、走り勝てればと思っていました。それに、若い選手たちなので、あそこで引いてしまうと、ボールサイドにプレスに行けなくなってしまう。ベテラン選手がハーフから守備をやろうと（切り替えて）、ボールサイドに（強く）行くことはできると思うのですが、今年1年間の経験を考えて、みんな大変だと思うけど、（前線からプレスに）行くしかないと伝えました」（相根監督）。経験不足を認めたうえで、1年間走り抜いてきた自分たちを信じ、最後まで勝利を追求し続けた。 1次ラウンド2日目を終え、花巻の1位抜けの可能性は消えてしまった。2勝の湘南が、同グループで1勝しているロボガト、花巻にそれぞれ勝利したことで、湘南の1位が確定（グループ内同勝ち点で並んだ場合は、得失点差ではなく、直接対決を制しているチームが上位となる）。そして花巻は、ワイルドカード争いへと挑む。 毎年の勝ち上がりを見ると、2勝1分けで勝ち点7のチームが出現し、ワイルドカードを獲得していく。一方、今大会は勝ち点7での2位抜けチームがなく、現在勝ち点3のチームが勝利したうえでの得失点差争いになる。ようするに、「いかに大量得点差で勝利するか」が重要となる。他グループを見回しても、花巻の得失点差「+1」は有利ではない。それどころか、現実的な望みは薄いだろう。ワイルドカードは2枠。崖っぷちの花巻は、どんな試合を見せてくれるだろうか。 僕も含め、花巻最後の戦いを見守る人たちは、今大会の花巻をある種の特別な目で見ている。Fリーグ最下位のチームが、日本一を獲って有終の美を飾る可能性はお世辞にも高いとは言えない。そんな出来過ぎたストーリーを思い描くのは容易ではない。何かもっと別の期待を込めているように思う。 東日本大震災から、今日でちょうど1年を迎える。未だに仮設住宅で暮らす人も大勢いるし、未だに水が出ていない地域もあると聞く。その一方で、被災地ではない場所では、「3.11」以前と変わらない生活をして、同じように趣味に興じたりしている。そうして忘れられていってしまうことは間違いなくある。被災地代表として戦ったステラミーゴいわて花巻というチームが、1年後、5年後、10年後、そのまたもっと先に、果たして忘れられずに、人々のリアルな記憶として残っているだろうか。 だから何を刻み、フットサル界に何を残すのか、彼らには大事な使命がある。“そんなチームがあったね”ではなく、“こんなチームがあった”とみんなが記憶する何かを示すことができるか。花巻がFリーグ開幕時から積み上げてきたものは当然ある。でも「終わりよければすべてよし」なんて都合のいい言葉があるように、最後に何をしたかは、非常に重要なことだ。1次ラウンド3日目を迎える今日、泣いても笑っても代々木へと駒を進めるチームが決まる。花巻最後の戦い第2章は、厳しいものとなった。第3章が最後にならないよう、僕には祈ることしかできない。 文・本田好伸
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