サポーター目線

 Fリーグの新しい楽しみ方を発見した。普段、僕のようなメディアが座っているのは記者席だ。記者席はピッチの中央に設置されることが多い。試合を俯瞰的に観戦するのに適していて見やすい。

 だが、贅沢な話だがどれだけ見やすくても同じ場所でずっと見ていると、たまに飽きてしまうことがあるのも事実。そこで2日で5試合が行われた小牧セントラルの最終戦で、僕はあることを思い立った。

 それは“サポーター目線”で試合を見てみようというもの。

 湘南vs大阪、前の試合の取材を終えてスタンドに上がると面白そうなことになっている場所があった。記者席のあるメインスタンドから向かって右側のゴール裏、そこは湘南のサポーターエリアだった。

 湘南の応援はFリーグでナンバーワンだと言われる。確かにセントラルでも湘南の試合になると会場の雰囲気がガラッと変わる。人数の多さはもちろんだが、一人一人の声を出す量や、コールのパターンやタイミングなど、さすがJクラブもあるチームだと感じさせられる。

 この日の“湘南サポーター”のゾーンはゴール裏の角に陣取ったコアサポーターを中心に2倍ぐらいに膨れ上がっていた。昨シーズンまで岐阜のチームに所属していた23番・中島涼太の応援のために元所属チームの選手やスクール生などが大量に加わっていたのである。

 僕はこっそりと湘南サポーター席のすぐ横に座ってみた。ゴール裏はメインに比べると客観的に試合を見るのは難しい。その代わり、前後にボールが行き来するので、ピッチの選手と同じような感覚を味わえる。

 湘南は関東2部の柏TORから加入したゴレイロの渡辺良太をスタメン起用。33歳のベテランは巧みなコーチングで味方を操りながら、大阪のシュートをストップする。今日の湘南からは、全員が集中して体を張って戦っていることが伝わってくる。

 僕はFリーグで湘南を応援しているわけではないのだが、サポーターエリアにいると自然と湘南応援モードになってしまう。大阪のシュートが飛んで来れば「ヤバイ!」と心の中でドキドキし、外れれば「ヨシッ」と胸を撫で下ろす。

 均衡した試合にゴールが生まれたのは、湘南がサポーター席に攻めてきた後半のこと。14番・中村猛が胸トラップからボレーシュートというファインゴール! 中村はサポーターの前まで向かってきてガッツポーズ。思わず立ち上がってしまう僕。

 先制後は大阪に猛攻を食らい、32分に同点ゴールを決められると、今度は第2PKを与えてしまう、何とも嫌な流れ。ここで男を見せたのが控えに回っていたゴレイロの冨金原徹だった。大阪の第2PKを止めて、大阪に傾きかけた流れを引き戻した。

 そして2度目の歓喜が訪れる。36分、決めたのはエースのボラ。豊島明のパスを受けると、相手をブロックしながら、前に出てきたゴレイロの股を抜く巧みなシュートを決めた。神様、仏様、ボラ様。こんなにもボラがカッコイイと思ったことは今までなかった。

 そこからの4分間が何と長かったことか! 終了直前に同点に追いつかれる最悪のシナリオが浮かびながらも、固唾を呑んで見守る。もちろん湘南サポーターは「ベールマーレ!」コールをピッチに送り続ける。そしてタイムアップの瞬間が訪れた。

 イヤー、興奮した、感動した。サポーターはこんな思いを味わっているのかと思うとうらやましくなってしまった。湘南恒例の「勝利のダンス」に交ぜてもらおうかと思ったけど、スタンドからカメラマンが狙っていたので自粛しました(笑)。

 サポーターが試合の結果にどれぐらい貢献したのかを数字で計ることは残念ながらできない。だけど、この試合を勝たせたのはサポーターだったと思う。いや、そう思いたい。1試合限定だけど湘南を応援していたサポーターの1人として。

プロフィール
北健一郎
1982年7月6日、北海道旭川市出身。稲葉洸太郎、高橋健介、フウガの中心メンバーたちと同じ“82年組”のライター。いつの日か彼らの仲間に入れてもらうこと夢見ている。
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