第42回「プレス回避」

「プレス回避」…相手が前線から積極的にプレスをかけて、ボールを奪おうとしてくるところを、回避するプレー。攻守にアグレッシブにプレーするのが好まれる現代のフットサルにおいて、このプレス回避も見どころのひとつである。


エントラリーニャから
1人プレス回避まで

ミゲル・ロドリゴ日本代表監督が、チーム作りのテーマとして攻撃、守備、セットプレーなどと同列で、このプレス回避を扱っていることからも、フットサルにおいていかにこれが重要なのかがわかると思う。

監督自身も日本語で、「プレス回避」と選手たちへの指導の際に使っているこの用語。ここで一度詳しく見ていくことにしよう。

自陣でマイボールになり、ゴレイロからボールが出されたり、キックインが行われたりするときだ。相手がこちらの1人1人の選手に対し、ボールが渡ったらすぐにチェックにいけるようマークして、前へ前へとプレスをかけてこようとする。これを素早いパス回しと動きでかわし、ビルドアップしていく行為がプレス回避だ。

もちろん、前線に張るピボに、長いボールを入れてキープしてもらい、チーム全体を押し上げるのも相手のプレスを回避する選択肢の一つである。

ただ、マーカーの1人を背負いながら、味方からのロングボールを収め(マーカーにインターセプトされることもしばしばだ)、正確にコントロールし、プレスバックしてくる相手も来る中で味方につなげるというプレーは、よっぽど質の高いピボでないと務まらない難しいプレーなのだ。

実力がかなり劣る相手にやるならまだしも、実力が拮抗した同士のゲームなどでは、なかなか成功率が上がらない面がある。そこで自陣の低い位置から、パスと動きで、相手のプレスをかわして持ち上がっていくチームプレーが、必要になってくる。

ここでよく見られるのが、ここ数年で非常によく聞かれるエントラリーニャという動き。

最後尾でボールを持っている選手に相手がチェックに行き、その横の逆サイドでサポートに入る選手にもマークが近くに迫ってくるというのが、通常プレスを受けたときに起きやすい現象だ。ここで相手に簡単に追い込まれてしまい、仕方なしにクリアしたり、ロングボールを関係ないところへ放ったりするのは情けないでしょう?

このとき、2人の前にいる味方のうちの1人が、2対2状態になっている間の中央のスペースに下りてきて、ボールを持っている選手から斜め前へのパスを引き出すプレーを、みんなエントラリーニャといっている。

相手と相手の間や、相手守備のライン間に入る動きを指すらしい。これをやるとまず、相手の前線2人のプレスラインを一気に破ることができるのに加え、.┘鵐肇薀蝓璽縫磴靴秦手にマークが一緒についてきた場合は、元にいた前線の場所にスペースができ、ここを使うことができる。▲沺璽がついてこない場合は、フリーでボールを受けられるので、反転して前を向いて攻められるメリットがあるのだ。

もう一つは、1人プレス回避というヤツ。文字どおり最後尾からマークをものともせず1人でボールを前に運び、相手のプレスを無力化してしまうプレーだ。その代表格はFリーグ府中アスレティックFCの上澤貴憲である。

スピードドリブルとキレのあるターン。細かいボールタッチで、マークを揺さぶりまくって、サイドをドリブルでグイグイと進んでしまう。ダブルチームでマークに行くと、それはそれで空いた味方にスッとパスを出されてしまうので、プレスに行くほうも対応が難しい。リスキーであることに違いないが、Fリーグでは今のところ絶対的なプレーなので、注目してみるといいだろう。

またトラップ時の工夫でプレス回避できる名古屋オーシャンズの逸見勝利ラファエルも、1人プレス回避の使い手といえるだろう。レベルの高い相手に対し、横パスばかりを繰り返していると、プレスをまともに食らってボールを回すラインを下げられてしまうもの。そんなときに、中トラ(前回参照)と見せて足元に止め、相手のプレス方向の逆を取って縦方向にボールを持ち出すことができるのだ。


プレスがなければ
プレス回避もない

プレスとプレス回避は、今、現代フットサルの一つの見せどころとなっている。

プレスのやり方は、これもチームによっていろいろなパターンがあるし、状況によってプレス回避のやり方も変わってくる。チームとしてある程度の形は決まっているだろうが、1プレー1プレーで微妙に状況が変化する中で、各局面で個々が機転を利かせる姿勢も、プレス回避では大事な要素の一つであると思う。

猛然とボールを奪いに来る相手に対して、頭と体をフル回転させながら、それをかわしビルドアップする。当然スピード感バッチリのやりとりになるし、プレスに屈してボールを奪われれば、即失点の危険。逆にプレス回避に成功すれば、得点のチャンスが出てくる。その丁々発止のやり取りと緊迫感が、実にいいのだ。

しかし、これは当たり前のことなのだが、守る側のプレスがなければ、プレス回避はやる必要が出てこない。

Fリーグを例に挙げると、今、相手陣に入り込んでプレスをかけて、ボールを奪おうとするチームはかなり少ないのが現状だ。各チームプレス回避がうまくなったのだろうか。プレス<プレス回避といった感じで、前に出て行って簡単にかわされ、バカみたいにピンチを増やすよりも、守備陣形を引かせて、自分たちの後ろにスペースをなくして守ろうとするチームが増えている。

そうなると攻撃側は、ハーフライン辺りまでは何もなしにボールを前に運ぶことができるわけだ。だがこれだと、プレス対プレス回避で湧いてくるような緊張感や、アップテンポなゲームリズムがどうしても生まれにくい。

勝敗にこだわる姿勢はもちろん大切で、それを度外視しても無闇にプレスに固執するというのは、僕もどうかと思う。ただ、フットサルの魅力を1つ省いてしまう行為には違いない。この先、なるべくどのチームも早い段階で、自信を持ってプレスをかけ合って、積極的なゲーム展開ができるよう、レベルアップしてほしいと思う。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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