第47回「偽ピボ」

「偽ピボ」…本来はピボではない選手に、一時的にピボの役割をさせること。典型パターンとしては、サイドの高い位置に偽ピボをポジショニングさせ、これに対する相手のマークのつき具合によって、チームが最適な攻撃パターンを選択していく。


本格的なピボがいないが、
ピボがいるような戦術を使いたい

フットサルでピボといえば、陣形の最前線にポジションし、味方の後方からのボールを引き出して、相手に取られないようにキープしながら、シュートに持ち込んだり、他の味方へシュートを打たせたりする役割の、重要なポジションだ。

ところが守備力が充実してきた現在の競技フットサル界には、そのレベルの守備に対して攻撃面で何でもできる、「いいピボ」がいない。はっきりいってかなりの人材不足だ。実はこの点で素質のいい人材は、サッカー界に進んでしまっているのではというのが僕の予測なのだが、それはさておき、世界的に見てもいいピボというのはなかなかいないというのが実情である。

そこで、一時はそうしたピボをまったく置かない戦術というのも考案され、フィールドプレーヤー4人が流動的にプレーする、いわゆるクアトロ戦術が流行した。これは現在も追及されている。だが、とかく相手のマークをかいくぐってボールを回し続けることに固執しがちになるクアトロ戦術の中、相手のマークや視線を引きつけ、スペースを作ってシュートシーンを作るという点で、やはり相手陣の深い位置に縦パスを1本入れる効果というのは絶大なことが認められてきた。

だから瞬間的でもいいから、ピボの位置で選手を使いたい。ダミーのピボを前に置いてでも、縦パスを入れる陣形、体制を作っておきたい。そこで出てきたのが、「偽ピボ」という発想と思われる。本格的なピボがいない中で、それでもピボを生かした戦術を使いたい。そのためにあるのが「偽ピボ」だ。

具体的には、「偽ピボ」がおとりになるケースが多い。縦パスを受けるフリをしてサイドに流れる。そうすることで自分のマークを中央から引き出し、ゴール前のスペースを空ける。そこへ味方が走りこみ、自分経由あるいは他の味方から直接ゴール前へボールを入れるもの。当然これは、本格的なピボがいるチームでも使える戦術である。

マークがこれを読んできて、流れる「偽ピボ」についてこなければ……。今度は実際に縦パスを受けて前を向き、ゴールに向かって勝負を仕掛ければいい。「偽」なので、ゴール前中央でマークをブロックしながらボールを受け、タメを作って味方へリターンするパスはできない。ただ、このゴールに向かっていける状況になったときの、仕掛ける強さがないと、偽ピボ戦術の意味がない。おわかりのように、それがないとマークする相手フィクソが全然怖くないからだ。


サッカーの最先端を
リードする戦術

今回、偽ピボという用語を取り上げたのは、サッカーの世界で最近「偽CF」という言葉を頻繁に目にするようになったからだ。

クラブワールドカップで来日したスペインのバルセロナで、CFの位置から下りてきて、というかほとんど前線にはいないで中盤で頻繁にパス回しに加わる、メッシやセスクなどをそう呼ぶようだ。そして、ウイングや中盤の他の選手が空いた前線のスペースへ飛び出してシュートを狙う。

ちょっと前もイタリアのローマが「ゼロトップ」というのを使ったことがある。表記上はトッティを1トップに置きながら、彼が中盤に自由に下りてきて後方からのボールを引き出し、代わりに中盤から前線へどんどん味方が飛び出して、トッティからのラストパスを受けるという狙いのサッカーだ。

マークするセンターバックとしては、ゾーンマークで守っているとはいえ、DFラインに張りつくように構えている従来のCFというのは、意外とマークしやすかった。ところが本来いるはずのCFがポジションを空け、特に前後の移動を行ってゾーンのすき間に入られると、マークもつきにくくなる。無理についていくと、自分が空けたDFラインのスペースを他の相手に使われる危険も出てくるからだ。

これ、考え方はかなり前に誕生した、フットサルの「偽ピボ」戦術とほとんど変わりがない。つまり、サッカー界では従来の概念を変える、画期的な発想のようにいわれているこの「偽CF」だが、こうした緻密な戦術という観点でいえば、狭いピッチでいかにスペースを作るかを考え続けてきたフットサルに、一日の長がある様子。

少ない人数でプレーするだけに、普段の練習、そして試合を通してのすり合わせで、コンビネーションやチーム戦術を成熟させやすいフットサルの特徴だ。つまりそれは、フットボール界全体の戦術の指南役になれる可能性を秘めているということ。その点でフットサルは、スピード感や迫力、個人のスキルといった、今まで語られているのとはまた違った魅力を、プレーヤーや観戦者に提出することができるのではないだろうか。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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