第55回「子供にフットサル」

「子供にフットサル」…フットサル普及、宣伝の常套句。小さい頃にフットサルをプレーすることで、将来のプレーにさまざまメリットがあることがいわれますが、今回は今一度、この言葉を整理してみたいと思います。


ボールに触れる機会の
圧倒的な多さ

何よりもいちばん語られるメリットは、「ボールに触れる機会が多い」こと。これは「11人制サッカーと比べて」という枕が入っているのだが、5対5の少人数で行うフットサルだけに、1人1人がボールに触れる機会が自然と多くなり、ボールを扱う技術も発達しやすいのだといわれる。

僕の周囲、そして読者の方の周囲にも、大人になってからフットサルを始めた人が何人かいるだろう。そしてこれは本人の積極性だったり、向上心もあってのことだが、結構うまくなるなあと感じたりしないだろうか。これはゲームをやっていても、必然的にその人にボールが回る機会が出てくるからだ。

周囲の経験者だって、レベルはぞれぞれ。狭いコートの中で相手のプレッシャーを受ければ、あわてて「助けて」みたいな感じで、初心者の人にも無理めのパスをすることがあるだろう。そういう難しいシーンも含めて、必然的にボールに触れる機会が多いので、早く上達するのである。

ちなみにその手の人たちをサッカーに誘うと、急に遠慮がちになる。それでもこの前フットサルから蹴りものを始めた女性とサッカーをする機会があった。初サッカーである。やはり、ゲームの中でボールを触る機械は激減してしまう。だが、ボールを受けたときは上手に処理して展開していたりしていた。フットサルの経験が生きていたのだ。やはりいきなりサッカーというのは、高いハードルがあり、キツイのだろうと思った。

さて、大人でも目に見えて成長が早いフットサル。これが、もっと吸収力のいい子供ならどうなるかは、現場を見ていなくても容易に想像がつくところだろう。先日、現在週1活動のサッカークラブに通っているウチの息子(小学2年生)で、面白い現象が見られた。

サッカーでは正直、これまであまりいいところを見たことがない。試合をやれば団子になっちゃうし、ボールに触れる機会も、その団子の中でボールをつつくようなプレーを何回かやるという感じ……。ところがこの前、僕ら大人がやっている遊びのフットサルに混ざりたいと言い出した。ちょっとどうかなと思ったが、大人の気づかいに十分に助けられ、ボールを触わりまくった。ドリブル、シュート、パスと結構頑張ったのである。

ノールックで後ろに足裏落としをしたときは、「そんなのいつ覚えたんだ(笑)」とビックリ。親ばかと話半分にとらえてもらって構わないが、いや子供は、大人たちがやっているところをよく見ているものだ。

本人もかなり自信を得て、家路に着いた様子。僕自身、やっぱりフットサルは有益だと確信し、これは今後も続けさせようと思った。だが、一方でまた別のことにもいろいろと気づかされたのだ。


本音は戦術的なことも
ちょっとやってほしいはず

息子が大人たちに混じってプレーできたのは、フットサルボールが弾まずに扱いやすいことがいちばん大きかった。ボールコントロールに気を使わずに済むと、自然と顔を上げるのが早くなり、スムーズにシュートやドリブルに移れるようだ。一方で、小学生にとって、シュートを打つのに通常のフットサルボールは重すぎるようである。

この点はフットサル界のいろいろな方が指摘しているように、小学生用にもう少し小さくて軽くて、扱いやすいボールを用意してもいいのではいだろうか。ボールがさらに扱いやすくなれば、シュート技術が向上するのに加えて、ボールに触れる機会が多い中で、いろいろな足ワザもできるようにだってなるし、1対1の積極的な攻防が増えてくるだろう。

さらには、ボールが扱いやすいことで、攻撃でも守備でも、動き方を工夫した2人〜3人のコンビーネーションによる戦術プレーを身につけやすくなるはず。僕は、フットサル界の人は、せっかく子供がフットサルをやるのであれば、この段階までやってほしいというのが本音なのではと思う。ここまで突き詰めると、子供にとって将来のサッカーのみならず、将来競技フットサルをやるときにも、有益になるからである。

ただ、この手の戦術プレーは、「自由な判断」という言葉を重んじるサッカー畑では、とかく「型にはめている」と評価されがちで、フットサル畑としても今ひとつ強く推せていない雰囲気を感じる。

また一方で大きな問題なのは、では今度サッカーをやるとなったときの、ボールへのアジャストだろう。サッカー、フットサル、両方をプレーされる方はわかるだろうが、弾むボールの扱いは何かと面倒である。先述したフットサルから入った大人の初心者の人たちがサッカーを遠慮するのも、「弾むボールが難しい」と考えるからのようだ。

小学生年代でも結構増えてきた、芝や人工芝のピッチならまだしも、土のグラウンドとなると、これはボールコントロールの際の身のこなしはフットサルとだいぶ違ってきて、現実問題、フットサルのメリットをあまり感じられない関係者も多いと想像する。人によっては、器用にアジャストする子もいるのだが、このボールの違いが「子供にフットサル」の大きな壁になっているのは確かだろう。

そのほか、子供のフットサル大会なのに、ピッチが大人と同じサイズでいいのか。とか、大人にはレジャースポーツとしてかなり楽しまれているのに、子供には気軽に参加できる大会が少なかったりなど、「子供にフットサル」と唱える割には、まだまだ舞台作りは徹底されていない部分が多い。今後もっともっといろいろな議論、工夫が必要になってくるだろう。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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