第14回「アンチフットサル」

「アンチフットサル」…ボールを奪いにいく守備や、どん欲に果敢にゴールを狙う攻撃など、アグレッシブなフットサルを良しとする人たちが、格上相手との実力差を埋めるために、彼らとは反対に極端に守備的だったり消極的なフットサルをする姿勢を指す言葉。Fリーグ開幕戦の名古屋対北海道戦で、北海道にアンチフットサルの姿勢が見られたとして、その善し悪しが話題となった。


アグレッシブフットサルの怒り
アンチフットサルの悩み

今回は、僕の周りで最近頻繁に聞かれる言葉、「アンチフットサル」についての話を整理しておきたいと思う。

フットサルとは前線からプレスをかけて積極的にボールを奪いにいき、相手ゴール前での得点チャンスを多くしようと試みるもの。またそうした相手に対して、ボールを持った側は素早くパスをつないでプレスを回避しながらのビルドアップを試み、攻め込んでいくもの。

攻守の切り替えも速くして、カウンターのチャンスも狙い、また防ぎあう。そうして攻守にアグレッシブにプレーすることが、スペクタクルなゲームを生んで競技フットサルを見に来るお客さんが増えると共に、ハイプレッシャー、ハイレベルの中での攻防が増えてプレーヤーの成長も促され、日本のフットサルが発展する。

日本代表のミゲル監督や、名古屋のアジウ監督らが、来日以来ことあるごとに提唱しているのが、この「アグレッシブフットサル」である。

これとは反対に、自分たちよりかなり強い相手と対戦するときに、攻撃はほとんど放棄してまでも自分たちのゴール前にベタ引きして守ったり、あるいはこのコラムの第12回の「パワープレー」のときに書いたように、積極的にゴールを狙わずに、ただ数的優位を利用してボールを回すだけの、「時間稼ぎのパワープレー」をして、ロースコアに持ち込もうとするフットサルが存在する。

これを、アグレッシブフットサル派は「アンチフットサル」と名づけて批判するのである。

今年5月にウズベキスタンで行われたAFCフットサル選手権でのことだ。

日本はグループリーグで格下のトルクメニスタンと対戦した。ところがこのトルクメニスタンが、日本が先制してリードしたにもかかわらず、守備ではボールを取りにくることをせず、攻撃では40分間パワープレーを続けて、日本がボールを持てる時間を削る作戦に出た。

ミゲル監督は抗議の意味も込めて、後半の日本のキックオフから3分間、選手たちに自陣でボールを回し続けさせ、ボールを見つめたまま取りに来ないトルクメニスタンを挑発したそうだ。会場には大ブーイングが起き、異様な雰囲気に包まれたという。

そしてFリーグ開幕戦だ。北海道は前半、名古屋に対し、2度ともゴールを狙わない時間稼ぎのパワープレーを行った。2度目は名古屋に先制され、0−1とリードされた中で行ったパワープレーだった。しかし、この時間を削ったことが奏功し、後半名古屋に押し込まれながらも、時折鋭いカウンターで抵抗した北海道が、見事引き分けに持ち込むことに成功したのである。

北海道は、2週間前のオーシャンアリーナカップで、名古屋と対戦した。そこではいつもどおりのアグレッシブフットサルで臨み、前半は0−0で終えている。ところが、後半にガス欠。急に運動量が落ちて、結果1−8と大敗していた。

北海道はFリーグの中でも強いほうのチームだ。だから開幕戦では、前に出たり、後ろに引いたりといった、プレスラインを時間帯によってコントロールするなどで、自分たちの体力の消耗を防ぐ作戦に出るのではと思っていた。

でも本人たちは実際に対戦した中で、かなりの差を感じたのだろう。それだけではまたやられると思ったのだ。そこで、北海道は時間稼ぎのパワープレーを選択した。「葛藤どころの話ではなかった」という小野寺隆彦監督。なぜなら、Fリーグの監督たちは、ミゲル監督の音頭の下、「お客さんたちにいいフットサルを見せよう」と申し合わせもしているからなのだ。ただ、北海道・水上玄太キャプテンの「(アグレッシブにいって)大量失点しても、お客さんは楽しくないのではないかと思った」とのコメントには、説得力があった。

