第28回「代々木」

「代々木」…フットサル界で「代々木」といえば、東京・原宿にある「代々木第一体育館」を指す。Fリーグのセントラル開催や、全日本フットサル選手権の決勝トーナメントが行われる、フットサルの聖地だ。


「駒沢」から聖地を移した
フットサル界

フットサルで「代々木」といえば、代々木第一体育館のこと。Fリーグのセントラル開催やフットサル日本代表ゲームが行われる会場で、今も全日本フットサル選手権の決勝トーナメントが行われている真っ最中である。

ご存知の方も多いと思われるが、かつて競技フットサルのビッグマッチが行われる「聖地」は、同じ東京都の駒沢体育館だった。昔の全日本フットサル選手権は、この駒沢体育館と大通りを隔てて反対側にある、屋内球技場の2カ所で行われ、数々の名勝負が繰り広げられた。スタンドとピッチが近く、臨場感たっぷりなところから、今でも「代々木より駒沢」と主張するファンが少なくないと聞く。

ただ、駒沢体育館はアリーナ席を作っても、2500人のキャパシティーしかない。聖地駒沢時代晩年は、ほぼ満員になる試合も多かった。そんな現象が見られたあたりから、ゆるやかに代々木への移行が行われる。代々木のキャパは1万人あるのだ。

代々木で最初に行われた大会は、2001年の第1回地域チャンピオンズリーグだったと記憶している。ただ、各地域リーグのチャンピオンを集めて行われた大会は、最初はフットサルファンにもまったく認知されていなかった。そのため、この第1回大会はスタンドで観戦していた人間が、関係者も含めてたったの3人だったという、笑い話があるくらいだ。

この地域チャンピオンズリーグは、2003年の第3回大会を最後に代々木を離れ、その後はフットサル日本代表の試合がここで行われるようになる。2005年5月に、AFCフットサル選手権の壮行試合としてウクライナ代表と2試合。翌2006年にはフットサル界の世界的スター、ファルカンを擁するブラジル代表と対戦し、8749人と、現在まで破られていない代々木開催フットサルの史上最高観客数を集めた。

全日本フットサル選手権は、2006年に初めて決勝トーナメントが代々木で行われ、プレデターが初優勝を飾った。2007年は駒沢に会場が戻ったのだが、2008年からはまた代々木で決勝トーナメントが行われ続けている。ちなみにこの2008年大会はプレデターを前身とするFリーグの浦安が優勝。Fリーグのゲームでもここでは好試合を見せることが多く、代々木と相性がいいといわれる。

逆に代々木と相性が悪いのは、名古屋だ。2008年、09年と、全日本フットサル選手権ではいずれも決勝で敗戦。Fリーグでもあまりいいゲームをしたことがなく、これまでも負けたり引き分けたりのほうで会場を盛り上げる、「ヒール役」を演じさせられてしまっている。今回の大会は、その相性の悪さを払拭できるかどうかにも注目だ。

Fリーグは、立ち上げの2007年から、4シーズン続けてこの代々木で全チームが集うセントラル開催の開幕節を行い、他にもシーズン中に何度か代々木セントラルが開催されている。公式記録を調べてみると、最高入場者数は2008年10月25日に行われた、第8節名古屋対浦安戦で7081人。浦安が土壇場の決勝ゴールで5−4と勝利を収め、会場が総立ちで拍手を送った伝説の好ゲームだった。


いつか満員の代々木で
フットサルの好ゲームが見たい

全日本フットサル選手権では、残念ながら決勝でもまだ最高が3209人(2009年のフウガ対名古屋)にとどまっていて、今回はたくさんの人に足を運んでもらいたいところだ。

代々木は大体4000人以上になると、上段の席まで人が入る。そしてそれを見ると、ちょっと興奮するのだが、それでも空席は目立ってしまう。フットサル界はまだまだ代々木のキャパをもてあましている状況だ。

また代々木の特徴として、他の体育館に比べて、観客席とピッチに距離がある点が挙げられる。これは、「近くでプレーを見られる」臨場感や迫力も魅力の一つであるフットサルとしては、痛いところだ。バレーボールの国際大会で見られるように、アリーナ席を作りたいところだが、何しろ人を呼べないことには、それもかなわないだろう。

アリーナ席を作れないことは、もう一つの問題にもつながっていて、それはゴール裏のだだっ広さだ。シュートがゴール枠を外れると、その広大なスペースにボールが転々としていき、間が抜けた光景になってしまうのである。

ゴール裏の観客席の壁が近い他の多くの体育館では、跳ね返ったボールを素早く拾ってGKが速攻を狙ったりするのが常だが、代々木ではそれができない。攻守の切り替えの速さというフットサルの醍醐味も、生まれにくい状況なのだ。だから、代々木でのピッチ周りのボール係の人たちには、エキスパートを要求したいくらいである。

それに、観客を入れながらの写真が撮りにくいことで、カメラマン泣かせでもあるらしい。

とはいえ、それでも3000人、4000人の観客の注目が集まる代々木では、乗せられた選手たちが熱いプレーを見せ、好ゲームがたくさん生まれるから素晴らしい。これから少しずつ観客を増やし、ピッチの面白さも増していくことで、この新しい聖地の歴史を作っていってほしいと思う。

そして、いつかはアリーナ席も作られた超満員の代々木で、手に汗握る熱戦を見るのが、フットサルウォッチャーとしての夢でもある。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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