第37回「ダイレクトとツータッチ」

「ダイレクトとツータッチ」…「ダイレクト」はパスやシュートなどで、来たボールをそのまま蹴るワンタッチのプレー。「ツータッチ」は一度コントロールしてから蹴るプレー。フットサルでは、各局面でどちらを選択するかが非常に重要だ。


なぜツータッチプレーが
基本なのか

フットサルのゲームを見ていると、ふと気づくことがある。ほとんどの選手が、来たボールを一度止めて、パスして、また走るという繰り返しで、ツータッチでプレーする場面が多いのだ。

敵味方のゴールが近い位置にあるフットサルは、同じボールを蹴るサッカーよりも点が入りやすく、バスケットボールやハンドボールのような点を取り合うような要素があるといわれる。

そうした中で、もちろんゴールが入りやすいのは、攻守の切り替えの速さ生かして、カウンターで素早く攻めるときだ。だが、攻撃時に毎回こればっかり狙っていても、トップスピードでプレーする分、ミスも出やすく、逆に相手のカウンターから失点を食らう危険もある。相手の守備陣形が整っているときだったら、慌てて攻めていっても当然のようにボールを奪われるだけだ。

そこで、ボールを奪ったときにまずはカウンターを狙うけど、それが無理な場合は、自分たちでボールを回しながらチャンスをうかがう。実際のゲームではこの手のシーンがすごく多くなり、そのとき選手たちはツータッチプレーになるから目立つのだ。

よく現場の人からは、「ツータッチプレーで安定してボールを回す」といった話を聞くことがある。想像すればわかるように、相手がこちらのボールを奪いに来る中でダイレクト(ワンタッチ)でボールを回すのは、正確性からいって非常に難しい。

だから、自分のところへ来たボールを一度正確にコントロールして蹴りやすくし、それからパスをするツータッチプレーが選択されるのだ。ワンタッチ目のコントロールのとき、自分から近い距離にいる相手は結構な勢いで飛び込んでくるから、その場から離れるコントロールであったり、あらかじめ動いてマークを外しながらコントロールしてパスするプレーが推奨される。

もう一つ、ツータッチプレーをすることで、周囲の味方がパスを受けられるポジションにつく「時間」を作る面もある。ツータッチプレーの間に、周囲の味方が動いてマークを外そうとするのだ。狭いピッチの中で、ダイレクトパスの繰り返しでは、この時間を作るのがほとんど無理なのはいうまでもない。

「安定してボールを回す」とはつまりこういうことで、フットサルではこのツータッチプレーで相手プレスをかわしながら、確実なビルドアップを狙うのである。ボールが弾みにくく比較的扱いやすいことの助けもあり、このツータッチプレーはミスなくかなり連続することが多い。まるで手でボールを扱っているかのような感覚で、このあたりバスケットボールやハンドボールに近い要素を感じるところだ。


ダイレクトがないと
崩れない

それでも、そうやってボールを回していく中で、ここぞというところで相手を崩しにいく場面や、シュートに向かう攻撃の仕上げの局面などでは、ダイレクトが非常に有効になるのもまた事実である。

ワンタッチでボールを回せば、そのタイミングの早さ、スピードに守る側はほとんど対応できないからだ。だからフットサルの決定的なシーンでは、シュートポイントにダイレクトでラストパスが入ったりするシーンが多かったりするのである。

ところがここで考えなければいけないのは、ビルドアップの段階でダイレクトが難しいように、攻撃の仕上げのシーンでも味方の受け手側が、ダイレクトパスに合わせるのがかなり大変という事情だ。

例えばサイドの狭い局面でワンツー突破を図ろうとしたり、ゴール前のピボ当てからシュートを狙うシーンなどを思い出してほしい。リターンパスがダイレクトで出されれば、守備側が間に合わないフリーのスペースにボールが入っていき、「これはチャンスか!」と思ったりする。そこにタイミングよく味方が入っていれば、これは大きなチャンスになるのだが、ここにリターンを受ける味方が間に合わないシーンもよく見かけるのだ。

ならばツータッチプレーで味方が走り込む時間を作り、リターンを出すとしよう。すると今度はゴール前の危険地帯だけに、あらかじめ警戒している相手の対応が間に合ってしまうケースが多いのである。

どっちを取るのか。ここにフットサル選手の判断力やセンスが問われている。ダイレクトの多用はチャンスを多く作れるかもしれないが、味方との呼吸が合わなければミスも増え、相手にカウンターのチャンスを与えやすいリスキーなプレーになる。一方ツータッチプレーではボールを取られにくいかもしれないが、最終的には守る側も対応可能になることが多く、チャンスができにくい面がある。

ダイレクトとツータッチ。実に深いと思う。ゲームの各局面で、今、なぜツータッチだったのか、なぜダイレクトだったのか。あるいは今回は触れていないが、なぜドリブルだったのか。そんな選手の判断をのぞいてみると面白いと思う。

今週から始まるFリーグをぜひ!


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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