第49回「アラ−アラ」

「アラ−アラ」…片方のサイドでボールを持っているアラから、逆サイドのアラへ送るサイドチェンジのパス。攻撃側にとっては、パス展開における有効な手段であり、守備側にとっては、通させたくないパス。ここでの攻防が、今、フットサルの見どころのひとつになっている。


フットサルの「サイドチェンジ」
局面を大きく変えるパスになる

最近になって、Fリーグなどで「アラ−アラ」のパスという言葉を、頻繁に聞くようになった。特に守備側のコメントで聞かれる。「今日は『アラ−アラ』のパスを通させないようにした」などというのだ。

「アラ−アラ」は、アラ同士のサイドチェンジのパスだ。ボールサイドに寄せるディフェンスが主流の現在のフットサルにおいて、攻撃側としてはこの「アラ−アラ」を成功させると大きな局面の打開になる。

パスの受け手となるアラは、マークからやや離れたところで(マーカーがボールサイドに寄せたポジションを取っているため)前向きでボールを受けられることが多い。そこで、そこからスピードに乗ったドリブルなどを仕掛けられるし、余裕を持ってラストパスを出せる。つまり、「アラ−アラ」はサッカーのサイドチェンジと同じ効果を得られるプレーなのだ。

守備側としては、ボールサイドに選手を寄せて密集させることで、ボールを持った攻撃側選手にプレッシャーをかけ、ボールを奪おうとしている。それなのに、この「アラ−アラ」を決められてはたまらない。そこで、ボールにプレッシャーをかけつつ、この「アラ−アラ」のパスを防ごうと注意しているのだ。

具体的なシーンをイメージしてみよう。攻撃側がひし形の陣形で、左のアラがボールを持っている。だが、守備側がしっかりと寄せてきていて、前に進めない状況。そこで、ボールを素早く持ち直して、右サイドのタッチライン際にいるアラに長いパスを出す。

これが、攻撃側の四角形の陣形の、対角線上に出すパスになるのがポイントだ。守備側の目線が大きく動くので、その間に攻撃側は動いてマークを外しやすくなる。ボールを受けた逆のアラの選手も、余裕があるのでピッチの内側の敵味方全体を見て、マークを外した味方を使ったりして、いい攻撃を繰り出しやすい。

ちなみに、フィクソからピボに入れるピボ当ても、四角形の陣形の対角線上に出すパスだ。したがってこちらも、こうした「アラ−アラ」に近い現象になってチャンスが生まれやすくなると感じている。ただ、ボールを受けたピボが、相手から厳しいプレッシャーを受けるという点が違うのだが。


ハイレベルなフットサルでしか
見られないパス

そういうわけで守備側としては、チーム内で注意点として挙げなければいけないほど、「アラ−アラ」はやられたくないパスということになる。じゃあ、どう対策しているのか。

先ほど紹介してシーンでいうと、フィクソをマークしている守備側のピボが、ボールラインまで下がって、「アラ−アラ」のパスコースを防ぐポジションを取るのだ。

こうすると、攻撃側は「アラ−アラ」という1本のパスが通せず、一度フィクソを経由したサイドチェンジを強いられる。当然時間がかかるので、守備側としてはその間に陣形を整えて、サイドチェンジされた先のボールへの寄せを可能にするのだ。

そこでこの「アラ−アラ」のパスを通す、通させまいとする、攻防が生じるのである。ゴール前の攻防がフットサルを見る何よりもの魅力ではあるが、現代フットサルではその前段階のつば競り合いの時間帯も多く、そこに見どころもある。以前紹介した、守備側のプレスとそれをかわそうとする攻撃側のプレス回避のプレーのやりあいもそうだし、この「アラ−アラ」の攻防もその一つといえるだろう。

攻撃側には、相手ピボの戻りやポジショニングが甘ければ、「アラ−アラ」を素早く通してしまう。そんな選手もいる。

ただ、フットサルのこの20メートルのサイドチェンジが、どれだけ難しいことか。

イメージしてもらえればわかるように、正確性を出すためにインサイドキックを使うが、かなりのスピードがないと相手にインターセプトされる危険も大きい。そこでピッチ上をツーンと滑るような、「ストロングインサイドキック」が必要になる。インステップキックでも同じ質のボールが蹴れるけれど、正確性は低くなるし、キックモーションも大きくなって時間がかかってしまうのだ。

以前、Fリーグを見に来ていた、県リーグでプレーする選手と話す機会があったが、Fリーガーと県リーガーの違いは、この「アラ−アラ」のパスを通せるかどうかだと話していた。それが気になって、以降思い出す度にチェックしていたのだが、確かにそうだ。Fリーグのパス展開が、下のカテゴリーのリーグに比べて、スピーディーでワイドでダイナミックに見えるのは、この「アラ−アラ」のあるなしが関係しているのかもしれない。

僕なんかが普段楽しんでいるエンジョイレベルでは、まず通るのを見たことがないパスだし、たまたま通ってもそれを生かせない。それでも守備側もこの「アラ−アラ」をまったく意識していないので、パスコースは空いている。だから、エンジョイレベルでも攻撃側はチーム内で話し合って意識さえしていれば、意外と有効なプレーとして使えるのではないか、なんて思ったりしている。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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