第25回「プレーイングタイム」

「プレーイングタイム」…インプレー中の時間のこと。フットサルの試合は正式にはプレーイングタイムで行われ、タイムキーパーが、ボールがピッチを出たりして試合が止まるごとに時計を止めて、時間を計測している。これに対して、時計を止めないで計測する方式を、フットサルでは「ランニングタイム」と区別していて、こちらは一般の草大会などでよく用いられている。


20分ハーフのプレーイングタイム
経験したことありますか?

フットサルの公式戦は、20分ハーフのプレーイングタイムで行われる。Fリーグなどの会場では、ピッチ脇などにタイマーが置かれ、最初に「20:00」と表示されたタイマーが、だんだん時間を減らしていくことで、見る人があと何分あると分かるようになっている。

プレーイングタイムの試合では、ボールがピッチを出たり、ファウルなどが起こったりして試合が止まると、時計も止めるので意外と時間がかかる。たまに「フットサルは1試合終わるのにどれくらい時間がかかるのか」と聞かれることがあるが、感覚としてはサッカーの試合(45分ハーフの90分)と同じくらい。1試合観戦するには、約2時間コースになるのだ。

さて、この20分ハーフのプレーイングタイム。みなさんは経験したことがあるだろうか。フットサル愛好家の人たちでも、ほとんどは「ない」と思う。これを経験するのは、競技フットサルの人たちのみだ。

僕は大昔に競技フットサルをかじったことがあるので、20分ハーフのプレーイングタイムを体験したことがある。昔は県リーグレベルでもランニングタイムだったり、プレーイングタイムでも15分ハーフなど、短い時間でやっていることが多かった。で、たまに20分ハーフのプレーイングタイムをやったのだが、これが長いこと! もう勘弁して! と思うくらいで、疲労はハンパでない。

これくらい長いと、1試合を通して思い切り走り回ったり、自分たちのリズムをつかみ続けることはできないから、自然とペース配分をするようになる。選手交代もうまくやらないと終盤バテてしまうし、交代をしてもチーム力が落ちないよう、メンバーも多くそろえないといけないなと思うようになる。タイムアウトもうまく取らないといけない。

競技がより「本格的になってくる」感覚を味わったものだ。


プレーイングタイムの大変さを
想像し、理解する

一方、巷のフットサルコートで行われている大会などは、10分ハーフのランニングタイムあたりが主流だろうか。これだったら、6、7人でも十分にプレーできるし、おそらく「交代策」という考えは存在しない。息が上がったり、疲れたら交代という感じで、体力のある人は1試合中プレーし続けるのも可能だろう。

行けるチームは最初から最後までガンガン動き回って、1試合のペース配分などは考えないと思う。ちょっと勝負にこだわるのであれば、アウト・オブ・プレーの時間を長くして、いわゆる「時間稼ぎ」だってできてしまう。

おそらく日本でフットサルをプレーする人のほとんどは、こういう形で試合を楽しんでいる。これはこれで素晴らしい。だが正直、20分のプレーイングタイムでやる競技フットサルとは、あまりにも内容がかけ離れているのだ。

日本にたくさんいるはずのフットサル愛好家が、競技フットサルの観戦者へとつながらないのは、このあたりに原因の一つがあるんじゃないかと、僕は思うことがある。多くのフットサル愛好家にとって、自分たちがプレーしているものの延長線上に、競技フットサルがないのだ。

それでも競技フットサル関係者は、それら多くのフットサル愛好家を何とか観戦者にしたいところだろう。まずは、本当のフットサルは「20分ハーフのプレーイングタイム」で行うものという事実を、もっと知ってもらわないといけないのだと思う。これは多分、40×20メートルの広いピッチでプレーしているという事実も同じくだ。

そしてその条件下でプレーすることのきつさ、大変さを想像し、理解してもらう。大変だからこそ、フットサルならではの交代策や戦術が生まれてくることを想像し、理解してもらう。そうじゃないと、今の競技フットサルをぱっと見ても、多分ちんぷんかんぷんなんじゃないか。

本当なら実体験してもらうのがいいとは思うが、無理であれば、本当のフットサルへの理解を深めてもらう何かをもっとしていかないといけない。

日本はスポーツの本来のルールを、自分たちの状況に合わせたローカルルールに変えて楽しむことが多い。でも、他の国では正式なルールに則って試合をするところが多いみたいで、日本との違いをたまに耳にする。フットサルであれば、どんなレベルでも20分ハーフのプレーイングタイムでやる。それがフットサルというものなんだと。

以前、眞境名オスカー氏(元ファイル・フォックス監督)に話を聞いたことがあるが、「ブラジルでは試合時間を短くしたり、1日に何試合もやるなんてありえない」と言っていた。

このあたりも含めての、理解も必要なんだろう。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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