第32回「サッカーと比べて……」

「サッカーと比べて……」……フットサルの特徴を説明するときの常套句。同じボールを蹴る競技である、サッカーとの比較で語るのが、やはり見聞きする人たちにいちばんわかってもらいやすいようだ。


サッカーとフットサルのプレーは
同じものがたくさんある

「フットサルはサッカーと比べて……」という説明は、実は僕自身が多用してきた言葉だ。幸運にも日本フットサルの黎明期からフットサルを見続けることができ、自分でもプレーを楽しんできた。そしてありがたいことに、フットサルを紹介する類の原稿仕事をいただき、多数書かせてもらってきた。

現在もそうだが、やはり昔からフットサルの世界には、プレーする人も、観戦する人も、サッカーの世界から入ってくるパターンが圧倒的に多い。そこで、そういう方たちにフットサルをよく知ってもらおうと、サッカーとの比較でこの競技の説明をしてきたわけだ。

しかし以前から、サッカーとフットサルを、何かこう、対立の構図でとらえる人が多いようでもある。

今週は、Jリーグ横浜FCの三浦カズのFリーグスポット参戦のネタが話題となり、改めてサッカーとフットサルの違いについての話が盛り上がった。

そこで今回は、このフットサルとサッカーの比較の話について、今一度整理してみようと思う。

先達にいろいろと教わりながら考えた、自分の定番の入りは、まずフットサルの各種プレーを集めた要素の円と、サッカーの各種プレーを集めた要素の円を並べて書くことだ。で、この2つの円が左右から歩み寄って重なっている部分がある状態が、フットサルとサッカーの置かれている現状である。

例えば、フットサルでのキックイン、サッカーでのスローインは、お互いに相手にはないプレーだから、これらは両者の円が重なっていないところに収められる要素である。そう考えると、逆に円が重なっている部分の要素はかなりたくさんあることがわかる。ほとんどの部分において、フットサルとサッカーは同じというのウソではない。

ただ問題は、円が重なっている部分の要素ではあるが、フットサルとサッカーでその頻度が全然違うものがあることだ。足裏でのボールコントロールや、2、3メートル単位で細かく動く方向を変えるプレーなどは、フットサルでは当たり前のように頻繁に起こるもの。だが、サッカーではほとんどない。一方でヘディングの競り合いや、浮き球やバウンドボールの処理、クロスを入れるプレーなどは、サッカーでは頻繁だが、フットサルでは数少ない。

頻度が違うから、当然求められるフィジカル要素、体に負担がかかる部分も違ってくる。


それぞれで頻度の高いプレーを
どうとらえるのか

そして、こうした頻度の違うプレー要素を、どうとらえているかで、その人のフットサル対サッカーの世界観が形成されているのだと思う。

例えば足裏を使うプレーや、細かい動き直し、さらにはピッチの狭さから来る味方の足元にボールをつけるのを中心としたパスワークなどを、フットサル独自のものと主張する人は、これらのプレー要素をサッカーの円とは重ならない部分において考えている人なのだ。

ただ、ブラジルのサッカー選手などは、そんな要素をサッカーに取り入れてプレーしているのが、もう当たり前になっている。だから逆に、「こういうのもサッカーのうちだよね」と考える人は、こうした「フットサルっぽい」といわれる要素を、円が重なっている部分に入れて考えている人になるだろう。

ちなみに、最近バルセロナのサッカーがフットサルっぽいといわれることが多いが、それはシャビらを中心とした彼らの中盤のパスワークが、フットサルのような短い距離感で行われているからだ。彼らは狭い地域でポジションをローテーションさせながら、味方の足元につけるショートパスを多用してボールポゼッションする。

今回説明したフットサルとサッカーのそれぞれのプレーの要素の円。それらが深く重なっている現状。これらを俯瞰した状態で、フットサル対サッカーの議論では、それぞれ意見している人たちが、どの立ち位置にいるのかを把握しながら見るとわかりやすい。また、フットサルとサッカーの関係性についても、よくわかっていただけると思う。

もちろん、自分自身の立ち位置もぜひ確認してみてほしい。そしてもし、あるいはやっぱり、自分はフットサル寄りの立ち位置だなあと思われる人がいたら……。ぜひこれからもフットサルをひいきにして欲しい。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
目次へ