第12回「パワープレー」


「パワープレー」…ゴレイロが自ゴールを空けて上がっていってフィールドプレーヤー(FP)のようにプレーし、相手のFP4人に対して数的優位を作って攻めていく、フットサルを特徴づける戦術の一つ。また、片方のチームに退場者が出たときなどに起こる、数的優位の状況でも、「パワープレーの状態」といわれることが多い。


2000年のルール改正で
大流行したプレー


競技フットサルを初めて見る人が、フットサルにハマってくれるパターンの一つに、パワープレーがある。これを初めて見て興奮した人、その興奮した人を見た人は、たくさんいると思う。

大抵は負けているチームが、ゲーム終盤のどうしてもゴールが欲しいときにパワープレーをやる。かなりリスクのあるプレーであることは、一目見ればすぐにわかるはずだ。

数的優位でボールを回していけば、たくさんのシュートチャンスを作れる。「わぁーっ!」と沸くシーンがたくさん出てくる。その代わりに、少しでもミスして相手ボールになった瞬間、がら空きの自ゴールにロングシュートを決められてしまうかもしれない。

その危うさが、見る者の気持ちを高ぶらせるのだ。

日本でパワープレーが流行しだしたのは、2000年のこと。この年のルール改正で、それまでのアウトオブプレー時にしかできなかったゴレイロの交代が、インプレー時も自由にできるようになった。

それまでは、足元の技術に長けたゴレイロがそのまま上がって仕掛けるか、あるいはゴレイロもうまいFPが、満を持して出てきて行うのがパワープレーだった。そうした特徴の選手がいるチームしか、使えなかった戦術だった。

だが、2000年のルール改正によって、攻撃時はFPがゴレイロになって攻め、守備時にはゴレイロがまた戻って守るといった、こまめな交代が可能になり、より多くのチームがパワープレーを使うようになったのである。

まだマンツーマンマークのディフェンスが主流だった時代にあって、このパワープレーはかなりの効果を発揮した。FP同士のマッチアップの形になると、ボール回しの最後尾でゴレイロがフリーになるシーンが多く、少し勇気を持って前に持ち込めばミドルシュートがよく決まったのである。

昨季Fリーグ湘南で監督をしていた(今季からはコーチ)、奥村敬人などはその代表格で、パワープレーのゴレイロの代名詞のような存在だった。他のチームでもパワープレーのゴレイロを務めるFPは、シュート力のある選手と相場が決まっていた。


一時は衰退するも
Fリーグで再び流行に


時を経て、パワープレーに対するディフェンスが整備されてくるようになると、なかなかゴールが決まらなくなってきた。せっかくパワープレーを仕掛けても、失敗して逆にロングシュートを決められてしまうシーンが目立つようになる。

それでも、「普通にやっていて点が取れないなら、何もしないよりかはマシ」みたいな考え方で、半ば玉砕覚悟でパワープレーに訴えるチームは減らなかった。

しかし、それでは見ているほうもさすがにしらけてしまう。僕自身も「パワープレーはやり損の時代に入った」という記事を、何度か書いたことがあった。

その考えをくつがえし、パワープレーを魅力的な戦術として、日本人に再提示してみせたのが、Fリーグの1、2シーズン目に浦安を指揮した、シト・リベラ監督である。

シト監督のパワープレーのゴレイロには、岩本昌樹が重用された。彼は決して強力なシューターではない。シト監督が岩本を選んだのは、状況を見て味方にしっかりとパスをつなげられる技術、判断力に優れているのと、足が速いこと。つまり、もし相手ボールになっても、素早く戻って相手のロングシュートを防げる可能性がある点を考慮されてのものだった。

したがって、パワープレーの内容自体も、以前のゴレイロがバンバンシュートを打っていくスタイルから、丁寧にパスを回して、時間をかけてでも相手のスキを確実に突いて1点をもぎ取るといった形にシフトしていく。

就任当初は、選手たちの集中力が持たないからと、1試合中数分間に限定されていた浦安のパワープレーも、徐々に選手たちが慣れてくると、抜群の成功率を収めていくようになった。するとシト監督も、使用度合いをどんどん高めていき、パワープレーはチームの看板戦術になっていく。

特に戦力面で格上の、王者・名古屋との対戦は、パワープレーをいかにうまく使って勝負するかが見ものになっていた。ときにはまだスコアがイーブンの、前半から使って展開を有利にするなど、息をのむ攻防が繰り広げられて、名勝負となった。

もっとも名古屋にとっては、パワープレーによって相手のボールポゼッション率が高まり、まともに勝負させてもらえない感覚もあっただろう。迷惑な話だったと思う。

浦安の場合は、まだゴールをしっかり狙っていく中でのパワープレーというイメージが強かったため、見るほうも楽しむことができた。

ところが、「パワープレーは格上相手にポゼッションができる」ということがバレてくると、積極的にゴールを狙わずに、ただ数的優位を利用してボールを回すだけの、「時間稼ぎのパワープレー」をするチームが出てくるようになる。

これがまた異常に退屈で、我慢がならない。今、パワープレーに対して批判が出ているのは、そういった側面があるからなのだ。

ルール上はまったく問題がなく、これはいわばやる側のモラルの問題であるから難しい。ただ見る者がつまらないと訴えることはできる。ルールでしばれないうちは、観戦者がこのパワープレーを監視していくことになる。

苦しい状況を打開する戦術として、パワープレーしかないのも問題なのだろう。確かにこの戦術には、凡人がスーパーマンに変身してしまうかのような感覚がある。

だが、まだ歴史の浅いフットサル。パワープレーに匹敵する、あるいはパワープレーをしのぐような、新たな戦術が出てきてもおかしくはないのだ。



プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
目次へ