監督不在

 「本音を言えば振り返りたくないぐらい悔しい大敗でした。しかし、ゲームを捨てないで最後までしっかりと戦ったことは良かったと思います。悔しい思いで一杯ですが努力していきたい」。

 1−9で大敗した大分戦後、北海道の小野寺隆彦監督は「いつものように」敗戦の弁を語った。これまでに何度も何度も聞いたことのある内容のコメントだった。

 小野寺監督はエスポラーダのチーム創立の立役者である。母体のなかったところからチームを作り上げ、初代監督に就任。昨シーズンは選手の個性を生かすフットサルでFリーグ参入1年目ながら4位に食い込む躍進を支えた。

 そんな北海道が2年目のジンクスに苦しめられている。開幕戦では賛否両論がありながらも、時間を削るパワープレーで王者・名古屋相手に引き分けて、貴重な勝ち点1を獲得。しかし、それ以降は安定した戦いを見せられず、大量失点を喫する試合も目立つ。

 僕は北海道の今シーズンの試合をしっかりカバーしているわけではない。それゆえに失点が多い理由が今ひとつわからなかったのだが、Fリーグのセントラル開催で久しぶりに試合を見てハッキリした。

 このチームには明確な決め事がないのである。

 まずは守備面。前から積極的にボールに寄せる姿勢は良いのだが、それぞれが自分の判断だけで動いているので、大分の連動したパスワークによって簡単にかわされてしまう。

 例えば、後方で相手が横方向にパスをつないでいるときに、北海道は2人がマークに行っているにも関わらず、本来はカバーリングをするべき3人目の選手まで前に上がって寄せてしまい、裏に飛ばされて、数的不利の局面を作られる。

 攻撃面でもチグハグだった。水上玄太、仲村学、鈴木裕太郎とアタッカーが欠場していた影響を差し引いても、何をやりたいのかが見えてこなかった。昨シーズンまでは長年一緒にした仲間同士の即興的なパスワークが見られたが、それも見られず、単発のドリブルやシュートを繰り出すのみ。

 落胆した僕は記者会見で小野寺監督に「攻撃も守備もチームとして何をしたいのか見えて来なかったが?」と質問した。すると若手議員のような爽やかな受け答えをする指揮官が珍しく語気を強めてこう返してきた。

「僕たちの中では約束事はあったが、それが見えなかったといわれるのであれば、真摯に受け止めて、次につなげたい」。
 
 記者会見で戦術について詳しく説明してくれとは思わないが、具体的な改善点を聞きたかったこちらとしては不満の残る回答だった。

 小野寺監督は今シーズン、固定したセットを組まず、全ての選手を練習から競争させ、若い選手を積極的に起用している。そこには「ずっと同じメンバーでは戦えない」という長期的なビジョンや、怪我人や出場停止などの戦力ダウンを避ける狙いがあるのだろう。

 だが、そのようなやり方をするのであれば、チームの中に「誰が出てもこれだけはやる」という“軸”がなければいけない。何も約束事がない中にポンと若手が放り込まれても実力を発揮できないし、主力選手が欠ければとたんに大幅に戦力ダウンしてしまう。

 現在の北海道はあ・うんの呼吸もなく、戦術の約束事もなく、ただ全力で頑張るところが魅力になってしまっている。それではFリーグという興行を見に来た人たちを満足させることはできない。北海道中から集まった最高の素材を揃えるチームだけに、それを料理するシェフの腕が問われる。

プロフィール
北健一郎
1982年7月6日、北海道旭川市出身。稲葉洸太郎、高橋健介、フウガの中心メンバーたちと同じ“82年組”のライター。いつの日か彼らの仲間に入れてもらうこと夢見ている。
目次へ フットサルタイムズトップへ スポーツライター北健一郎のブログへ