第24回「バーモントカップ」

「バーモントカップ」…U−12のフットサル日本一を決める、全日本少年フットサル大会のこと。今年で20回目を迎えた歴史ある大会で、長年のハウス食品の特別協賛から、「バーモントカップ」の呼び方のほうが、今は通りがいい。


開催20回を数える歴史ある大会
今年から大会方式が変化した

毎年、東京の駒沢体育館と屋内球技場を使って、年明けの1月4日〜6日の3日間で行われているのが、「バーモントカップ全日本少年フットサル大会」だ。各都道府県の予選を勝ち抜いた全48チームが、この決勝大会に集まり、ジュニア年代のフットサル日本一を決める。今年は第20回の記念大会となった。

近年はお正月の恒例行事として定着していて、会場は出場チームとそれを応援する親御さんたちで、かなりの熱気になっている。

第1回大会は読売サッカークラブユースS(現在の東京ヴェルディ)が優勝。ここでは、現在名古屋オーシャンズ所属の木暮賢一郎がプレーしていたことで有名だ。また、同じ第1回大会では小野伸二(現清水エスパルス)、第2回大会は我那覇和樹(現FC琉球)、第3回大会は山瀬功治(現川崎フロンターレ)などなど、後にJリーガーとなった選手が多数プレーしていた大会としても知られている。

これはフットサル関係者の共通の話題というか、サッカー界に対するちょっとした自慢、アピール話みたいになっていて、「小野はフットサルをプレーしていたからサッカーがうまくなった」的な話は、毎年この大会の時期になると耳に入ってくるものだ。

なぜ、彼らがそうして多くの関係者に覚えられているかというと、彼らが出場した大会の優秀選手に選ばれているからで、それが記録として毎年の大会パンフレットに掲載されているからだ。つまり、未来のJリーガーは、小さい頃から目立った活躍をしていたということなのだが。

さて、大会の形式だが、これまでは48チームを3チーム×16グループに分け、各グループの1位が決勝トーナメントへ進める仕組みだった。そして、決勝トーナメントと同時に2位トーナメント、3位トーナメントも行い、たくさん試合ができる内容になっていた。

ただ、3チームのグループリーグでは、初戦で敗れるとほぼグループ突破が難しくなることがある。強豪同士が同グループに入ったりすると、そこの一発勝負の結果如何で大会が終わってしまい、もったいないとの意見も出たのだろう。

そこで今年からは、4チーム×12グループのグループリーグに方式が変わった。これで各グループ1位チームと、2位の中で成績優秀な4チームの計16チームが決勝トーナメントに進むことになり、グループリーグが少し活性化されたのではないだろうか。


GKのプレー制限を厳しくして
ようやくフットサルらしいゲームに

今年の大会のもう一つの大きな変化は、GKに関するルールの変更だ。U−15年代以下のフットサルに関しては、2003年よりGKのスローがノーバウンドでハーフウェイラインを越えるのが禁止されていた。

これは、大会が歴史を重ね、各チームが段々勝負にこだわり始めたところで、GKがスローを全部相手のゴール前の長身味方選手に投げ、ヘディングシュートからゴールを狙わせるという、リスクを避けた負けにくい戦法を取るチームが増えたためである。結果、GK同士のキャッチボールのような試合になってしまい、これでは「スモールコートでプレーさせる意味がない」とスローのハーフ越えを禁止したのだ。

ところが、今度はGKが投げる代わりに、パントキックで同じように相手ゴール前にボールを放り込むプレーが増えてきてしまった。以前と同じようにフィールドプレーヤーの上空をボールが行き交う現象が起きてしまい、昨年3月の通達でU−15年代以下では「GKからの"キック"もハーフウェイラインをノーバウンドで越えてはいけない」ルールになり、今大会に採用されることになったのである。

これでようやく、バーモントカップがフットサル大会"らしく"なった。1対1のドリブルの仕掛けや、ワンツー突破、チームとしてのパス回し、カウンターアタック……。ハイボールの競り合いばかりだったかつてのゲームが一転、そうしたシーンがたくさん見られるようになり、選手たちが狭いピッチの中での技術や判断力、動き方や体の使い方を体感し、身につけられるような大会になったのだ。

この大会に参加するのは、ほとんどが普段はサッカーをやっているチームだ。そうした指導者、選手たちが、サッカーにもすごく役立つスモールコートでのプレーの方法を考え、覚えてもらうのが、このバーモントカップの大事なコンセプトであるはず。参加する側にも年々その意識は強まっていて、今年上位に進出したのは、フットサル(あるいはスモールコートゲーム)への取り組みが熱心なチームばかりだったのは喜ばしいことだ。

ただ、僕としてはまだまだ気になるところはあって、その最たるは、多くのチームが交代をほとんど有効に使わない点である。サッカーチームであれば、単純に考えて11人のレギュラーを(試合での登録は1チーム12人)回しながら使えばいいと思うのだが、その11人の中で上から力のある5人を中心に戦い、11人の中でもレギュラーとサブが明確になってしまっている。

これは少々心配な部分だ。というのも、ただでさえ結構な人数を抱えているサッカーチームの中で、5人しかゲームに出られないとなると、その他大勢はせっかくのフットサル体験の機会を失ってしまい、選手の成長にもつながらなくなってしまうからである。

中には予選に1クラブの中から複数のチームを登録するなどの工夫をしているところもあるようだが、この点でどうしても問題になるからと、大会の参加を見送るチームも少なくないと聞く。

ここは、例えば試合時間をもっと長くするなどで、5人だけでは体力面で勝ち切れない。ベンチ登録の12選手全員をうまく使わないと勝てないような設定を、考えたほうがいいのではないか。

試合に出れる、出れない問題で、出場自体を避けてしまうのは何とももったいない話である。より多くの選手がプレーできる環境を整え、このジュニア年代でフットサルの面白さ、楽しさを体感してもらいたいものだ。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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