第50回「交代ゾーン」

交代ゾーン…フットサルで、両ベンチ前に設けられている幅5メートルのゾーン。この交代ゾーン内で、ピッチ内とピッチ外の選手が入れ替わらないといけない。


センターライン1カ所から
両ベンチ前の2カ所に

フットサルは交代が自由―――1度ピッチを出た選手が再び入ることも、出入りのタイミングも自由なので、5メートルに区切られた交代ゾーンが結構重要だったりする。

ゾーンの幅の中で交代しなければいけないので、ゾーンの外からピッチ外に出たら交代は認められない。例えばA選手がゾーンギリギリのところから出たつもりだったが、実はゾーンの外だった。そして当人たちはOKと思って、新しいB選手が入った。こういうケースでは、A選手の交代が認められていないのに、B選手が6人目の選手としてピッチに入ったとして、B選手にイエローカードと、意外な重い判定が下される。

交代ゾーンは、ハーフウェイラインから5メートルのところ。両チームのベンチ前に設けられている。「こっからここまでが交代ゾーン」とみんながわかるように、タッチラインに対して直角のラインを入れてゾーンを示す。この直角のラインは長さ80センチと決められていて、さらにピッチ内に40センチ入り込み、ピッチ外には40センチ出るようにしないといけない。

ちなみにフットサルのラインはすべて幅8センチと定められているので、体育館などにテープをはってピッチを作るときは、8センチ幅のテープを用意しないといけない。

さらにちなみに。
以前はあらかじめチョークなどで引いておいた線に沿って、1人がテープをゴロゴロっと伸ばしながら引っ張っていき、それをもう1人がモップで追いかけながら、線に沿って押さえていった。アレ、大変ですよねぇ。今、設営している人たちは、どうやって作っているんだろう?

ところで、この交代ゾーン。以前はセンターラインを真ん中にして、3メートルずつ両陣にまたがる感じで、全体で6メートルのゾーンが1箇所だけ設けられていた。そして、交代はアウトオブプレーのときのみ。レフェリーに申告して認められてから、サッカーと同じような感じで、オフィシャル席の前で入れ替わっていたのである。それからゴレイロ以外は、自由に交代できるようになり、さらに2000年の競技規則改正で交代ゾーンが今の両ベンチに前に変わってからは、今のようにすべてフリーになった。

交代ゾーンがベンチ前になったことで、選手交代がよりスムーズになり、フィールドプレーヤー(FP)をゴレイロにするパワープレーも、それまではFPゴレイロが出ずっぱりでやっていたところを、本ゴレイロとこまめに交代しながら、パワープレーができるようになった。

一方戦術面で、旧交代ゾーン時によく知られていたものに、「自陣から出て、相手陣から入る」というのがあった。交代する選手が、自陣の交代ゾーンギリギリのところで、ボールをもらう姿勢を見せてマークを引きつけ、ピッチ内を向いたまますっと後ろに下がってピッチを出る→次の瞬間に相手陣のいちばん先から新しい選手がピッチに入り、マークの裏を取ってボールを受けるというものだ。

あれっ? と思った人がいるかもしれないが、実は現在もバサジィ大分がこのトリックを年に何度か試すことがある。ゾーンの幅が1メートル狭まっただけなので、マークを外してボールを受けられることもある。ただ、いかんせん自陣から出ていくので、その後確実に決定機を作ったというところまでは、残念ながらいっていない。


交代ゾーンあるある
ビブスのやりとりetc

マッチレポートなどを書く関係で、僕はピッチ上の現象(展開とかゴールシーンとか)と同時に、選手交代もメモするようにしている。だから必然的に交代ゾーンの様子を観察することになる。

1人ずつの交代であれば、「○分に誰と誰が交代」とメモることができるが、セットまとめて素早く一気にだったり、同じ瞬間に両チームとも交代があったりすると、「誰と誰」という部分はきっちりとはつかめない。こういうときは、「誰と誰と誰がOUT、誰と誰と誰がIN」という具合のメモになる。

ベンチの選手は、ビブスを着用していないといけないので、交代するときはピッチから出てくる選手とそのビブスを受け渡すことになる。このとき交代ゾーンで、ピッチに入っていく選手が空中にビブスを軽く浮かせて入れ替わり、ピッチを出た選手がそれを落とさずにキャッチなんていうカッコイイやり取りがあったりする。あと、交代前にビブスで顔の汗をふいている選手がいる。そのビブスを受け取る選手はどんな気分なのだろう。

とはいえ、交代直後の選手は、息があがってぜいぜいというパターンが多いから気づいていないのだろう……。大抵は目の前のベンチにどかっと倒れこむように座って、まずは呼吸を整える。夏場であれば、首の後ろを氷で冷やしたり、トレーナーやマネージャーの方などが大きなタオルで選手をあおいだりする。

しばらくして落ち着くと、周囲の選手たちとプレーや戦術面の話のやり取りなど行い、また次の出番に備えて、後ろのアップゾーンで体を動かしたりする流れがある。

ベンチ入りが初めてだったり、出番が少ない選手が監督から行くぞと呼ばれたときは、交代ゾーンに緊張感が走る。選手がえいやと勢いよく、そして初々しくピッチに入っていく。ピットから出ていくレーシングカー、ロープをかきわけてリング内に入るプロレスラー、ホワイトベースから出ていくガンダム……そんなシーンを思い起こす。

そして見事いい仕事をやってのけて帰ってくるときは、真面目な顔が一転、交代ゾーンでとても晴れやかな顔に変わるのである。選手のスイッチが切り替わる場所。それも交代ゾーンの特徴かもしれない。

交代ゾーンは悲喜こもごもだ。Fリーグなどでテレビ中継がもっと活発になって、ベンチリポートなどもするようになったら、かなりネタの宝庫だと思うのだが。まあ、そうなるまでは、私たちは自ら交代ゾーンを意識して、各チームのやりとりを眺めながら試合を楽しむのが面白いと思う。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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