鈴村拓也の退場劇について - フットサルタイムズ

　ハーフタイムのプレスルームは、"異様な光景"に感じられた。

　10/８(土)、９(日)、２日間に渡って行われた大阪セントラル。淡々と終わった４試合とは対照的に、神戸×大阪のハーフタイムは"活気"に溢れていた。話題の中心は鈴村選手へのハンド(レッドカード)のレフェリングについて。テレビクルーの撮影した映像で「ハンドで無いことが確認できた」とのことで、大方の意見は「とんでもないミスジャッジだ。酷い」「鈴村選手が可愛そう」というもの。

　問題が重大で深刻なことはわかる。ただ僕にはこのとき"騒いでいる人たち"が、火事場を見る野次馬のようにしか見えなかった。事件・トラブル・問題を楽しんでいるような空気。冗談だと思うが、「いいネタを提供してもらった」とあからさまに言う人も居た。その後に出た原田浩平のルーレットからのスーパーゴールについては、最後のほうに少しだけ触れられただけ。これではフットサルを観に来ているのか―。トラブルを待っていたのか―。まったくもって、わからない。

　ここでまずはっきりしておくと、問題のシーンは僕も"誤審"だと思う。ただし、反対側のゴール裏で見ていたので、ハッキリとは断言できない。ボールがごちゃごちゃ行き交って、人も集まっていたので、簡単なジャッジでは無いと思う。角度によっては、ハンドに見えたのかもしれない(鈴村選手以外の手が、鈴村選手の手に見えた可能性もある)。

　"フットサルのこと"を真剣に考えているなら、今回のような問題は"起きて欲しくない"出来事のハズ。それなのに鬼の首を獲ったかのように、「判定を覆すべきだ」「テレビ放送はどうするのか」と、これまで"静かに"フットサルを見ていた人たちが騒ぎ出した。当該審判については、永久追放でも求めるような勢いだ。僕の感じ方が大きな誤解だと信じたい。そして、騒いでいた人たちがどういう意見、問題提起をするかに注目したい。

　ハンドの判定を下した芝村審判は、僕の中で、Fリーグの中でも５本の指に入る優秀な審判員だ。だから今度のことで"変なレッテル"が貼られるとしたら、残念でならない。「名前を覚えた」という人も居たが、果たしてその人はこれまでの芝村審判の評価を持っていたのだろうか―。

　記者会見では判定に関する質問は遮られたが、この点はどうしても気になったので、会見後、比嘉監督を直撃した。監督が怒り狂う気持ちには同情できるが、あえて、１.これまでの芝村審判への評価はどうだったか？　２.監督が信頼する優秀な選手が試合で重大なミスをしたら、次の試合から使わないか？　２点を踏まえたうえで、今回の件への回答をお願いした。

　比嘉監督は今回の判定への対応は「チームに任せる」と答えた。審判の処分については「(ミスジャッジであったとしても)次の試合から吹かないなどの処分は求めない。鈴村にとっても、審判にとっても、お互いにメリットが無い」とコメント。しっかりと、審判の"再チャレンジ"の可能性を残していた。芝村審判のこれまでの評価は明言を避けた。代わりに"貯金"の話をした。「選手たちには銀行と一緒だよ。貯金をしなさい。と話をしている。いいプレーをしたら貯金が増える。選手がミスをしても、一気に貯金が無くなる訳ではない」と。そして「選手の評価をするのは自分(監督)だが、審判の評価をするのは審判部長か、そういう役職の人だ」と説明した。『評価・処分については、しかるべき人に委ねる』ということだ。冷静で、大人の対応・言葉だと思う。

　出場停止の処分はともかく、一度下した「判定を覆せ！」と言うのはナンセンスだと思う。極端な話、誤審も含めてフットサル。誤審も含めてスポーツでは無いのか。ミスジャッジを容認するわけではないが、人間はミスをする生き物だ。チャレンジ制(※)など、下した判定を覆すシステムが無い中で、自分が"見て・判定した"結果を覆していたら、審判は何のために居るのか、わからない。(審判に)言ったもん勝ちになり、クレームやアピールを助長するだけではないのか。当該審判員も後半、自分がはっきり見えていなかったときには、主審の判定を尊重して、キックインをコーナーに修正していた。問題のシーンは当該審判には"ハンド"に見えたのだ。そして判定を下した。審判は絶対だ。ならば判定は覆らない。この大前提を覆して、スポーツは成り立つだろうか―。

　どうやったらミスジャッジを無くせるのか―。については、今回のような"チャンス"に、大いに議論されるべきだと思う。

　だけど、ただ「審判は相変わらず酷い。レベルが低い」「審判をどう罰するのか」という議論だけに留まってしまったら、何の成長・前進も無いと思う。優秀な審判員も、たった一度のミスで表舞台から消えていく･･･。そんなことで本当に監督・選手・観客が求める優秀な審判員は育つのか？これまで"貯金"をしてきた上で、「ひどい審判だ」という発言をしているのか？については、きちんと問いたい。感情的にならず、ひとりひとりが"フットサルの未来"を考えて欲しい。

　「選手生命に関わる」という人も居るが、誤審で選手生命を絶たれた選手名を教えて欲しい。"判定に泣く"のは、そこまでの選手、そこまでのチームではないのか。デウソン神戸は"逆境"を力に変えて、勝利を収めた。それこそ強いチームの姿だ。鈴村選手は「俺は何もしていない」と泣いていた。その姿を前にすると、胸が詰まり、言葉が出ない。それでも僕は、鈴村選手が、今回のこともバネにしてしまう、強い選手だと、信じている―。

(※)チャレンジ制･･･試合中に微妙な判定があった場合、ビデオ判定を要請できる制度。試合の進行を妨げないよう、回数は限られている。判定どおりだった場合はペナルティが課せられる(タイムアウトが１回取れないなど)場合も。テニス、アメフト、アイスホッケーなどで、一部導入されている。

レポート：北谷仁治