監督か選手か

 1月9日、浜松アリーナで行われたFリーグ20節、町田vs大阪。

 2−1の大阪リードで迎えた30分、2点差から1点を決めて追い上げる町田にトドメを刺したのは大阪の「10番」だった。林浩平のパスをワントラップすると、左足一閃。ツマ先から放たれたボールは、スーッと伸びていって、豪快にゴールネットを揺らした。ゴールが決まったのを見届けると、10番は大きくガッツポーズを作った。

「ミスター・シュライカー」。大阪の10番、岸本武志を紹介するときはこんな形容詞がつく。精度の高いパスでゲームをコントロールし、決定的なワンプレーを繰り出す。プレー面だけでなく、リーダーとしてチームを統率するカリスマ性もある。岸本のチームと言っても過言ではないほど絶対的な存在だった。

 だが、町田戦で岸本に与えられた出場時間はわずか5分だった。3点目を決めた後も出場時間は伸びなかった。ミスターシュライカーと呼ばれた男は、ほとんどの時間をアップスペースで過ごした。ゴール後の、彼にしては珍しい大きなガッツポーズには、自らの起用法に対する強烈な反骨心が見えた。

 試合後に岸本をつかまえて話を聞いた。「素晴らしいゴールでしたが……」という前振りがあって、極端に短かった出場時間についての話題になる。岸本は「自分なりに分析すると、チームのやり方が変わったこと、ゴール数が減っていることが原因なんじゃないかと思う」と冷静な表情で話し、「出た時間で少しでも結果を出せるようにしたい」と前向きに語った。

 試合に誰を、どのぐらい出すかを決める権利は、当然だが監督にある。アドリアーノ監督が岸本を出さなければいけないというルールもない。とはいえ、町田戦を見る限り、岸本を押しのけてまで起用すべき選手が果たして何人いたのか、というと個人的には疑問符がつく。アドリアーノ監督と岸本の間に「何か」があったのではないかと勘ぐりたくもなる。

 アドリアーノ監督はこれまでにも主力選手とぶつかることが多かったからだ。府中アスレティックFCでは就任1年目に主力選手だった伊藤正範、三井健とフットサルの方向性を巡って衝突。貴重な生え抜きだった伊藤と三井はチームを退団することになった。

 今シーズンもイゴールやエビーニョというブラジル人助っ人が出場機会を失ったことがあった。もちろん、彼ら自身のパフォーマンスに問題があったのは間違いない。イゴールはイライラする悪癖があったし、エビーニョはパス回しのリズムを崩してしまうところがあった。

 プロ監督として彼らを「外す」という選択肢はあって当然だ。監督に与えられた最大の権限を利用して選手たちの奮起をうながし、パフォーマンス向上につなげることは有効な手段だ。とはいえ、主力選手でも容赦なく外すという荒療治は、監督自身の求心力を失う要因にもなりかねない。

 アドリアーノ監督と心中するのか、岸本というバンディエアラを守るのか。来シーズンに向けて大阪は大きな決断を迫られることになるのではないだろうか。

プロフィール
北健一郎
1982年7月6日、北海道旭川市出身。稲葉洸太郎、高橋健介、フウガの中心メンバーたちと同じ“82年組”のライター。いつの日か彼らの仲間に入れてもらうこと夢見ている。
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