第64回「ワンデー」

「ワンデー」…民間のフットサルコートなどで行われる、ワンデー大会、あるいはワンデートーナメントといわれる、1日完結の大会のこと。かつてはトップチームたちの腕試しの場として活況を呈し、現在は参加カテゴリー分けの細分化が激しい。

トップレベルの
ガチ大会が多かった

2000年前後から各地でボコボコでき始めた民間フットサルコートの、集客の主たるものは一般の希望者にコートを貸す面貸しと、決められた時間に別々の個人が集まってボールを蹴る個人参加、子供たちなどを対象としたスクール、そして土日を中心に何チームも集まって行われるワンデー大会だった。当初はこのワンデー大会の参加カテゴリーは、腕試しの「チャレンジクラス」と、勝敗にこだわらずに大会を楽しむ「エンジョイクラス」に分かれていたのが主流だった。

この「チャレンジクラス」に、かつては当時の競技フットサルのトップレベルのチームがこぞって参加していた。公式のリーグや大会がまだきちんと整備されていなくて、試合に飢えていたのである。チーム同士「あの大会に一緒に出よう」と申し合わせて参加することもあったらしい。

僕自身、フリーになりたての頃に、こうした大会の運営の仕事を頂いて、やっていたことがある。まあ、それはそれは熱い試合ばかりだった。みんな「ウエイ」「ウエイ」と気合いの雄叫びを挙げながらプレーしていたものだ。ゲームの質自体も、大会ごとに新しい戦術やサインプレーが繰り出されたりする感じで、参加各チームの刺激になっていた。こうした中で、トップ選手同士の横のつながり、絆もできていったようだ。

みんな、自分たちが負けても会場を去らない。最後の決勝は大勢のギャラリーがコートを取り囲む形で行われていた光景が目に浮かぶ。今思えば、僕もこうした中でフットサルをプレーすること、観戦することの楽しさに目覚め、メディアの人間としてフットサルを本格的に追っかけるようになったのだった。

ただ、こうした大会は10分や15分ハーフのランニングタイムの試合がほとんど。そのうちきちんと20分のプレーイングタイムで行われ、体育館の床で行われる公式リーグ、大会が整備されていったことで、多くのチームがそちらに流れていった。

そしてワンデーは、エンジョイクラスが中心の世界になっていく。


ビギナーは
初心者じゃないという事実

先日、あるフットサルコートに行ったときに、大会参加チームの募集告知を見て驚いたことがある。

そのカテゴリーに「スーパービギナー」と「ウルトラビギナー」の2つのビギナーがあったからだ。スーパービギナーは経験者が2、3人いてもいいらしく、ウルトラビギナーのほうはすべて初心者で構成されたチームでないといけないらしい。

そしてさらにビックリしたのは、「ウルトラビギナー」でも勝てないチームが集まる「どん底」というカテゴリーがあったこと。そこまでしてみんな勝ちたいのか、あるいは同じレベルということにこだわるのか……。

ワンデー大会で実質「チャレンジクラス」が組めなくなると、公式の大会まで挑戦するほど真剣ではないがうまい人たちのチームは、エンジョイクラスへ流れていった。勝敗にこだわらないそれまでのエンジョイチームだったとはいえ、そういううまい人たちにいいようにやられて優勝をさらわれていくと、やはり面白くない。

もっと自分たちのレベルにあったクラスはないのか。そうしてワンデー大会のカテゴリーの細分化が激しくなった。今やエンジョイは勝敗にこだわる、ワンデー大会の最高峰のカテゴリーという意味にとらえられていることが多い。そしてもっとレベルの低い下のカテゴリーにビギナーという言葉が使われているようだ。

ただ、細分化が激しくなると、今度は各カテゴリーの参加チームを集めるのが大変になる。今後ワンデー大会はどのような変化をしていくのか。注目されるところだろう。

僕としては、たまにはFリーグや地域リーグチームなども参加して、かつてのチャレンジとエンジョイの別カテゴリーを同時に行ったような、ワンデー大会を開いてみたら面白いのではと思う。エンジョイの人たちにとっては、トップレベルの選手たちのプレーを間近で見るのは刺激になるだろうから、これは確実に見るフットサルの普及につながるはずだ。

いいフットサルフェスティバルになると思うのだが。



プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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