第40回「パワープレー返し」

「パワープレー返し」…ゴレイロを相手陣まで上げて攻撃参加させ、相手陣で5対4の数的有利の状況でボールを回して攻めるパワープレー。パワープレー返しとは、守備側がこの攻撃側のパワープレーをしのいで、すぐさまがら空きのゴールへロングシュートを決めたり、カウンターを繰り出してゴールを決めたりして、相手のパワープレーを返り討ちにするプレーである。

昨年のルール改正で
パワープレーは
よりリスキーな状況に

パワープレーは、再び「やり損」の時代に入った模様だ。Fリーグなどを見ていると、パワープレーを仕掛けて成功したシーンよりも、逆に失点をして点差を広げられてしまうケースのほうが圧倒的に多い。

2000年に、ゴレイロの交代がインプレー中もOKになったルール改正から、フィールドプレーヤーにゴレイロのユニフォームを着せて、ゴレイロと交代させて攻める、フットサルのパワープレー戦術が飛躍的に進化した(当コラム第12回「パワープレー」をご参照ください)。

そこでゲーム終盤に負けているが、攻撃が滞っているチームが、思い切ってパワープレーのスイッチを入れ、数的不利の対処に困る相手に対して次々とチャンスを作り、同点にしたり、あるいは逆転したりというケースが出てきた。

ただ、根本的には、自分たちのゴールをがら空きにして攻める、非常にリスキーなやり方でもある。時を経て守備側が「パワープレーに対する守備」を考え対応がよくなると、パワープレーを仕掛けても以前ほどにゴールは簡単に生まれなくなった。

逆に、ボールを奪った守備側ががら空きの攻撃側チームのゴールにシュートを打ち込んで決めるなど、いわゆる「パワープレー返し」の回数がどんどん増えてきて、パワープレーをやっているのにかえって点差が開いてしまう、「やり損」の状況が出てきたのである。そのため、終盤負けている状況でも、パワープレーを無理に仕掛けないチームも出てきていた。

この流れを再び変えたのが、Fリーグが始まってからのバルドラール浦安である。1年目、2年目を率いたシト・リベラ監督が、パス回しが非常にうまい浦安の選手たちを上手に使ったパワープレーを最大の武器にして、名古屋オーシャンズ絶対といわれた優勝争いを面白くした。「パワープレー返し」をされることがほとんどなかった、驚異的な成功率だったのだ。

このおかげで「パワープレーは使える!」との考えが、またフットサル界に広がり、よくトレーニングを積んで攻撃戦術のオプションに加えるチームが増えてきたのである。

ところが昨年、パワープレーを格上相手にあからさまな時間稼ぎに利用する戦いが見られたことから、ゴレイロへのリターンパスのルールが改正された。これでゴレイロが相手陣に入った状態でないと、パワープレーが仕掛けられない状況となった。

それまでは通常、ゴレイロがパワープレーのボール回しの最後尾に位置していた。仮に相手にボールを取られてロングシュートを打たれても、素早く戻って失点を防ぐようなシーンがあったのだ。

しかし、新ルール下ではボール回しの最後尾は手を使えないフィールドプレーヤーになる。するとこの場合、ボールを取られた瞬間に一目散に自分のゴールへ戻って、パワープレー返しを防ごうという意識はあまりないみたいだ。打たれたロングシュートをあきらめて眺めているシーンが多い。

またゴレイロを相手陣に入れて、パワープレーを行う状態に持ち込むまでも難しくなってきていて、そのセッティングをする前に相手のプレスを受けてボールを奪われ、失点というケースもある。

こうしてパワープレー自体がよりリスキーになり、そしてやりにくくなったのと、パワープレーに対する守備力も向上したため、今は「パワープレー返し」からのゴールが非常によく見られる状況となったのである。


ボール奪取からゴールまでの
「間」の長さに面白みがある

パワープレー返しには、主に2種類のパターンがある。

攻撃側のシュートやパスをゴレイロがキャッチしたり、あるいはゴール前でこぼれたボールに守備側の選手がいち早く反応したとき。

こうしたときはロングシュートを決める大チャンスで、パントキックでゴールを狙うゴレイロとしては、見せ場のひとつでもある。こうして「GKでもゴールを奪える」というのを、フットサルの魅力と感じているゴレイロ陣はかなり多い。

ロングシュートは打たれた瞬間から、相手ゴールをとらえるまでに、数秒の「間」がある。この長いタメがあるせいで、見るものはボールの軌道に思いを込めることができるのだ。「入れ!入れ!」と念じて、決まった後の喜びの感じは、通常のゴールとはまた違った雰囲気があり、これがパワープレー返しゴールの魅力になっているのではと思うところがある。

僕なんかは、このロングシュートの軌道の間に、いろんな人の表情のアップが次々に出て切り替わるような、ドラマや映画のシーンを想像してしまう。そうするとフットサルで画になりやすいのは、このパワープレー返しなんだなあと考えてみたり。バスケットだったら、3点のシュートのシーン。野球だったら、外野に上がった大飛球がホームランになるのかならないのかのところ、だろうか。

さて、もうひとつのパワープレー返しは、フィールドプレーヤーによるカウンターである。これは最近になって、すごくよく見られるようになった。守備側の対応の向上で、数的不利にも関わらず、パワープレー側のボールを高い位置で奪えるケースが多くなったのである。

守備側は前に足の速い選手を置いていることが多い。そこで奪った後にロングシュートを狙うというよりも、スペースにボールを持ち出して、近い位置からそのまま決めたり、2、3のパスをつないでから確実にゴールというケースがあるのだ。昨シーズンの名古屋のリカルジーニョ、大分の小曽戸允哉にはこのパターンのパワープレー返しゴールが多かった。

冒頭に書いたように、今季のFリーグではパワープレー返しのゴールが非常に多く見られる状況だ。このパワープレーの「やり損」状況に対して、攻撃側としてはどんな戦術的工夫が見られてくるのか楽しみにしたい。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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