第29回「スウェット」

「スウェット」…かつて、フットサルプレーヤーたちは、みんなスウェットを着ていた時代がある! あの部屋着スタイルこそ、フットサルをやっている人の証だった。どうやら、最近は見かけなくなったようだが……。


サッカーウエアとの差別化
フットサルの象徴の一つ

ここ2、3日、何軒かのスポーツショップを回ったのだが、やっぱり見当たらない。フットサルコーナーから、スウェットの上下がなくなってしまったのだ。

スウェットタイプというか、スウェット生地のウエアであればある。例えばジッパーのついた、ジャージタイプのヤツがスウェット生地だったりとか。だが、僕が言っているのは、丸首のトレーナーと、ちょっとダボっとした感じのパンツの、あのセットのこと。あの部屋着っぽいスウェットの上下である。

かつてフットサルのうまいお兄ちゃんたちは、みんなこのスウェットを着ていた。ATHLETAやPENALTYなど、フットサルに力を入れていたブランドがじゃんじゃん作っていたスウェットに、チームロゴやチーム名を入れたり、番号を入れたりして、みんなおそろいの上下を着て、フットサル場に登場するのである。

多分メーカー側も、フットサルプレーヤー自身も、サッカーとの差別化を図りたかったのだと思う。「ファッション性が高い」といわれたフットサルプロパーの、オシャレだったのだろう。当時のサッカーのほうのウエアといえば、やはりジャージが主流で、ブランドロゴのワンポイントの地味なやつか、逆に色使いがド派手な「ガンダム系」のものしかなかったと記憶している。

こうしたジャージに比べると、スウェットは当時とても「ライト」で「オシャレ」な印象を与えたが、まさにこれがフットサルの特徴でもあったわけだ。「手軽に、汚れずに、ボール蹴りを楽しめる」フットサルのよさを象徴するものの一つとして、スウェットが存在していたのかもしれない。

スウェットでフットサル場へ行き、スウェットでアップをし、スウェットで待ち時間を過ごし、スウェットで去り、スウェットでご飯を食べにいった。それが「オシャレ」な時代だったのだ。

僕もそんなうまいお兄ちゃんたちの姿を見て、スウェットを購入した1人である。当時の名残の2、3着が、まだウチの洋服ケースに入っている。まさに、今、部屋着として大活躍しているのだが……。


ファッションだけに
巡り巡って復活か?

実用性という部分よりも、ファッションの意味合いが強かったスウェットにとって、フットサル界での生き残りは厳しかったようだ。

つまり、流行廃りに左右されるのである。

僕の記憶では、スウェットの次にはピステが来た。あの走ると「シャカシャカ」音がする、薄手のナイロン生地でできたウエアの上下セット。

首都圏での球蹴りでは、冬の屋外でも、これを上に1枚羽織れば十分なことが多いので、僕自身は今でも結構重宝している。

だが、その次にはフットサル界にもジャージの波が来た。だが、サッカーものと比べて、フットサルもののジャージは、デザインなどがオシャレなものが多かったと思う。普段着として来ていた人も結構いるのではないだろうか。

最近ではやはりジップアップパーカーだろうか。これはシャカシャカ系にフードが付いたり、ジャージ系にフードが付いたり、まさにスウェット系にフードが付いたりと、各メーカーでさまざま種類がある感じ。

ちなみに、実際にプレーするときのいちばん中のウエアも、最近は綿でできたTシャツ、ロングTシャツものよりも、速乾性を意識したナイロンのプラクティスシャツ系のもののほうが多く出回っている様子だ。

このようにフットサルでは、出回るものの主流が、年によって、シーズンによって、コロコロと変わっている印象を受ける。

ショップの方に話を聞いたところによれば、大人のプレーヤーが主流のフットサルの場合、ウエアには一種の流行を作って、買い替えを促したいのだという。学生のサッカー部なんかの場合、毎年ジャージをはじめとしたウエアの大量購入が見込めるわけだ。しかし、新しいプレーヤーを取り込まない限り、基本的にプレーヤーが変わらない大人のフットサルでは、同じ人に買い替えをしてもらいたいのである。

だから、巡り巡って「丸首スウェット上下」も、復活する可能性は十分にあるということだろう。だって、あの衝撃的な「ケミカルジーンズ」だって、最近復活の兆しなんていわれたでしょ?

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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