第59回「ミドルシュート」

「ミドルシュート」…文字どおり、「中距離」からのシュート。フットサルでは第2PKマーク周辺。ゴールまで10メートル前後あたりのエリアからのシュートを、こう呼ぶことが多いようだ。


チームの戦いを左右する
ミドルシュートの良し悪し

攻撃側がボールを回して相手を押し込むが、ゴール前になかなかボールを入れて攻められない状況のとき、その相手の守備ブロックの外から打つミドルシュートは、ひとつの選択肢だ。Fリーグなどを見ていると、日本のフットサル界のミドルシュートは第2PKマーク付近、すなわち10メートルあたりが射程範囲のように見える。これより内側に入ると、シュートが決まりやすい。

したがって守備側はゴールから10メートルよりこっちには、なるべく攻撃側に侵入されないようにボールに寄せていかないと、ミドルシュートを決められてしまう。逆に10メートルより外からであれば、ミドルシュートは打たれてもOK。枠を外れるか、ゴレイロの守備範囲内であることが多い。

実際には、最近は守備側のレベルが高く、いくら攻撃側にボールを回されても、10メートル以内に侵入されることは少ない。するとプレッシャーがかかるのは、攻撃側のほうだ。ボールを回して相手を揺さぶっても、なかなか崩れない。無理めにピボ当てにいって、ゴール前に入ろうとしても体を寄せられてブロックされてしまう。では、ミドルシュートか?しかし、10メートルより遠い距離からだと、なかなか入らないのである。

シュートの威力がなくてなかなか決まらないので、どうせ打つなら思い切り打とうとする。ただそれだとキックモーションが大きくなって、目の前のマーカーにブロックする時間を与えてしまうことが多い。それでもと強引に打った場合、ボールがブロックされて跳ね返りを相手に拾われたらどうなるか。カウンターを食らって、一気に失点のピンチになるのだ。

ではマーカーのブロックを避けようと、慌てて打ったり、あるいは切り返してマークを外して逆足で打ったりとなるとどうか。いい体勢で打てなかったシュートは、ゴレイロの守備範囲内。しかも余裕を持ってキャッチされることも出てくる。どうなるか。同じようにカウンターの餌食になってしまうのである。

シュート力がないがためのそういう事情があるから、打てるタイミングでもミドルシュートをためらっているシーンをよく見かける。打つにしても、マーカーのブロックをよけ、ゴレイロにキャッチされにくいことを考えるから、結果ゴール枠を大きく外すシュートが多くなる。また、打てるタイミングでまごまごしていると、相手に寄せられてボールを奪われる危険もあるので、はなから打つ気配を見せずにボール回しに徹して、次の展開に備える選手もいる。

すると上から見ていると、何かシュートを打ってもいいような感じなのに、打たないでいつまでもボールを回しているなあと感じる状況が起こるのである。


マーカーのタイミングをずらし
ゴレイロのブラインドを狙う

これが世界レベルのフットサルになると、お分かりのようにもっとシュートレンジが広くなる。ざっくりいえば、ハーフェイラインから第2PKマークの間くらい。つまりゴールから15メートルくらいからの距離でも、危険なシュートをバンバン打ってくるのだ。守備側は当然これをチェックにいかないといけないから、前に出ていく分、ディフェンスでの運動量は増えて消耗させられる。加えて守備ブロックも広げさせられるので、空いたスペースを攻撃側に使われる危険も出てくる。

ミドルシュートを持っているか持っていないかで、随分と相手に与えるダメージが変わってきてしまうのである。だからといって、強いシュートがすぐに打てるようになるわけではないだろう。もちろんコツコツと努力は必要だけれども。

そんな中で、これはヒントになるのではと思ったのは、先日のFリーグ第2節、代々木第一体育館でのセントラル開催で、町田のベテラン甲斐修侍が、大阪のゴレイロ・イゴール相手に決めたミドルシュートだ。

ゴールに向かってやや左の位置から、甲斐が左足を振りぬくと、ボールはイゴールの頭上を破ってゴール上に突き刺さった。こうした、ゴールに向かってドンという、いってみれば「まとも」なシュートは、イゴール相手にはなかなか入らないから、ビックリしたものだ。

しかし、スローで映像をよく見てみると、甲斐の前の大阪選手がブラインドになって、イゴールはシュートの瞬間にボールが見えていなかったようなのである。実はあれだけの堅守を日本のフットサル界で誇示しているイゴールも、このブラインドからのシュートに意外なほど弱い。反応できずに、立ち尽くしたままボールが入っちゃうというシーンが、これまで何度かあった。

ゴレイロから見てマーカーがブラインドになる状況をわざと作るとしたら……。シューターはそのマーカーを、自分から近い位置に引きつけるしかない。簡単にブロックされてしまうから、マーカーにシュートを悟らせないか、ブロックの前にシュートを打ってしまうことだ。

そこでもう一度ゴールシーンを確認。甲斐はこのとき、蹴り足の振りが速くて、相手がブロックのタイミングを取りにくい、トーキックでミドルシュートを打っていたのである。マーカーはシュートが来ると思っていなかったみたいで、ブロックの動きをしていないし、そのマーカーがブラインドになったイゴールは、シュートに反応できなかったというわけだ。

ミドルシュートの攻防。今度の観戦の際には、ぜひ注目してみてください。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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