第5回 「トーキック」

トーキック…足のツマ先部分で蹴るキックのこと。小さい足の振りで、鋭いボールが蹴れるため、相手の意表を突きやすい。スペースが狭く、1プレーに時間をかけられないフットサルでは、特にシュートシーンなどで有効なプレーとされている。


フットサル=「足裏」と「トーキック」。これはフットサルのプレーを語る際に、古くからよく使われてきたフレーズだ。

「足裏」については、このコラムの第1回目で書かせてもらった。で、今回はもう一つの「トーキック」なのだが、最近日本でもトップレベルのゲームでは、意外にもあまり見られなくなってきているのである。

足のツマ先の硬い部分で蹴るトーキックは、小さい足の振りでも鋭いボールが蹴れる利点がある。そのためGKの反応のタイミングをズラして、GKの足元や肩越しを突くシュートシーン。あるいは非力な選手が、やや距離のあるところからシュートを打つ際にも、多用されていたところがあった。

サッカー経験のない、特に女性のフットサル初心者などにとっては、ボールを簡単に足元に収めやすい足裏トラップとセットで、結構強いボールが蹴れるトーキックは、ハマリやすいテクニックでもあると思う。

一方でトーキックはツマ先で蹴るので、ボールをミートするのは足の中の「点」になるわけだ。その分、足の中の「面」で蹴るインステップキック(足の甲)やインサイドキック(足の内側)に比べて、正確性をつけるのがとても難しい。

事実、日本の競技フットサルの世界でも、トーキックでのミドルシュートを放ち、スピードや威力は十分なのだが、ゴール枠を外れてしまうといった場面は、これまで何度も目にしてきた。

現在、例えばFリーグなどでは、中距離以上のシュートでトーキックが使われるのは極めて稀である。ハッキリ多用しているのは、デウソン神戸の伊藤雅範くらいではないだろうか。

ほとんどの選手が、そうした場面ではインステップキックでシュートを打っている。競技フットサルの選手たちがパワーアップして、中距離以上からでもインステップで十分にゴールが狙えるようになったからだろう。また狭いフットサルゴールをピンポイントで狙うには、トーキックよりも正確性のあるインステップのほうがいいという判断もあるのだと思う。

では、GKの反応のタイミングをズラすほうのトーキックシュートはどうだろうか。しかし、これもGKの対応力が向上したのだろう。素早く伸ばした足などに当たり、はじかれるシーンが目立つ。こちらでも使われる場面は、だんだんと減ってきているように見える。

元々、「足裏」「トーキック」といった技術は、南米で盛んに行われていたフットサルの前身競技のサロンフットボールから来ているという話がある。

サロンフットボールでは今の4号球のフットサルボールよりさらに小さい、ハンドボールサイズのボールを使っていた。この小さいボールを止めるには、ボールをつかむように使える足裏が大変便利だった。また足を真っすぐ立てるようにして蹴るインステップキックは、この小さいボールでは蹴りにくかったので、同じように強いボールが蹴れるトーキックが多用されたというのだ。

「足裏」を使うプレーは、フットサルになっても相手との近い距離感や、強いパスを正確にコントロールしなければいけない条件などから、必須のテクニックとして行き残った。しかし、「トーキック」の場合、フットサルボールは確かに小さいが、インステップキックが蹴りにくいほどのサイズではない。そのため、技術の一つのオプションとして収まりつつあるようだ。

むしろトーキックは、今は11人制のサッカーのほうで、よく見られるシュートシーンである。世界のサッカーシーンで、ブラジル人のストライカーたちが、GKが動けないようなタイミングをズラしたトーキックシュートを決め、他国の選手たちもそれをマネするようになり、トーキックシュートはサッカーのほうで必須技術になりつつある。

個人的には、日本フットサルはもっとトーキックの技術を極めて、ゴール前でGKにブロックされないような、テクニカルなシュートをたくさん決めてほしいと思う。

それは、前回の「ファー詰め」でも書いたように、いくらインステップで強いシュートが打てるようになったからといっても、面と向かってまともに打つパワー系のシュートには限界があると思うからだ。

Fリーグ2009で見事得点王に輝いた湘南ベルマーレのボラ。彼はトリッキーなトーキックシュートを結構決めているのを、忘れてはいけないだろう。

 

プロフィール
菊地芳樹(きくち・よしき)
1971年7月22日生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、学研に入社。サッカー雑誌、ゴルフ雑誌の編集記者を経てフリーに。現在は、サッカー雑誌「ストライカーDX」の編集スタッフとして働きつつ、他雑誌にもフットサルを中心に原稿を書いている。フットサルは90年代半ばより興味を持って取材し始め、これまで各媒体に原稿を書き、実用書も多く手がけてきた。フットサルの永続的な普及・発展に貢献したく、初心者からリピーター・マニアへの橋渡し役としての立ち位置を意識しています。
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