第8回 「セット」

「セット」…ピッチに出てプレーする際の、フィールドプレーヤー4人の組み合わせのこと。同じプレーヤーでセットを固定したり、選手を固定せずに流動的にしたり。相手の出方や状況に合わせて対峙させるセットを変えたりなど、セットに対してのやりくりの違いで、そのチームの戦術が見えてくる。


90年代半ばに生まれたフットサルが、日本で盛んになった理由に、「少ない人数で球蹴りが楽しめる」というのがあった。それまでのサッカーのエンジョイプレーヤーの悩みは、とにかく人数が集まらないこと。サッカーコートを予約するのもひと苦労だったが、何よりも11人がそろわない。

そんな人たちにとって、1チーム5人でできるフットサルは、大変魅力的だった。当時プレーヤーの中心となった都心部の20代の社会人たちは、5人以上11人未満というちょうどいいコミュニティー、例えば地元の集まりや、学生時代の仲間、会社の同僚といったくくりでチームを作り、フットサルを楽しむようになったのである。やがてそれは、サッカーブームの中で手軽にボールを蹴りたいと思った初心者や元サッカー経験者などをも巻き込んで、大きな盛り上がりとなっていった。

こうした流れできた日本フットサルだけに、その中から競技志向のチームが出てきても、ゲームでは「レギュラメンバー+控え」という、サッカー感覚が抜けないチームが多かった。せっかく「交代自由」というサッカーとは違うルールがありながら、それはレギュラーに代わって控え選手が少ない時間出場し、その間にレギュラー選手を休ませるという考えくらいにしか利用されなかったのである。

交代自由のルールを最初に有効利用したのは、今回日本代表との試合で来日する、ロシアのフットサルだったといわれている。彼らはフィールドプレーヤーを4人ずつの2つの「セット」にきっちりと分け、当時の常識からは相当に短い、3分とか5分とかいった単位の出場時間でセットをこまめに変えて試合に臨んだのだった。

その短い1回の出場時間の間に、各選手は猛烈に走り回るといわれ、息が切れる前に次のセットへ交代して体力の回復を図る。結果、ピッチ上では常にハイテンションのプレー展開を維持できるというカラクリだった。

こうした情報が伝わり、日本の競技フットサルも「セット」戦術を取り入れようとしたのだが、それでも一つのチームがしっかりした2セットを作れるほど、力のある選手を集めるのは難しかったようだ。やはりレギュラーと目されるファーストセットの出場時間が長く、力が落ちるセカンドセットがそれを補完していくという構図は、なかなか変わらなかった。

しかし、Fリーグがスタートしてからは、そうした状況もだいぶ変化してきたように思う。程度の差こそあるものの、各チームがいい選手をそろえるように努め、きちんとした人数で練習を行う。つまり、練習に人数がなかなかそろわないといわれたそれまでの競技フットサルと違って、ファーストセット対セカンドセットでがっつり紅白戦ができたりするわけだ。

Fリーグという環境を整えたことで、チーム内の各選手の実力が、高いレベルで平均化される事態が起こってきた。Fリーグになってからは、セカンドセットのパフォーマンスがよくて決まった試合も多く存在する。もはやレギュラー、控えという感覚ではない。

また、セットに対しての戦術も多様化してきていて、長いシーズンを乗り切るために、各セットのメンバーを固定せず、敢えて毎試合セットのメンバーを変えてくるようなチームもある。9人目、10人目のフィールドプレーヤーも加えた、サードセットやフォースセットを用意するチームも出てきている。

試合の状況によっては、攻撃的な選手の人数を増やしたり、守れる選手を多く投入したりして、セット間で選手を入れ替えたりなどして、予め用意していたのと違う体勢で戦うことになる場合もある。以前なら間違いなくピッチ内で混乱が起きていたところだが、今では選手たちもそつなく対応できるようになってきた。

まだまだ進化しそうな、「セット」に絡んだフットサルの戦術。今後のフットサル観戦の際には、各チームの「セット」を意識してみてください。

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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