第11回 「サインプレー」

「サインプレー」…セットプレー時などに、各選手があらかじめ決められた動きをすることで敵のマークを外し、フリーの選手を作ってゴールチャンスを作るプレー。


フットサルで
重要なパートを占める

フットサルをプレーする、あるいは観戦する楽しみの1つに、サインプレーがあると思う。セットプレー時などに、各選手が一斉にそれまで練習していた「決められた動き」をすることで、敵に穴を作り、チャンスを作るものだ。

Fリーグでも、セットプレーが行われる前に、キッカーの選手が何かキーワードを口にしたり、指を何本か立てたりして味方に合図を送り、キッカー以外の選手たちは「せーの」で複雑な動きをしながら、フリーの選手を作ってシュートを決める、なんていうシーンを見たことがあると思う。

また監督がタイムアウトを取って、ボードの上で駒を動かしながら、何か選手たちに説明していることがある。あれもサインプレーの打ち合わせだ。ちなみに、Fリーグ大分の館山マリオ監督は、この駒を動かすのが異常に速いことで有名だ。手品師がマジックを披露するかのごとく、素早く駒を動かして「分かった?」と聞く監督に、当初選手たちは相当面食らったという。

このサインプレー。フットサルのゲームではかなり重要なパートを占めている。極端な話、プレー中のあらゆる局面でサインプレーを繰り出すことができるからだ。

FKやCKはもちろんのこと、相手陣のキックインも、コートが狭いフットサルはゴールが近いので、サインプレーで決定機を作れるチャンスである。またゴレイロからのリスタートの場面では、プレスをかけてくる相手をかわすためのサインプレーがあるし、そのまま一気に相手ゴール前までボールを運んで、得点を狙うプレーを用意しているチームもある。

かつてはキックオフ時にも、頻繁にサインプレーが使われていた。それに、インプレー中もサインプレーがあった。プレスディフェンスがまだ普及せずに、自陣に引いて守るスタイルが主流だったころの話だ。相手のチェックを受けない、ボールを持ったフィクソが、後方から指を立ててサインを送ると、それに合わせて味方が動く。4人の連動した動きとボール回しで、相手を崩そうとしていたのである。今思うと、あのころはのどかな時代だった。

現在のフットサル日本代表のミゲル監督も、就任してこの1年は、守備面の構築と、セットプレーにほとんどの時間を割いたほどだ。

5人という少人数でプレーするフットサルは、その分、選手間のコンビネーションを取りやすい面がある。そしてボールもプレーヤーも「止まった」状態から始められるセットプレー時は、練習した動きを繰り出しやすいので、サインで動きを決めておけば、実際のゲームでもシュートチャンスを作りやすいという考えなのだ。

ちなみに、こうしたサインプレーを考案しだしたのは、ブラジルでフットサル(当時はサロンフットボール)をプレーしていた日系人たちだったと聞いたことがある。まともにプレーしていては、フィジカルが強いブラジル人にかなわないので、サインプレーでチャンスを作ろうとしたのだとか。そういえば、前回紹介した「フェイク」の動きも、日系人発祥らしい。

実際のゲームで成功させる
ポイントはセンス

サインプレーの動きを習得することは、あるレベルまでなら、誰にでも結構簡単だ。では実際にサインプレーを成功させられるかとなると、これはまさにセンスが必要だと思う。

例えばCK時のサインプレーの場合、キッカーの他に、3人のフィールドプレーヤー(FP)がいる。その中の1人がフリーでシュートを打てるシーンを作るために、残りの2人のFPが自分の動きでマーカーを釣って、パスコースやスペースを空けたり、あるいはシューターにチェックにいく相手をうまくスクリーンしたりする。

その一連の動きの緩急だったり、タイミングの合わせ方だったり、敵を釣る演技力だったりといったものは、競技フットサルレベルを見ていても、明らかに、うまい、下手がある。

練習ではシャドートレーニングを繰り返し、あるいは「こう動くだろう」という想定の相手をつけてやったりして、みんなが完璧になっているはずだ。でも、実際の試合では相手がこちらの思うように釣られてくれなかったりする。

そういうときでも、少し動き直してみたり、微妙に動くタイミングをずらしてみたりといった工夫で、サインプレーをやり切れたりする能力は、なかなか教えられて身につくものでもなさそうなのだ。

またこうしたサインプレーのキッカーというのは、チーム内で決められた選手が蹴ることが多い。「スイッチャー」ともいわれる、この役割をうまくこなせる選手は、かなり特別な才能の持ち主。相手の陣形を見て、どんなサインプレーをやるかを決め、味方の動き、敵の対応に合わせて、キックのタイミング、コース、スピードなどを調節しないといけない。うまくフリーが作れなければ、サインプレーをやめるという判断も必要だ。

エンジョイレベルでも、チームで活動している人たちは、ぜひサインプレーに挑戦してほしい。どんな動きで相手を崩すか、いくつサインプレーを用意するのか。そんなことをみんなで考えて打ち合わせるのも、楽しみの一つだったりするのだ。また、実際に試合でサインプレーが決まったときの快感は、何物にも変えがたいものがある。

個人参加のプレーヤーでも……。フットサルのサインプレーに対する考え方が、もっと浸透してくれば、試合前の簡単な打ち合わせで、サインプレーを繰り出せるようになるかもしれない。そのへんのフットサル場でそんな光景が見られるようになったら、日本の競技レベルは相当なものになっているだろう。


プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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