名古屋を追い詰めた神戸。鈴村の美学/F３節・神戸×名古屋

神戸が名古屋を追い詰めた。試合後、名古屋の選手に晴れやかな笑顔は無かった。それでも･･･。
　２－３。逆転で、勝利を収めたのは、名古屋だ。決してチーム状態が良くは見えなかった名古屋。それでも３連勝。主将の北原もツイッターで「デカイ」とつぶやく勝点「３」が、名古屋に転がった。

●ボールを支配した名古屋、ゲームを支配した神戸

　前半のボールポゼッションは名古屋。神戸はほとんど"ボール回し"ができないほどだった。
　それでも神戸もカウンターから、チャンスを掴んでいた。ポゼッションは名古屋に譲る、覚悟の戦いだったのだろう。
　試合後、アジウ監督も「相手のディフェンスが良かった。我々のプレーをさせてもらえなかった」と神戸のディフェンスを称えた。

　15:05 膠着状態を破る先制ゴールは、思わぬ形で、神戸に転がった―。

　中央、ハーフラインの前あたりでボールを奪った神戸７.原田の横パス(？)がディフェンダーに当たり、ループシュートのような軌道を描いて、名古屋ゴールに向かう。直前まで名古屋ボールだったため、前に出ていた川原が懸命に戻ったが、ボールは一瞬、ゴールに入る。審判がゴールを判定。ラッキーパンチのようなゴールが、神戸に入り、ホームのサポーターが歓喜に包まれる。「背番号７番、原田浩平のゴールです！」という場内アナウンスを受け、遅れて、コーヘイコールが湧き起こった。

　前半は１－０のまま、終了。名古屋も悪くなかったが、それほど決定機も掴めていなかった。

　後半、名古屋はマルキーニョの個人的な仕掛けなどからチャンスをつくったが、つまらないミスが続く場面も。「恵まれた状況、コンディションで挑めなかった」(アジウ監督)と言うように、チーム状態は良くなかったようだ。それでもポゼッションは圧倒的に名古屋だったのだが･･･。

　11:54 神戸が追加点を上げる。右のキックイン。素早くリスタートしたボールにゴール正面、川原の前に走り込んだ15.吉川が、ヒールで流すような感じで、ボールをゴールに流し込んだ。

　２－０。『大きな１点が入った』と思えた。『神戸が名古屋に勝つなら、こういう展開だろう』という展開だった―。

●決壊

　名古屋に勝つということは、ボウリングで"パーフェクトゲーム"を達成する感覚に近いのではないか。全くミスをしないで試合を終えること。名古屋との対戦で、モチベーション・集中力は自然に最高潮に達しているだろうが、40分間、"ノーミス"はやはり難しい。神経を研ぎ澄まし、鞭打って体を動かし、疲れも出てくるとなれば、なおさらだ。

　05:16 名古屋が１点を返す。
　左サイドの８.逸見ラファエルからのサイドチェンジ。右のファーで、マルキーニョがフリーになっていた。無人のゴールへ。マルキーニョは残っていたボールを片付けるかのように、落ち着き払ってインサイドでゴールに流し込んだ。

　個人的に『試合を決めた』と思える２点目は、９.森岡のゴールと言っていい。
　07:46 対峙する神戸15.吉川を、森岡が縦にスピードで振り切ると、ファーで再び２.マルキーニョが合わせた。２－２。試合は振り出しに戻った。名古屋からの"大金星"が見えていた神戸にとっては"大きな１点"が入ってしまった。ダメ押しともなりそうな神戸の２点目を決めていただけに、対応した吉川にとっては悔やまれるワンプレーとなっただろう･･･。

　名古屋の３点目は第２PK。４.山元の激しいディフェンスがファウル判定。微妙な判定だった。笛が鳴った瞬間、山元はピッチを転がり回り、「絶対、ない！」と天を仰いだ。02:33 この第２PKを11.ブルノが決め、３－２。名古屋が逆転。その後、神戸は14.西谷をゴレイロに入れてパワープレーに出たが、名古屋のディフェンスを崩せず･･･。名古屋が苦しみながらも、３連勝を飾った。

　「コンニチハ」快心の勝利に。会見場に現れたアジウ監督は(見たこと無いくらい)ご機嫌のようだった。「勝敗の分かれ道は細かいところのミス。少なくミスしたチームが勝利に導かれた。神戸も素晴らしい戦いで、いい試合になった。今日の選手たちはヒーローです。恵まれた状況、コンディションで試合に望めませんでしたが、相手のミスを活かせた。彼らはヒーローです。そんな選手たちとグループで戦えたことが気持ちよかった試合です」負け試合を"拾った感"が、アジウの態度や言葉からも感じ取れた。

