第26回「タイムアウト」

「タイムアウト」…フットサルの試合では、各チームが前後半にそれぞれ1回ずつ、1分間のタイムアウトを取ることができる。第3審判に申告した後、プレーが切れたときに、次のプレーの再開がマイボールになるときにタイムアウトになる。


昔はただ休むために
タイムアウトを取るチームが多かった

前回の「プレーイングタイム」に引き続き、今回の「タイムアウト」も、世の中の多くのフットサルプレーヤーは体験したことがないものなのかもしれない。

正式なルールでは、それぞれのチームが前後半に1回ずつ、1分間のタイムアウトを取ることができる。だが、10分ハーフランニングタイムなどが主流の、民間のフットサル大会では、タイムアウトなしが多いだろう。

そもそもそうした大会では、タイムアウトを申告する第3審判を置いていないし、その審判が控える両チームベンチの間のオフィシャル席もないわけだ。

こういったところでも改めて、公式なフットサルと、僕ら一般のエンジョイプレーヤーがやるフットサルでは、やはり大きな違いがある。ただ、「フットサルの観戦」を楽しむには、公式のフットサルの事情を知っておいたほうが断然面白い。ということで、今回のコラムにもお付き合いいただければ。

前回書いたように、20分ハーフのプレーイングタイムでプレーする公式のフットサルは、とにかく試合時間が長く感じられ、体力を消耗する。

とはいえ、1チーム12人で戦うのだから、まめに交代をして体力の消耗を防げばいいのだが、これがそうもうまくはいかない。競技フットサルの世界でも、当然チーム内に実力順の選手の序列ができる。そのため、勝利へのこだわりや、同じように強い相手チームと渡り合うためなどから、どうしても実力ある選手の出場時間が長くなってしまう傾向があるのだ。

Fリーグなどでは、さすがにそういうのはあまり見られなくなったが、昔などは競技フットサルのかなりトップレベルのほうでも、いつも6〜7人ぐらいの選手で試合をしている状況があった。

そのためタイムアウトは、そうした主力の「休息」のために取るのである。その証拠に、昔はどのチームも10分前後という各ハーフのちょうど半分くらいのところで、タイムアウトを取ることが多かった。


戦術面や駆け引きで使われる
最近のタイムアウト

最近では競技フットサルの世界がレベルアップし、各チームが駒をそろえてきて、試合が12人対12人の様相になってきた。すると、選手の休息面は交代策でまかなえばいいので、当然、タイムアウトはより戦術的な面で使われるようになってきた。

多く見られるのは、ここぞという場面でのセットプレーの確認だ。監督が「ゴールできるチャンス」と思ったときにタイムアウトを取って、選手たちに動きの確認をさせるのである。ベンチ前でボードを持って駒を素早く動かす監督の周りを、選手たちが囲みながら見聞きしている、あのシーンだ。

こういうときはマイボールになったときに、素早い反応でタイムアウトを取らなければならないが、外国人監督が増えてきた最近は、その意志が伝わらなくて然るべきタイミングでタイムアウトを取り逃すケースもあったりしたようだ。

そんなわけで今では、前後半の始まりにオフィシャルから渡されるカードを、オフィシャル席に提出することでタイムアウトを申告するようになっている。まさに戦術的に、タイムアウトという「カードを切る」ことになった。

また、試合終盤のパワープレーの攻防の際にも、タイムアウトはよく使われる。試合に負けている側が、タイムアウトを取って確認をしてから、パワープレーに入る流れがよくある。これで守る側の対応がうまくできていないと、こちらもすぐにタイムアウトを取ってディフェンスのやり方を確認することがある。すると、短時間にタイムアウトが重なるので、こういうときはちょっと会場が間延びした空気になる感じは否めない。

自チームの出来がよくなく、試合の流れが悪いときなどに、その流れを切る目的でタイムアウトを取ることもある。そこで今やるべきプレーの確認などをして、自分たちのリズムを取り戻そうとするのだ。

ただ、監督としてはなるべくならこういうことでタイムアウトを使いたくはない。いざというときのセットプレーの確認などに、カードを残しておきたいと思うようなのである。だから試合を見ていると、流れを切るタイムアウトのタイミングが遅くなってしまうこともよく見かける。逆に流れのいい、勝っているチームは、そんな相手の苦境を見通して、自分たちは敢えてタイムアウトを取らないで、相手を困らせるようにすることもある。

観戦側からすると、お互いが拮抗した緊迫した展開なんかのときは、タイムアウトはちょっと肩の力を抜ける、ほっとした瞬間でもある。そこでそれまでの試合の流れや、その後の展開の予測などができる時間になるのでありがたい。

ところで、タイムアウトが取られないとき。Fリーグのタイムアウトなどでよく出てくる、あのチアの人たちはどんな気持ちなんだろうか。せっかくの自分たちの出番がなくなってしまうのである。監督のさじ加減でパフォーマンスできるかどうかが決まってしまうのも、何か変な話だ。

例えば、ホームゲームであることを意識するのであれば、会場全体の雰囲気が相手を圧倒するようになるような煽りをこのタイムアウトでやって、チームに貢献できるようになれば、監督も積極的にタイムアウトを取るはず。そんなことも考えたりするのである。

あっ、そうすると、今度は相手の監督さんがタイムアウトを取らなくなるのか……。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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