第52回「当該チーム間」

「当該チーム間」…大会のリーグ戦で、勝ち点が同じになった場合の順位決定方法の一つに、「当該チーム間の○○」というのがある。「当該チーム間の成績」や、「当該チーム間の得失点差」、「当該チーム間の総得点」という具合。現在行われている、「PUMA CUP 2012 第17回全日本フットサル選手権大会」では、4チーム×6グループによる1次ラウンドで、このレギュレーションが採用された。


実力が極端に劣るチームがあると、
問題が生じる「得失点差」

フットサルの大会では、1次ラウンドとして数チーム×数グループのリーグ戦を行い、その上位チームが決勝ラウンドへ進むという形式が多い。

そのリーグ戦の順位を決める方法として、複数チームの勝ち点が同じになった場合、これまでは「グループ内での得失点差」→「グループ内での総得点数」と見ていって、大抵ここの優劣で順位が決まった。これは今も多くの大会で、一般的な順位決定方法として知られているだろう。

だが、最近ではそうした「グループ内での得失点差」「グループ内での総得点数」よりも、勝ち点が同じになったチーム間の成績、つまり「当該チーム間の成績」「当該チーム間の得失点差」「当該チーム間の総得点」を優先させる大会が出てきている。

これはどういうことか。

4チームリーグを例に考えてみよう。AチームとBチームは、実力が拮抗したレベルの高いチーム、Cチームはそれよりも少し劣る実力。そしてさらに劣る実力のDチームがいるとする。勝ち抜けは1位チームのみ。順位決定は同勝ち点の場合、「グループ内での得失点差」→「グループ内での総得点数」が考慮されるという設定にする。

グループ初戦で、AチームはDチームの「当たって砕けろ」的な猛抵抗にあい、3−0とあまり点差をつけられずに勝利した。BチームはCチームに3−2で勝利。今回のCチームはレベルアップしていて、あなどれなさそうだ。

第2戦。いよいよAチーム対Bチームのガチンコ対決。Aチームはわずかなスキを突いてゴールを挙げ、2−0で見事に勝利した。あまり得点力のないCチームは、格下のDチームと1−1で引き分けてしまう。

この時点での成績は、
1位 Aチーム 2勝0分0敗 勝ち点6 得点5 失点0 得失点差+5
2位 Bチーム 1勝0分1敗 勝ち点3 得点3 失点4 得失点差−1
3位 Cチーム 0勝1分1敗 勝ち点1 得点3 失点4 得失点差−1
4位 Dチーム 0勝1分1敗 勝ち点1 得点1 失点4 得失点差−3

そして第3戦。Aチーム対Cチームは、Cチームが粘りを見せ、何と1−0で勝利した。Aチームは明らかなPKを取ってもらえなかったりとジャッジトラブルもあり、外から見ていてなんかかわいそうな感じ。一方、Aチームの負けをあてにしてしつつ、得失点差を広げようとしたBチーム。相手は実力が劣るDチーム、3試合目という疲労もあって、どこかモチベーションが低い。結果、8−0でBチームが勝利した。

この結果、
1位 Bチーム 2勝0分1敗 勝ち点6 得点11 失点4 得失点差+7
2位 Aチーム 2勝0分1敗 勝ち点6 得点5 失点1 得失点差+4
3位 Cチーム 1勝1分1敗 勝ち点4 得点4 失点4 得失点差±0
4位 Dチーム 0勝1分2敗 勝ち点1 得点1 失点12 得失点差−11

となって、Bチームが次ラウンドへ進むことになった。だが、Aチームはどこか納得がいかないとなる。自分たちはBチームに勝っているのに、Bチームは最後やる気のない相手への大量得点で勝ち抜けたと。

パフォーマンスレベルが著しく変化する、実力が劣るチームへの最後の試合の大量得点で、順位が決まってしまう。実はこういうことが、過去のフットサル大会では非常に多かったのだ。

こういう背景から出てきたのが、では同勝ち点の場合、「当該チーム間の成績」を最優先させようという考えなのである。そのほうがお互い納得がいくだろうと。つまり、この「当該チーム間成績最優先」は、大会参加チームの実力に、大きなバラツキがある場合などに、有効なシステムといえるだろう。


全日本フットサル選手権
2日目で2チームが勝ち上がり

3月16日(金)から準々決勝以降の決勝トーナメントが行われる、「PUMA CUP 2012 第17回全日本フットサル選手権大会」では、1次ラウンドとして4チーム×6グループによるリーグ戦が行われ、その順位決定方法で勝ち点が同じになった場合、「当該チーム間の成績」が最優先されるレギュレーションだった。

このシステムにより、2連勝したCグループの湘南ベルマーレと、Dグループの府中アスレティックFCが、3日目を待たずにグループ1位を決定した。

湘南はロボガトとステラミーゴいわて花巻に2連勝。仮に3戦目のファイルフォックス府中戦に破れて、ロボガト対花巻の勝者と勝ち点6で並んでも、両チームに勝利しているために、「当該チーム間の成績」が最優先されて、1位確定なのである。府中もまったく同じ形で、3日目に勝ち点が同じになる可能性の相手に2連勝したので、1位を確定した。

勝ち点の計算ではないところで勝ち上がりが決まる、ちょっと不思議に感じた現象ではある。当事者でも勝ち上がったことを分かっていない選手もいた。逆に「グループ内での得失点差」「グループ内での総得点数」が優先されるシステムであれば、一応3日目まで結果がわからなくなる。

どちらのシステムにも、一長一短があるようだ。

そして3日目は、グループ2位になってのワールドカード(2位6チームのうち、成績のいい2チームが決勝トーナメントへ進める)を狙うため、候補チームが対戦相手に対して大量得点を狙いにいった。

ワイルドカード争いは、違うグループ間の争いになり、直接対決で優劣を決められない。したがって、ここでは「グループ内での得失点差」「グループ内での総得点数」が物差しになるからだ。

いきなり第1試合で、ミキハウス16−2カベーラ新潟エフスリー、バサジィ大分20−3広島エフ・ドゥという、全国の舞台ではあるまじきスコアが出て、2チームが非常に優位になった。

第3試合では、SWHフットサルクラブとフウガ東京が頑張り、SWH10−0エル・ブランコ、フウガ東京9−1マルバ山形fcというスコアが出たが、両チームともわずかに及ばす、ミキハウスと大分がワイルドカードをゲットした。

こうなると、今大会なんかは特に感じたが、もう組み合わせの、運、不運に左右されることが多い。

地域間の実力差がまだ大きい状態だけに、劣っている地域の頑張りに期待するのはもちろんのこと、会場では「最下位チームとの成績を除いた数字で比較してはどうか」といった声も聞かれている。

ただ、レギュレーションをどんどん複雑にするのは、見る側を考えるとちょっとどうかと思うし、完全に公平にすることは、この先もなかなか難しいところだろう。「公平じゃないからこそドラマが生まれる」くらいに割り切ったほうがいいか。当事者は納得できないだろうが。

とにもかくにも、今の大会は、同勝ち点のときに、「当該チーム間の成績」を最優先させているところがある。読者のみなさんも、フットサルの大会に参加することが多いだろう。試合前には、必ずレギュレーションをチェックされることを勧めます。



プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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