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現場編

「ガラン、ガラン」と黒いキャリーケースを右手で引き、左手には大きめの手提げの鞄を持ち目的地を目指す。

これは試合が開催される日の自分の姿です。わたしはある時期を境に、手提げの鞄にカメラやパソコンなどの機材を入れて持ち歩くことをやめました。きっかけは、昨年行われたある試合でのことです。

わたしは、いつものように肩から掛ける黒い鞄に機材を入れ、もう一つの鞄に資料や私物を入れて会場へ向かいました。会場へ着き、重たい2つの鞄を持ちプレス受付へと進むと、いつものようにガラスドアの向こうにある受付の入り口に警備のおじさんが立っていました。わたしは重い荷物のせいで思うように両手でドアを開けることができません。内心、ドアの向こうのおじさんに「立ってるだけなんやったら、ドア開けるくらい手伝ってよ!」と怒りにも似た叫びが心の中でバシバシと響いていたのですが、この警備のおじさんはゲゲゲの鬼太郎のぬり壁のごとく一向に動こうとしません。「おっさんよ、良心でドアを引くことくらいできひんのか!?」女性が必死で重たいガラスのドアを体で押して、やっと少し開いたと思ったドアの隙間に体を半分挟まれてしまい、にっちもさっちもいかない状態になっているのを、見てみぬふりをしている。この行為にイライラしていると、怒りのパワーが働いたのか、何とかドアを開けることができました。「まぁ、入れたし良いかな」と気が利かへんおじさんを心の中で許してあげ、受付へ向かおうとした、その時。さっきまでぬり壁と化していたおじさんが突如としてこちらに向かってきたのです。そして、荷物で塞がっているわたしの左腕を掴んで「一般のお客さんはここから入れません!」と一喝。その瞬間、わたしの頭の線はプチッ、プチッと音を立て怒りが大爆発しました。「どこにこんな大荷物抱えてフットサル観にくる客がいるねん!」とこれまた、心の中でいかにもガラの悪い関西人的なノリで怒ってしまったわけです。本音としては「何言うてんの、おっちゃん!」と言いたいところですが、そこは仕事ですからと思い、丁寧に「プレスの者です」と伝えました。とまぁ、普通の警備員の方なら失礼しました、と言うでしょう。しかし、このおじさんは「いやっ・・・」と言って腕を放してくれません。わたしは特別怪しい服装をしているわけでもなく、挙動不審でもない(と自分では思うのです)にも関わらず、頑なに腕を放してくれません。「いや、ですから。今日は、カメラとペンの両方の取材がありますので中に機材が入ってるんです」とわたしは入り口の警備のおっさんに、何故この日の取材内容や持ち物を説明しなあかんのやろ?と疑問に感じながらも説得をしました。すると、ようやくおじさんはわたしの腕から手を放してくれたのです。ただ、納得できないことに、当日の取材に入っていた他のプレス関係者に話を聞くと、誰一人としておじさんに止められることはなかったそうです。

と、実際はこんなこととは比にならないくらいに腹が立つことや苦労することがたくさんあります。それでも、週末になると熱が出ようとお腹が痛くなろうと、這ってでも現場に行こうと思ってしまいます。それは、やはり「現場」にしかない情熱が存在するからです。

先日、某Fリーグチームの広報の方と話す機会がありました。単に広報業と言ってもその仕事の幅は広く、チームに関するあらゆる仕事をされているそうです。その多くの仕事の中で何が一番好きですか?と訊ねたところ「現場が一番好きですね」との答えが返ってきました。その方曰く「自分が率先して動くのが得意だから」という理由が一つ。そして、もう一つは「当日は忙しくて大変ですが、仕事にすごくやりがいを感じます」と。

ホーム試合の開催当日、現場は非常に慌しくピリピリした雰囲気が漂っています。関係者は全員その日の試合を無事に終えることを念頭に、決められた作業に加えイレギュラーな事態にも対処しなければなりません。こちらから声をかけるのが申し訳ない程の忙しさです。ただ、これはチーム関係者に限ったことではありません。例えば、カメラマンは何十キロもある重たいレンズを毎回現場まで担ぎ、高速の流れ球が頭上をかすめようとピッチサイドでシャッターを押し続けます。ライターは一瞬でもプレーを見逃さないよう目を凝らしながらメモを取り、試合が終れば選手のコメントを取り、速報の原稿を書き始めます。現場では誰もが忙しく動いていて、全員がそれぞれの仕事にもの凄い集中力を持って作業しています。その真剣な作業から滲み出る仕事への情熱が、わたしを「現場に行かなければ」と駆り立てる要因となっています。それぞれの情熱が集中して発散される場所が現場なのです。シーズンオフの今、試合前の選手から伝わる緊張感や観客の声援、活気あるチームスタッフ、必死で速報原稿を打つ人たち。そんな現場の空気が少し懐かしく思います。