第16回「ピボ」

「ピボ」…フットサルのポジションで、チーム内で最前線に位置し、攻撃時のポストプレーや、得点が期待されるのが「ピボ(PIVO)」。専門誌の名前にもなっていて、フットサルでは重要かつ、花形のポジションでもある。


ポストプレーをするケースが
多く見られるポジション

当初からブラジルフットサルの影響を大きく受けている、日本フットサル。ポジション名もブラジルで使われていたものが、そのまま日本でも広がっていった。

以前も紹介したように、こだわっている人はGKを「ゴレイロ」と呼ぶ。フィールドプレーヤーは、ひし形の布陣をベースとして、最後尾を「フィクソ」(「ベッキ」という呼び名もあったが、最近は「フィクソ」に淘汰されてきているようだ)。中段の左右の2人は「アラ」。そして最前線を「ピボ」と呼ぶ。

フットサル関係者に話を聞くと、このピボのポジションは、誰にでもできるものではない特別なポジションといわれることがよくある。

ピボは「サッカーでいうFWのポジション」と、紹介されることが多いし、実際にFW出身の選手がピボを務めるようになるケースも多い。確かに相手ゴールにいちばん近い最前線に位置し、チームのゴールシーンに多く絡む役割を担っている。自身が得点チャンスを迎える確率も、他のポジションの選手に比べれば、もちろん高い。

それでも、コートが狭い中でその役割をこなそうとするフットサルのピボは、サッカーのFWの感覚とは随分違うのではないかと思うのである。

フットサルのそのピッチの狭さゆえに、ピボはマークを完全に振り切るという状況がなかなか作りにくいポジションである。となると、後ろの3人がゴールをお膳立てして、ピボはフリーでラストパスを待ってシュートを決めるといった、サッカー的な現象は起こりにくい。

しかし、攻める側のチームとしては、何とかしてボールを前に運びたい。そこで一瞬でもマークを外したピボに対して縦パスを入れ、それを素早くフォローしてリターンを受け、攻撃を仕上げる体勢に入る。つまり、ピボにとってはこういうときのポストプレーが非常に大切になってくる。

もちろん、相手も素早く対応してくるから、それを自分の体でブロックしながら、縦パスを受けるケースも多い。ピボが後ろ向きで相手を背負いながら、味方の縦パスを受けるシーンが多く見られるのはそのためだ。


ピボのあるなしで
チーム戦術が変わる

そんな相手の厳しいマークにあうピボの選手にもかかわらず、ゴールを量産できるストライカータイプのプレーヤーがよく見られるのも事実だ。FW出身が多いだけに、自らゴールしようという、得点にどん欲な選手が多い。

そんな彼らには大抵、厳しい相手のマークを制しながらの振り向きシュートという武器がある。また、サイドに流れて前向きでボールをもらい、相手をかわしてシュートを決めるパターンも持っていたりする。

こうして、ポストプレーで味方を生かすこともでき、自らのシュートでゴールもしっかり決められるピボが、このポジションの理想の形だろう。とはいえ、そうした理想的なピボは、それほど多くはないのも事実である。どのチームにも「ピボらしいピボ」がいるとは限らないのが現状だ。

ポストプレーはうまいが、得点力に欠ける。あるいは、ゴールは取れるが、ポストプレーができない。そんなピボがたくさんいるのが今のフットサル界だ。そこで各チーム、そろえられたピボのタイプに合わせて戦術が決まっていく面がある。

例えばFリーグでいえば、名古屋には森岡薫、神戸には原田浩平といった、「ピボらしいピボ」がいるので、名古屋や神戸は、彼らへの縦パスを入れるプレーを中心に攻撃が行われている。また、森岡、原田個人の打開力による得点が期待されている面も大きい。

一方、昨季名古屋でプレーしていたウィルソンのように、ポストプレーでボールをキープしたらほとんど相手に取られないが、自らゴールを決めるのは苦手なタイプもいた。これには、自らスパイクを打たない、バレーボールのセッターのようなイメージを受けたものだ。

また、大分や浦安といったチームは、「ピボらしいピボ」がいない。そこで、ポストプレーを使った攻撃は行われず、前線にポスト役を張らせるような布陣もとらない。相手を手前に引き付けてから裏を取る攻めや、カウンターでチャンスを狙うケースが多く見られる。そのためゴール前に出てくる選手は目まぐるしく変わるので、そうした選手たちがまんべんなく得点できるのが、理想の形になる。

チームの戦術に大きな影響を与えるピボの存在。競技フットサルのチームは、自らの戦術を再考する指針にしてもいいだろうし、観戦者にとっては見るチームを分析するきっかけにもなると思う。



プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
目次へ