試合後、アジウ監督はもちろん怒った。そして嘆いた。「これでは日本のフットサルの発展につながらない」。記者会見では、時間稼ぎパワープレーへの戦術的対策はないのかの質問が出たが(これまでも何度か出たことがある)、通訳を介してそのニュアンスが伝わらないのか、先のコメントの一点張りで、今回も残念ながらその回答を聞けずじまいだった。

これには、引き分けなのに怒るのは筋違いとか、力が飛び抜けているはずの名古屋はそんなアンチフットサルを力でねじ伏せていく義務がある。そんな話が出ている。

そんなことは百戦錬磨のアジウ監督も重々承知だろう。それでもああして怒りを露にしたのは、「今度はあんなことしてくれるなよ」という、北海道へ対するプロレス的挑発だったのだととらえたい。


パワープレーの時間を
制限してみてはどうか?

ただ、アジウ監督も、試合後半の北海道の守備的戦術にまで槍を入れたのはいかがなものか。北海道は全体の布陣を引かせながらも、ボールを奪いにいくアプローチはしっかり続けていたし、こうした守備的な戦術はまったく悪くないと思う。極端な話、ボールを取りに来ないベタ引きでも、攻撃側にはミドルシュートの選択肢があるではないか。

アグレッシブフットサル派には、こうした「引いて守ってカウンター」というやり方にも成長がないと、ちょいちょい異議を唱える強硬派が多いので、それはどうなのかなと引かれてしまう面がある。

だから、北海道でまずかったのは、やはり前半の時間稼ぎのパワープレー。特に2回目の、リードされたのに時間稼ぎしたパワープレーではないだろうか。

勝っているほうの名古屋も、バカバカしくなってボールを無理に取りにいかない。ピッチに何も起こらずに、ただボールが回っているだけの光景は、僕は退屈でしょうがなかったし、見ている人をバカにしているのかとも思った。

現在のフットサルのルールでは、パワープレーを用いてあまりにも簡単に時間稼ぎできてしまうのが、問題なのだ。だから「前後半それぞれ3分間まで」とか、パワープレーをやれる時間帯を制限してはどうかとも考える。

もっとも、忘れてはいけないのは、北海道が時間稼ぎのパワープレーをしたとき、ウズベキスタンのAFCフットサル選手権のように、代々木第一体育館でブーイングは起きなかったことだ。

他のスポーツ同様、フットサルにもいろいろな見方、楽しみ方がある。

ピッチを俯瞰したところでの、戦術の仕掛け合いが楽しい人もいるし、局面のプレー、足ワザが楽しみな人もいる。

注目のリカルジーニョは、チャンスにつながるような決定的なプレーはなかったものの、圧倒的なスピードとテクニックで他選手との違いを見せつけ、会場にどよめきを起こし続けた。このゲームを楽しかったと感じた人は、かなり多かったようだ。

実際には日本のフットサルファンにとって、今はアンチも何も関係ないのかもしれない。メディアにいる僕自身も含めて、フットサルを盛り上げようと思っている監督、選手、関係者の人は、そのあたり気をつけないといけないなと感じたのも事実である。

それに現状、僕自身もいろいろとバランスを取って書いてきながら、この「アグレッシブフットサル対アンチフットサル」は、何だか話の落としどころがないのである。

というわけで、今はそんな話になっていますよというのを、今回は知っていただき、僕の今のところの線引きは、

・時間稼ぎのパワープレー反対
・負けているのにボールを取りにいかないのは反対

Fリーグはまだ4年目。これからたくさんの試合が行われ、たくさんの人の目に触れ、たくさんの意見が出る中で、今後日本のアンチフットサルに対する、何となく共通した線引きができるのではないだろうか。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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