　「前半は圧倒的にボールを支配しながらシュートチャンスが少なかったが、その要因は？あと、『恵まれた状況、コンディションで試合に望めなかった』という言葉がありましたが、その理由は？」という質問に対し、「１つ目の質問にはここで答えます。２つ目の質問はチーム内の問題なので、ここではお答えできません･･･」とし、１つ目の答えとして「今日は自分たちのできるプレーをやらせてもらえませんでした。神戸は堅いディフェンスで、ポゼッションはしましたが、入り込めなかった。ディフェンスが良かったのは神戸のメリット(良かったところ)だと思います。組織的なディフェンスで、内容で我々を上回っていました。私たちは気持ちで打ち克ったと思います」と回答した。

　神戸・比嘉監督は「いい試合だった。お客さん、神戸のファン、名古屋のファン、フットサルファン、感動したんじゃないかな」の後は予想通り･･･「去年と一緒。レフェリーの決定が試合を決めた。残念。正直、最後のはファウルだったかもしれないが、前半、名古屋のハンド、第２PKを取ってくれなかった。残念。悔しい。頑張っても自分だけの力じゃない」と嘆いた。
　「守備は良かった。１点目も２点目も細かいところ。ずれて、カバーの判断がうまく行かなかった。２回ボーとしてやられてしまった。次やられないように、やり直さないと」と試合を振り返った。

　ハーフタイムの指示については「ディフェンスのこと。１つ目と２つ目のライン。寄せる選手の後ろにカバーの選手が居ないと。アプローチとタイミング。あとはポゼッションを考えるように。名古屋のディフェンスが引くように、(判断を)早くしないといけない」と説明し、「40分間集中するために大事なことは？」という質問に対しては、「練習です。いっぱい判断させて、試合では自然に動いてもらうように」と答えた。

●鈴村の美学

　大きなケガ(前十字靭帯完全断裂)、手術から復帰した鈴村は名古屋との対戦に、いつになく燃えていた。
　「ホントに手術したの？」と関係者が驚くほど、鈴村は走り、当たり、そして吼え続けていた。

　立ち上がりの３分には"マークの受け渡し"について(？)、チームメイトの原田とピッチ上で、言い合いになった。鈴村の激しい指示に、原田も真っ向から対立。お互い譲らず。自己主張が二度三度繰り返された。

　後半10分過ぎには、激しく当たりに来た森岡に飛ばされたあと、立ち上がってくってかかる。森岡も「何言ってやがるんだ」とばかりに鈴村を睨んだまま、詰め寄る。それでも鈴村は森岡を押し返しながら、大きな声で、森岡に何かを叫んでいた。森岡にイエローカード。お互いベンチに下がりながらも、ベンチに下がった互いを睨み、言葉を発し続ける。チームメイトたちが取り囲み、なだめて、ゲームに集中させる。

　２－３となって神戸のパワープレー中。残り30秒で神戸のフリーキック。キッカーの鈴村はキック直前に滑って、転倒。その後、鈴村が審判にアピールしているときに、名古屋サポーターから何やら声が飛ぶ。キックインを蹴る鈴村も、名古屋サポーターに何かを言い返した。

　『絶対、負けない！』試合に勝つために剥き出しの鈴村"闘争心"は、相手選手以外にも容赦なく"飛び火"していた。しかし･･･。

　試合後、名古屋サポーターにチームで挨拶に行った後、ひとり残り、名古屋サポーターに歩み寄る鈴村の姿があった。鈴村が声をかけ、名古屋サポーターからも返事が返る。何度か言葉のやり取りをしたあと、鈴村は名古屋サポーターに拍手を送り、深く頭を下げて、その場を後にした。その後、名古屋サポーターからは、スズムラコールが湧き起こった。
　(ちなみにこの時、何を伝えたのか尋ねても、鈴村は「何もありません。名古屋のサポーターは素晴らしい。それだけです」と答えるのみだった)

　その後、鈴村は森岡を呼びとめ、話をしていた。
　森岡の方はまだ気持ちが収まっていない様子で、最初は険しい表情だったが、何度か言葉を交わした後、二人は握手し、抱擁を交わした。ラグビーの"ノーサイド"を思い出した。
　ハッキリと"ノーサイド"という概念があるわけではないフットサル、サッカーでは、試合中の激しいプレー(時にラフプレー)を試合後も引きずっている選手をよく見かける。それがキッカケで"因縁の対決"なんかもできたりするワケだが、"その場"できちんと話し合い、遺恨を残さない鈴村選手の態度は立派だと思えた。
　鈴村は言う。「やりあっていたので『ゴメンな』という言葉をかけただけ。カオル(森岡選手)に対してはすごい選手だという思いもあるし、リスペクトもある。だからこそ激しく行った。普通の選手なら吹っ飛んでしまう当たりでも、あいつは飛ばない。だからファウル覚悟で行っているところもあったので･･･」

　そんな鈴村と森岡が話しているところに、アジウ監督が歩み寄っていた。アジウ監督は言う。「私は鈴村選手を称えに行ったのです。試合中は名古屋の選手の味方ですが、彼のファイティングスピリットは素晴らしい。日本には数少ない選手ですし、必要な選手だと思います」