第13回「マンツーマンとゾーン」

「マンツーマンとゾーン」…フットサルのディフェンスの方法で、他の多くのスポーツと大きな意味合いは変わらない。マンツーマンディフェンスは、各自が自分のマークする選手を決めて、相手にくっついていく守り方。ゾーンディフェンスは、各自が自分が守備をするエリアを決めて、そのエリアに入ってくる相手やボールをチェックする守り方だ。


当初は常識だった
マンツーマンディフェンス

「フットサル=マンツーマンディフェンス」。これは90年代半ばにフットサルが始まったころの常識だった。それまでの、サッカー中心の生活からフットサルへ、といった選手がほとんどだった状況で、フットサルをうまくプレーするためのコツの一つだった。

サッカーの場合は、部分的にマンツーマンを使うチームがあるものの、世界のほとんどでゾーンディフェンスをやっている。各選手が自分のポジションを意識しながら守備ラインや守備ブロックを作り、自分たちのゴールに向かってくる相手に対してプレースペースを与えないようにするのが基本だ。

そして、DFの最終ラインを上げ下げしながらコントロールし、オフサイドルールを巧みに利用したり、前線からのプレッシングを行って積極的にボールを奪いにいくチームがあるのも特徴になっている。

ところがコートが狭く、お互いのゴールが近いフットサルでは、ちょっとでも相手をフリーにするとシュートを入れられてしまうのではないか。ゾーンのようにマークを受け渡している間に、シュートを入れられてしまうのではないか。そんな考えに基づいて、マンツーマンが常識になっていたのだ。

そんなのだから、当初はもう完全マンツーマンである。基本、プレーが一旦切れるまでは、各自が決めたマーク相手にどこまでもくっついていき、相手に自由を与えない守備が奨励されたのだった。

おそらくそうしたマンツーマンディフェンスを打破するために、先日このコラムのコーナーで紹介したような「フェイク(第10回)」や「サインプレー(第11回)」が、攻撃面で発達していったのだろう。

フェイクは、距離近くしつこくマークしてくる相手から、プレーする時間とスペースを作り出すための予備動作だった。サインプレーなども、おとりになる選手に相手が1人ずつくっついてくるところを利用して、スペースを作ったり、フリーでシュートを打てる選手を作るのが目的だった。どちらも「相手がついてくる」ことを前提にして始まったものだ。


マークの受け渡しが始まり
ゾーンディフェンスが進化していく

そのうちフットサルが進化してくると、マンツーマンによる体力の無駄なロスを意識する人々が増えてきた。

典型的なのは、攻撃側の選手が前後のポジションを入れ替えて動く、スイッチへの対応である。最初は相手のポジションチェンジに対して、守る側も場所を入れ替わってマークするのが当たり前だった。

そのために守る側は、各選手がピッチ上で前後の動きを強いられることになる。これを1試合で繰り返すと、相当にキツい。そこで、スイッチをきっかけに相手が何かを仕掛けることがなさそうだと読めたときなどは、前後の選手が声を掛け合い、ポジションを入れ替えずにマークの受け渡しが行われるようになっていった。

またマンツーマンのときには頻繁に起こっていた、例えば体が大きい選手に対して、小さい選手がマークしなければいけなくなるような、いわゆるミスマッチ。これも、マークの受け渡しを行うことで、解消されていくようになる。

そしてこれに慣れてくると、「このタイミングでは仕掛けてこないな」とか「このタイミングではシュートを打ってこないな」といった勘が働くようになり、それが「このスペースでは多少相手をフリーにしておいても大丈夫だ」という感覚が生まれる。

そこで、マークの受け渡しを頻繁に行いながら、相手の攻撃にとって肝になるスペースにポジションを取るようにし、そのスペースにボールが入ったら素早くアプローチしてプレッシャーをかけ、ボールを奪いにいく。つまり、ゾーンディフェンスが主流になっていくのである。

ゾーンが主流になったことで、前線では相手のボール回しを読んだうえでの積極的なチェイシング、プレッシングが多く見られるようになった。また自分たちが網を張ったゾーンに相手を誘い込んだところで、2人の選手が1人の相手を挟み込んでボールを奪うシーンも頻繁に見られるようになる。前線の守備ゾーンが破られたときの、後ろの選手たちのカバーリングのプレーも当たり前になった。

一方で攻撃側としては、対抗策として、そうした守備側の選手同士の、間のコースやスペースを利用した、ポジショニング、ボール回しで攻めようとする姿勢が見られている。

もう一つはスピード。相手がついてこないのをいいことに、スピーディーに長い距離を走って、ゴール前で一気にフリーになる動きも、優れた選手に見られる特徴だ。

Fリーグなどを見ていて最近気になるのは、守備時に相手選手を簡単に見失ってやられてしまうケースをよく見かける点だ。若くてまだ経験が浅く、ゾーンしかやったことがないという選手が多くなったせいだろうか。

よくマンツーマンは人に対して守り、ゾーンはボールに対して守るといわれる。ゾーンディフェンスが主流となったフットサル界ではあるが、フットサルの特徴は変わらない。

「ちょっとでも相手をフリーにするとシュートを入れられてしまうのではないか。マークを受け渡している間に、シュートを入れられてしまうのではないか」。その危機感だけは常に持っておくことは必要だろう。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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