第56回「アジア選手権」

「アジア選手権」…日本では昔から「AFCフットサル選手権」のことを、「アジア選手権」と呼んで親しんできた。今回はUAE・ドバイでの大会。11月にタイで行われる、「FIFAフットサルワールドカップ」の出場権を獲得し、かつアジアの頂点を目指す戦いで、今、日本のフットサルファンたちが熱い視線を注ぎ、大いに盛り上がっている。

Fリーグの成果が
試される今大会

既にこの大会については、連載第9回の「AFCフットサル選手権」で一度書いていますので、大会の歴史や、フットサル日本代表の細かい変遷などについては、そちらを参考にしていただければと思います。

2009年に、スペイン人のミゲル・ロドリゴ監督が日本代表を率いるようになってから、大会はそれまでの毎年開催から、2年に1度の開催に変更。ミゲルジャパンとしては、2010年のウズベキスタン大会に次ぐ、2度目のアジア選手権になる。そして、毎年開催時代からそうだったように、4年に1度のワールドカップイヤーとなる今年の大会は、その予選を兼ねた戦いとなる。

アジアからのワールドカップ出場枠は、開催国タイを除いて4枠設けられている。既に日本は1次リーグを3連勝で1位突破し、29日の準々決勝に勝利してベスト4に入れば、11月にタイで行われる「FIFAフットサルワールドカップ」の出場権を獲得できる。まさに現在は、決戦前夜の状況だ。

アジアの勢力図は、数年前から変化し、混とんとしてきている。イランが頭一つ抜け出ているのは変わらないが、2番手として頑張っていた日本は、2008年、2010年大会と共に3位。特にミゲル監督が世代交代を図った後の2010年大会は、準決勝でイランに0−7と大敗し、話題となった。かつての地位から、「第2グループの1チーム」という位置へ、引きずり下ろされている印象を受ける。

タイやウズベキスタン、中国などが、それぞれの強化方法で力をつけてきており、この中でどのチームがイランとの決勝の舞台に立ってもおかしくない状況だ。加えてこれまではフットサルにそれほど熱心でなかった、西アジアも力を入れてきている。実際、今大会日本は初戦でレバノンに3−2の苦戦を強いられた。

一方で世代交代を図ったミゲルジャパンは、2007年に始まったFリーグの中堅から若手年代の選手を積極的に招集して、鍛えたチームだ。ベテラン勢が徐々に力を落としていく中で、新たに呼ばれた選手たちはポテンシャルが高いといわれているが、何しろ国際試合の経験が不足していた。

アジア選手権が毎年あった時代は、その大会自体が国際経験の場になったし、そこに向けた強化ということで定期的な海外遠征や国際試合も組んで、ある程度強化スケジュールのパターンが決まっていたところがある。ところが、アジア選手権が2年に1回になったことで、彼らにとっていちばん緊迫感のある戦いができる場所が減ってしまったのは痛い。それでも選手たちのレベルアップには、日ごろの戦いの場であるFリーグがあるじゃないかという状況になった。

今大会は結局、今回のミゲルジャパンの候補選手グループの中から、このアジア選手権の経験者を、MAXの数招集する選択をしている。それでも日本の出来のよしあしに関しては、日本のフットサルの実力アップのために作り上げた、彼らの主戦場であるFリーグの成果が問われることに間違いはない。

大会を取り巻く
状況は変わった

日本にとって、アジアの戦いは本当に特別だと感じる。過去のアジア選手権を見ると、傾向として1次リーグ敗退レベルのチームでも、個の力では日本代表の平均レベルを上回る選手が1、2人いて、対戦相手を苦しめるのがパターンだ。

日本のよりどころは組織とセットプレー。複数で攻め、守り、セットプレーを生かす。特に1次リーグの格下の相手には、セットプレーでの得点で大量点を奪っていくのが、古くからの日本の形になっている。

準々決勝以降のトーナメントは、ミスが許されない緊張感と、お互いの意地と意地がぶつかるテンションの高さがあって面白い。その中で日本は強みであるチームの一体感でぜひとも準々決勝を突破してもらい、優勝を目指して頑張って欲しいと思う。

ところで、今大会がこれまでと違うのは、SNS発達後初の大会ということ。熱心なファンの方はすでに感じられていることだろう。TwitterやFacebookのおかげで、日本にいながらにして、フットサルファンで素早く情報が共有されている。AFCが公式サイトからUstreamで試合がライブ中継しているが、日本では事情により視聴制限がかかっていて基本的にこれが見られない。では、どうやったら見れるのだ? そういったこともあっという間に伝わっていく時代だ。

また、選手、監督個々が、フットサルの広報マンとして、この大会への思いをつづり、日々の状況を、みんなに伝えている。ファンもこれに反応。もちろん現地にも多くのファン、メディアが駆けつけている。毎大会、日本はスタンドでもプレスルームでも、大会の盛り上げ役だ。

こうして日本は、今まで以上の広い範囲での一体感を感じながら、戦えるのが強みになるだろう。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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