スカウティング力
日本代表のスペイン遠征に行ってきた。たくさんの貴重な経験を積むことができたが、その中でも最もレアな経験だったといえるのが、ナマでスカウティングを見れたことだ。

スカウティングは基本的にチーム内部で行われる。試合前に相手チームの戦い方、選手の特徴などを洗い出し、ポイントになることを選手に伝える。練習メニューにそれに対する具体的な対策を組み込み、本番に臨むわけだ。

Fリーグのクラブであれば、どこもやっているだろう。よく、監督や選手が「相手がこうしてくることはわかっていた」とか「気をつけていたんだけど……」と話しているのは、スカウティングが元になっている場合が多い。

今回僕が見たのはインテル・モビスタ戦のスカウティング。インテルのホームアリーナに向かう日本代表バスに同乗させてもらったのだが、合宿地のセゴビアを出発して1時間ほど経ったところで突然始まった。

予想外の展開だったが、ミゲル監督らしいとも思った。常々、「自分の持っているものは全部日本に置いていく」と語っているミゲル監督だ。自分の仕事にそれだけの自信を持っているのだろう。

これ以外に見たことがないので比較はできないが、ミゲル監督のスカウティングは期待通りのものだった。「なるほど」と思ったことを書いていきたい。

個々の選手については、選手の利き足、ボールの持ち方、得意な形を伝えたうえで、どうやって守るべきかを教える。

例えば、ブラジルのスピードスター、マルキーニョスに関しては「1発目ではまず打って来ない。2回、3回と切り返してからシュートをする」と話した。人間離れした瞬発力でストップとダッシュを繰り返すスピードスターのシュートフェイントは、予備知識がなければまず100%引っかかる。

だが、確かに言われてみれば、マルキーニョは1回目でシュートを打ってくるところはほとんど見たことがない。シュートはうまく、正確だが、パンチ力はそれほどないので、相手を完全に外してから打ちたがるのだろう。

それから、重量級ピヴォのベットン。「左利きだから、左方向にターンしてシュートを打ってくる。左に持ち出してからのヒールパスもよくやってくる」とミゲル。

2年前のワールドカップで、日本はベットンのピヴォ当てからの攻撃に対応できず、大量失点を喫した。サッポ監督からこのような具体的なアドバイスはあったのだろうか。

個人的に目からウロコだったのがGKの狙いどころ。スペインのGKは膝を落として構えを作るのだが、膝を落としたほうの肩口を狙えと言う。膝を落とすことで体がやや傾くので、シュートコースが空く。

もう一つ、気になったのが世界最高クラスのインテルの選手にしては、不自然なぐらい失敗プレー多かったこと。シュートシーンが鮮やかに決まったのは数えるほどで、ふかしたり、相手に止められているシーンがたくさん出てくる。

もしかしたら、あえて失敗シーンを見せることで「相手も同じ人間なんだ」「頑張ればやれる」というメッセージを刷り込み、自信を与えようとしていたのかもしれない。

作業の時間を考えれば「成功した」シーンを集めたほうが簡単なはずだ。たくさんあるゴールシーンの中から抜き出せばいい。でも、インテルが「失敗した」シーンを集めるには何倍もの時間がかかるだろう。

映像がちょうど終わったところで、チームバスは会場に到着した。「ちょうど終わるのがすげぇな」とある選手の声が聞こえた。ミゲル監督の新たなすごさを垣間見た30分間だった。

プロフィール
北健一郎
1982年7月6日、北海道旭川市出身。稲葉洸太郎、高橋健介、フウガの中心メンバーたちと同じ“82年組”のライター。いつの日か彼らの仲間に入れてもらうこと夢見ている。
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