ロシアのヒミツ

 日本代表の壮行試合を東京と神戸で2試合見た。東京で4−7、神戸で1−5で2試合連続で完敗。AFCフットサル選手権をはこのままで大丈夫なのかと言いたくなる。ただし、ロシアが相当強かったのは事実だ。

 ロシアの平均年齢は21・2歳。日本では21歳が平均年齢のチームを作ることすら難しい。高校卒業後にフットサルに転向する選手がほとんどの日本フットサルの場合、このあたりの年齢はちょうどサッカーからフットサルへの移行期間となるうえに、フットサルを本格的にプレーしている選手自体が少ない。

 だが、ロシアの場合は19歳の選手たちがちゃんとフットサルをプレーしていた。ロシアの監督の話によれば、今回のチームはディナモ・モスクワとウィズ・シナラという国内リーグの2強の選手が4、5人招集できなかったそうだ。つまり今回のチームはロシアの若手年代の中でもトップクラスではない。

 ……どんだけ強いんだよ、ロシア。

 とはいえ、ロシアが別段難しいことをやっていたかといえば、そうではない。僕の目には同じことを何度も繰り返していたようにも見えた。滝田学も「やってくることはシンプルだった」と語っている。それでも、日本がボコボコにやられてしまったのはどうしてだったのだろうか。

 ロシアがやっていたのは「3−1のプレス回避」と「ボールを奪った後の速攻」の2種類。パス回しでは3人が並んで、1枚が前。右サイドには必ず左利きの選手を置く。右利きの選手がこの場所で受けた場合でも左足でボールをコントロールする。中(あるいはナナメ)を向いてトラップしたときに、左足にボールがあるほうが相手からすれば取りづらい。

 パス回しは横に並んだ右・中・左の3人のサイドからスタートする。右(左)から中に出して、ワンタッチorダイレクトで右(左)にリターン。中の選手がパスを出した後に前に抜ける。このとき、中の選手に対する相手のマークのつき方で次のプレーを変える。

前に走った中の選手に縦パス。中の選手が前に走ってコースを作って、サイドからサイドに横パス。中の選手が抜けると見せかけて止まり、相手の間でもらってドリブルやワンツー。ピヴォ(前の選手)へのコースが空いたらピヴォに当てる。

 これ自体は目新しいことはない基本的なパス回しである。だが、驚くべきは彼らの判断力である。ここではこのプレーをやろうという決め打ちではなく、相手のマークのつき方、ポジショニング、どこにスペースがあるかなどのピッチ内の情報を読み取り、その状況に応じた最善のプレーを選ぶことができる。

 日本では「こうやって崩そう」というパターンがあって、その形になったら、相手や味方の状況はお構いなしで一つのパターンをやろうとする。だから、そのパターンを読まれたり、タイミングが合わなければ、そこで思考回路がストップしてしまうシーンもよく見かける。ロシアにはそんなシーンが皆無だった。

 そのヒミツはロシアの育成事情にある。ロシアでは、フットサルを専門に教えるスクールがあって、小さい頃から優秀な選手は「選手コース」で英才教育を受けるのだという。小さい頃にフットサルの基本ベースを体に染み込ませているので、普段別々のチームでプレーしていても、パッと集まってすぐに合わせることができる。

 ロシアの選手は日本よりもずっと若かったが、フットサルに関してはずっと大人だった。

プロフィール
北健一郎
1982年7月6日、北海道旭川市出身。稲葉洸太郎、高橋健介、フウガの中心メンバーたちと同じ“82年組”のライター。いつの日か彼らの仲間に入れてもらうこと夢見ている。
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