小さくて大きな差
  来季からFリーグに参入するエスポラーダ北海道は、全日本選手権の1次ラウンドを1位で突破して名古屋と準々決勝で戦った。「自分たちのフットサルをやろう」(菅原和紀)と真正面からぶつかった結果は1−6の完敗だった。

 試合後のミックスゾーンでは「名古屋との差はどこに感じた?」という類の質問がメインになったのだが、エスポラーダ唯一の得点者の嵯峨祐太が面白い話をしていた。嵯峨が名古屋との差として挙げたのは「コントロールの差」だった。

「名古屋の選手はプレーの幅が広いというか……右足に来ても左足に来ても同じようにプレーできるんですよ。そこがうまかったです」

 両方の手の平を下に向けて、足元にパスが来たというジェスチャーを交えて嵯峨が続ける。

「例えば、右足で欲しいのにパスが左足に来ちゃったとき、名古屋の選手は右足にスッとボールをコントロールできる。でも僕たちは左足から右足にコントロールするのにちょっと時間がかかる。その間に寄せられてしまうんです」。

 この日のエスポラーダは名古屋相手にカウンターからのチャンスは何度か作ったものの、「自分たちのフットサル」である前からプレスをかけて、パスをつないでいくという形はほとんど見せられなかった。

「パスをつなぐ→寄せられてパス精度が落ちる→受け手のほしい場所とズレる→トラップに時間がかかる→ボールを取られる」という悪循環に陥ってしまっていた。一方で名古屋の選手はパスが多少ズレてもプレーの幅でカバーできるので、エスポラーダとしてはうかつに飛び込めなくなる。

 その差は小さいながらも歴然としていた。時間にすれば1秒にも満たないところだが、ボールの処理スピードの速さが、パスのつながりをスムーズにするかどうか、相手のプレスにかかってしまうか逃れられるかの生命線になって、大げさにいえば1−6というスコアに表れた。

 エスポラーダは北海道リーグの“名古屋”である。北海道リーグの有力選手を集めたオールスター軍団のライバルになるようなチームは北海道にはいない。Fリーグで名古屋がそうされるように、北海道リーグで対戦相手は自分たちの前に自陣に引いて守りを固めてくる。名古屋のように前からプレスをかけてくるチームは皆無だという。

 北海道リーグで気づかなかったことを気づくことができたのは、エスポラーダにとって今大会最大の収穫だったといえるだろう。Fリーグ開幕までに小さな、しかし、大きな差を突き詰めることができれば、1−6の大敗は「安い授業料だった」といえるはずだ。



プロフィール
北健一郎
1982年7月6日、北海道旭川市出身。稲葉洸太郎、高橋健介、フウガの中心メンバーたちと同じ“82年組”のライター。いつの日か彼らの仲間に入れてもらうこと夢見ている。
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