第41回「中トラ(ナカトラ)」

「中トラ」…ピッチの中央方向へのトラップのこと。タッチライン際でボールを受けるときに、このトラップ1発で鮮やかにマークを外し、シュートを打てるシーンがある。スペインフットサル方面では、「コントロール・オリエンタード(方向付けするトラップ)」の1つとして紹介されているが、僕の周囲では「中トラ」を最近よく聞くので、ここは若干流行らせたい気持ちもありつつ……。


トラップ1発で
シュートへ行ける
魔法のテクニック

つまりは、名古屋オーシャンズのラファエル・サカイや、シュライカー大阪のヴィニシウスらの、アレである。

右サイドのタッチライン際で、中央の味方からのパスを受けるときに、やや走り込みながら中へ大きめにボールをコントロール。これ1発で詰めてきたマーカーをはがし、中央から左足でズドンとミドルシュートを打つのだ。

なぜトラップ1発で、相手を鮮やかにかわすことができるのか。このプレーをもう少し詳しく追ってみよう。

動き出すタイミングは人それぞれあると思うのだが、基本はパスが出てきた時点で、タッチライン際で止まっている状態から、ボールに向かうように動く。この2、3歩ボールに向かって中へ行く動きがとても大切だ。

というのも、詰めてくる相手は、こちらの足元に体を寄せてくるからである。パスが動いている間に少しでも間合いを詰めたい相手としては、タッチライン際にダーっと寄せていったところで中に動かれてしまうので、的がズレてしまうのだ。つまり、「中トラ」側は、この時点で先手を取っていることになる。

さらに大きめのコントロールで素早く中に逃げれば、シュートを打てる時間と距離を作れることになるのだ。だが、そうはいっても、素早い動きで結構なスピードのパスを、ボールに向かっていきながら、シュートが打てるちょうどいいところにコントロールするのだから、単純な動きに見えてかなり難易度は高い。

足裏からボールがこぼれてしまったり、ボールを大きく前にはじいてしまうミスは、この中トラのシーンではしょっちゅう見かけるものだ。

反応のいい守備者は、ボールに向かっていく中への動きを捉えることもある。でもそういうときは、中トラを止めて、逆に2、3歩動いたことでできたタッチライン際のスペースへ行って、敵をかわせばいい。敵の逆を突く形になって、縦方向への突破が可能になる。

おそらくサッカーではここまで細かく、トラップ一つにこだわることは少ないだろう。こだわらなくても十分いいプレーができるし、他の部分にたくさんの魅力があるからだ。

一方でこうした技術一つのディテールの部分に、僕はフットサルの面白さや深さがあるのではと感じている。ただ、フットサルも足でボールを扱う分、どうしてもバスケットボールやハンドボールほどには正確にプレーできない。が、そこへ近い部分にフットサル界は挑戦していってほしいと思ったりもする。


動きながらのトラップを
ベースに考えるべき

中トラのように「動きながらのトラップ」を心がけるのは、とかく忘れがちなのだが、フットサルの大事な基本といわれている。

トップレベルのフットサルでも、この基本を忘れがちだ。パス回しがなかなかうまくいかないシーンがあるが、大体は各選手があらかじめ構えていたその場で止まってボールを受けるせい。これでは相手のプレスをまともに受けてしまうのである。

止まってトラップ→相手が詰める→これをよけてサポートしてくれている味方へパス→味方も止まってトラップ→読んでいた相手がさらに近くまで詰める……。こうやって、相手のプレスから逃げるのに精一杯になってしまう。

ボールがはずみにくく、足裏でピタっと止めやすいフットサルは、とかくその場で止まってボールを受けてしまいやすいというワナがあるのだ。「動きながらのトラップ」の中に、動くと見せかけて止まるという選択肢はもちろんある。しかし、「その場に止まるベース」のトラップ。ボールを止めてから動く的な考えは、非常に危険なのである。

最近個人的に自分のプレーがうまくいっていない。チームがうまくボールを回せないなんていう人は、この「動きながらのトラップ」を気にしてみるといい。結構、ここのワナにはまっている人、チームは多いと思うからだ。

さて僕は、最近この中トラの進化系を確認している。バルドラール浦安の高橋健介だ。右利きの彼の場合、左サイドでのプレーに注目してほしい。

タッチライン際で、相手にあらかじめ距離を詰められている状態のときがチャンスのようだ。このとき、高橋は足元でもらうような素振りから、瞬間的な動きで中方向へ先に動いてマークを外す。そしてその後から、動いた先へ味方のパスをもらうのだ。

従来の中トラとは、受け手の動き出しのタイミングが違うのである。まだパッサーとの呼吸が合わずに、うまくいかないことが多いようだが、成功すればこれも動きとトラップ1発で相手をあっさりとかわすことができる。

どのスポーツにもいえることだけれど、シンプルに見えるプレーこそ、つついてみるといろんなウンチクが出てきて、面白いものだ。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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